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華城晴虎(2)

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 パーフェクトマッチ。
 マッチング数値が100%の相手。
 それがなんと、俺と夜凪さんはそのマッチング数値100%のパーフェクトマッチ相手なんだって。
 ……確かに……昨日から体がとても楽。
 俺のスピリットアニマル“晴”も昨日の皮膚接触だけのケアで80%ぐらいまで回復している。
 そのせいなのか、頭が結構スッキリしてるな?
 もしかして、明人がいなくなってから俺の脳や感覚はケアを受けられないと思って、省エネモードになっていたのだろうか?
 自分がそこまで器用だとは思わなかったけれど……でも、確かに頭が冴え渡っている感じがするのだ。
 決定的に、昨日までとは違う。
 なにが明確に違うかと言われると――ジョルジュが目の前に現れたら冷静に殺したいと思うところ。
 どう殺そうか、頭の中で何度もシミュレーションしている。
 花ノ宮ジョルジュ、お前に会ったら――俺は自分の命と引き換えにしてでも殺すよ。
 
「それになにより、ただの皮膚接触で華城のストレス値が50%まで下がってる。スピリットアニマルも中型にまで回復しているし……やっぱりマッチング数値が高いと皮膚接触だけでここまで回復するんだな。とはいえ、夜凪のストレス値は上がっているから要休息のままだな。華城もできれば一緒に休んでほしいストレス値になってんだけど」
「まだ平気」
 
 スピリットアニマル――精神の数値は安定してるし回復しているのか。
 晴も機嫌よさそうだし、大きさもだいぶ戻ってるから視認しただけでも回復しているのはわかるけど……それとストレス値は別物だからな。
 それはわかってるけど、体感まだ大丈夫だと思う。
 むしろ……外に出てジョルジュを探したい、ような。
 
「いや、一週間くらい休め。今サーナインも戻ってきてるし、二人で温泉でも行ってきてもいい。なんなら提携してる温泉宿こっちで手配しても……」
「夜凪さんは行ってきてもいいと思うけど、俺は大丈夫」
 
 夜凪さんは昨日、俺のケアをしてかなり疲れていると思う。
 ガイドはセンチネル系能力者にケアを施すと疲弊してしまう。
 元々ストレス値が高かったって言ってたし、夜凪さんは温泉行ってゆっくりしてきた方がいいと思うけど俺はジョルジュ探したい。
 
「お前なぁ……最後に休んだのいつだ? 言えるか? あ?」
「え、あ……ゥッ……」
 
 ぎろり、と華之寺先生に睨まれる。
 最後に休んだ日……!?
 えーと……えーと……考えるの苦手なのに、急にそういう質問されると困る……!
 
「よし、ドクター命令。お前ら一緒に温泉に行け」
「「え!?」」
「あ、でも一応華城と粘膜接触でケアするなら気をつけ……」
「しないから!」
 
 なんてことを言うんだ!
 しかも温泉一緒に行け、なんて言ったあとで!
 粘膜接触なんて――そんなの!
 
「あれ、華城くんケア受けていかないの?」
「行かない」
「珍しく機嫌悪くね? どうしたんだろ?」
「スピリットアニマルは調子よさそうだけど」
 
 医療フロアのガイドや看護師さんには八つ当たりみたいにして申し訳ないけど、全部華之寺先生が悪い。
 エレベーターに乗って、さっさと部屋に戻ろう。
 あ、でもお腹空いたから先に食堂でなにかお腹に入れてこよう。
 はあ、温泉とか……無理。
 しかも夜凪さんと二人だなんて。
 
「お、華城」
「槙さん……」
 
 エレベーターに入ってきたのは槙さん。
 ああ、今絶妙に会いたくない人に……。
 
「体調は? 昨日、精神具現化能力を使ったんだからもっとちょうさ悪いのかと思ったけど……元気そうっていうか、昨日よりも調子よさそうだな?」
 
 槙さんが見下ろすのは晴。
 それはそうだろう、昨日よりも体が大きくなっているんだから。
 観念して先程華之寺先生に言われた診断結果を伝える。
 同じ実働部隊のパーシャルだし、俺と相性のいいガイドが現れたとなれば槙さんに烏丸を返してやれるし。
 
「あの子がパーフェクトマッチのガイド!? マジか! よかったじゃないか!」
「うん……」
 
 槙さんはまた烏丸とバディ組めるもんね。
 そりゃあ喜んでくれるだろうね。
 バシバシ背中を殴られる。
 なんとなく積年のなにかを感じる殴り方だなぁ。
 
「俺と多喜もパーフェクトマッチ診断なんだけど、測ってると数値が常に変動するの不思議だよな」
「ああ、そういえば……俺もさっき華之寺先生に計ってもらった時97%って言われた」
 
 安定した90%以上の数値の相手はパーフェクトマッチって言われる、んだっけ。
 検査の度に変動してしまうのか。
 なんでなんだろうね?
 
「それでも初手から97%は高いな。これでお前も完全復活か。お前と相性がいいならサーナインとも相性がいいかもしれないし、うちのエースたち両方が復活したら夜勤も楽になる。久しぶりに居酒屋でビール飲みに行けるかも」
 
 居酒屋行ったことないけど、大人の人ってなんでこんなに居酒屋でビール飲むの好きなんだろう?
 烏丸も居酒屋見かけると「久しぶりに居酒屋で生ひっかけてぇ」って言うけど……ビール、泡っぽいし苦いし炭酸だし苦手だなぁ、俺?
 
「でも、あの子――その、お前の……挿入るのか?」
「!?」
「粘膜どころかお前キスも嫌がってたから、多喜も無理にはしてこなかったらしいけど……パーフェクトマッチの子なら専属になってもらうんだろう? ボンド契約は一生のことだしすぐには決められないけど、お前の蓄積した疲弊感はガイドと粘膜接触のケアが必須だろう? 一発しておかないと蓄積されているダメージは残り続ける」
「無理。挿入らない。しない」
「うーん……だったらフェラしてもらえば? フェラも一応“粘膜接触”に該当するし。俺も多喜の体の準備ができてない時は口にお世話になったからさ」
 
 ふふふ、と自慢してくる槙さんがうざい。
 どうしよう、槙さん、烏丸と付き合い始めてからほんとにウザくなったな。
 入社した頃の槙さんはこんな人じゃなかった。
 ギラギラして尖ってた。
 今ではすっかり……いや、いいけど。
 でも、そうか……口でシてもらうのも“粘膜接触”になるのか。
 口なら……まあ、お尻に挿入れるよりは負担もないかな。
 いや、でもやっぱり男のモノとか咥えるのは嫌でしょ。
 夜凪さんは今までミュートとして生きてきたんだから、ガイドとしてどんなことするのかも知らないだろうし……ドン引きされるんじゃないの?
 
「でも恋人のお尻をゆっくりほぐすのも、恋人の特権だし、慣らすのもコミニケーションの一つと思えば楽しいぞ。俺はやりすぎて叱られたけど、怒ってる多喜はそれはそれで可愛いというか」
「うん……その話まだ聞かないとダメ?」
 
 知り合いのそういう話はキツイよぉ。
 晴がわかりやすく威嚇してるってぇ。
 耳イカ耳になってるじゃん。
 
「それに、夜凪さんが他のセンチネルやパーシャルの専属になりたいって言ったら……俺、引き止めようないし……槙さん気が早いって思うよ」
「ああ、まあ、確かにそれは……そうだけどな」
 
 結局食堂の階についても、エレベーターホールでれそんな話をする。
 世間一般では「相性のいいガイドとバディになる」のは当たり前。
 それがパーフェクトマッチなら尚更。
 でも、うちの会社は本人の心を最優先にされる。
 槙さんも烏丸に告白されて付き合い出すまですごいもだもだしてた。
 むしろそんなもだもだしてたから、烏丸から告白したんだったし。
 相性がいいから価値観があって恋人になれるかどうかは話が別。
 恋人と相棒は別っていう考え方の人もいるし、実際両立させてる人もいる。
 辰巳さんとかね。
 あの人は今まで付き合ってきたセンチネルとパーシャルに依存されすぎて片目をボールペンで刺されたらしい。
 それ以来、フリーのガイドとして“ビジネス”と“プライベート”はしっかり分けることにしているという。
 説得力が違う。
 
「口説くつもりないのか?」
「んー……恋人とか……作る気なかったし……作れる気しないし……」
「お前いい男なんだしもったいないよ」
 
 それにはなんにも返事ができない。
 俺は周りにそう思われているのか、としか思わないし。
 中身がない空っぽ。
 明人がいないと自分ではなにも決断できない。
 
 ――晴虎くん。君はなにが正しいと思いますか?
 
 知らない。わかんない。興味ない。
 明人だけが俺のすべて。
 それ以上もそれ以外もない。
 ねえ、それじゃダメなの?
 明人はジョルジュを自分の意思で殺したいと思って、その意思を上回る“性質”で殺せなかったよね。
 あれほど意思の強かった明人でも、自分の本質に勝てなかった。
 俺は俺の本質が母さんと同じ依存体質って知ってる。
 明人を忘れるのなんて一生無理。
 明人以上の誰かなんて、きっとこの先現れない。
 他のみんなが明人のことを過去の人にしてるけど、俺は過去になんてできない。
 忘れられないし、忘れない。
 明人より大切で特別なんて、俺にはいらないもん。
 恋人って、その人の“一番大切”になって、その人を“一番大切”にすることなんでしょ?
 それなら俺には恋人なんて一生無理でしょ。
 
「まあ、最悪猿渡に頼むとか」
「夜凪さんに負担かけたくない。しない」
「じゃあ自分で勉強しないとな?」
「だから……しない」
 
 口でシてもらうのも……夜凪さんの口元に戻らなくなったら大変。
 皮膚接触だけで十分です。
 
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