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手を取って

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「よかったですね、ゼオルガさん。今度はわたしがルナの実パンケーキを作ってご馳走しますよ」
「るなのみぱんけーき!? なんだそれ! 美味そうだな!」
「はい、うちのタータたちにも大好評なんですよ。リエマユさんにも作ってあげますね」
「ほんとぉ!? アンタほんとにイイコじゃん! ゼッタイよ? ヤクソクよ!」
「はい」

 天国か?

「……まさかマジでベヒーモスまでテイムしちまうとはな」
「ギルマス」

 近づいてきたのはギルマスたち。
 アンジェリィはまだ魔力が回復していないらしく、ベリアーヌにしがみつきながら歩いてきた。
 同じく、「もう近づいても大丈夫か?」とケイトと数人の騎士もやってくる。

「ほ、本当に『十壁』のベヒーモスを、テ、テイムしたのか?」
「できたみたいです」
「す、すごい! さすがエルン殿だ!」
「え! い、いやいや! たまたま? 偶然? う、運がよかったんですよ!」

 一気に大興奮になるケイト。
 だが、そういえばケイトも大概すごいことになっている。

「ケイトさんも、『勇騎士』になったんです、ね? それに、騎士団を指揮していたし……」
「ああ、それについてはなんというか……家族と話し合って、拗れたから父と長兄を『聖騎士』と『闇騎士』でぶん殴ったら取得可能になったんだ。どうやら『勇騎士』の取得条件に“誇りをなくした騎士団長の討伐”があったらしくてな」
「えっ」
「……その項目を満たしたから、取得できたわけなんだが……とても複雑だった」

 目が遠い。
 まあ、そうですよね、と力なく同意するしかないエルン。
 だが、そうして“誇りをなくした騎士団長の討伐”を達成し、『勇騎士』になったケイトは新たな騎士団長として国王に任命されたという。
 なんとケイトとケイトの父、前騎士団町の一騎打ちを命じたのは国王陛下。
 場を整え、成り行きを見守り、結果が出たらすぐさま命を下した。
 王命として下された内容は「トリニィの町を守り、ベヒーモスを討伐、あるいは追い払う」こと。
 これまで騎士団にいたわけではないケイトに、いきなり“騎士団長”など無理に決まっている。
 少なくとも軋轢は生まれるだろうからと、まずはケイトの実力を示すように仰られたらしい。
 ケイト自身も隊の指揮などやったことがないので、騎士団長自らベヒーモスに突進するというある種の“やらかし”をしてしまった自覚はある。

「帰ったら陛下に『私には騎士団長という立場は重過ぎます』と言って辞退するつもりだ。でも、陛下には『勇騎士』は勇者の一種故に私を放置するわけにはいかないと言われているから……このまま騎士団に関われればいいな」
「そうなんですね! おめでとうございます!」
「あ、ありがとう! エルン殿のおかげだよ。すべてのきっかけはあなたが【限界突破】のスキルで、私に騎士となる道を拓いてくれたからだ。だから——」
「!」

 ケイトが片膝をつく。
 頭を下げ、胸に手を当てる。
 それはまるで……。

「あなたに騎士の誓いを立てよう。ケイト・ジークティリアは、たった今よりあなたの騎士としてあなたを守ろう。あなたの剣として、あなたに立ち塞がる障害を切り裂き、道を開こう。どうか、あなたの騎士になることをお許しください」
「え、あっ、えっ!?」

 とんでもない事態に、辺りを見回した。
 当然だが誰も助けてはくれない。
 シャクティアがエルンの肩を叩く。

「断るのは野暮だよぉ?」
「うっ!」

 騎士の誓いは一生に一人だけに捧げられるものだ。
 それをエルンなんかに、という意味なのだが、ケイトは顔を上げるつもりがない。
 断るのは野暮。
 やんわりした言い方だが、その誓いを断るのはその騎士の汚点となる。
 ケイトが騎士に憧れ、騎士になれなくて苦しんでいたのは見た。
 その夢が叶ったのに、エルンがその想いを断るのは……。

「わ、わかりました。では、その、よろしくお願いします!」
「あ、ありがとうございます!」
「じゃあうちもエルンの“使い魔”になっちゃおっかなぁ~」
「や、やめてください、からかわないでください、ティア!」
「えー、割と本気なんだけどなぁ。魔人族と契約すれば魔力量もグンっと増えるよぉ?」
「し、しませんよ! 魔人族と契約したら対価に不老になるっていうじゃないですか!」

 そして契約を解消すると一瞬で老けて死ぬ。
 契約した翌日に契約解消してもそうなるのだ。
 恐ろしくて絶対に無理だろう。

「うふふ、モテモテね。『十壁』のクイーンラッキーエアリスとベヒーモスを召喚獣とし、勇者の一種たる『勇騎士』を騎士にして……あっという間にとんでもない人になってしまいましたね、エルンさん」
「エナさんも、からかわないでくださいよぅ」
「一度は、あなたは人間だからと身を引こうかと思ったけれど……やっぱり、諦めるのやめちゃおうかしら?」
「えっ」

 右にシャクティア。
 左にエナトトス。
 目の前には立ち上がったケイトが頬を膨らます。

(ど、ど、ど?)

 どうなっているのか。
 目がぐるぐる、混乱する。

「ではそろそろ帰りましょう! 皆さん! 魔獣大量発生鎮静化、お疲れ様でした!」
「「「ッしたーーーー!」」」
「後始末は俺たちがしておくから、シシリィはアンジェリィを連れて王都で諸々まとめて報告頼む。エルン! お前もだ! ベヒーモス……ぜオルガを連れて国王陛下に報告しろ!」
「えっ!? こ、国王陛下!?」
「当たり前だろう、二体もの『十壁』をテイムしたんだぞ? 本当はリエマユをテイムしたあとすぐ陛下に会わせるつもりだっが、陛下に会うには色々手続きと調整が必要だからな。今回の魔獣大量発生を報告するついでに、リエマユとぜオルガのことも紹介してこい」
「え、えええええっ……!」

 こりゃとんでもないことになった。

「大丈夫ですよ、エルンさん。わたしがご一緒します!」
「シ、シシリィさん!」
「ケイトさんは騎士団をこのまま率いてお帰りになるんですか?」
「あ、そうですね。騎士団の魔法使いは、みんな王都から我々を送り出してくれたので……」
「エナトトスさんとシャクティアさんはどうしますか?」
「そうですね、私は新しい迷宮の調査をしようと思っています。アクセサリーの新しい素材が見つかるかもしれませんし、魔獣大量発生の後の調査も必要ですしね?」
「じゃあうちもそうしようかなぁー。稼げそうだしねぇ~」

 と、二人が離れていくので、思わず溜息を吐く。
 シシリィがにこりと微笑むので、顔が赤くなった。

「では行きましょう、エルンさん!」

 手を差し出される。
 シシリィの手は、エルンをここに導いてくれた。
 その手を取るのに、気恥ずかしさが邪魔をする。
 けれど——。

「はい! よろしくお願いします!」






 終わり
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みんなの感想(20件)

A・l・m
2021.09.15 A・l・m

手を取って 回

冒頭の 天国か?

 天国なのはベヒーモスのゼオルガさんだろうけど、すぐ次の文から主人公に戻っている?ようなので、改行を増やすか、区切るかした方が?
それとも天国か?、が『あー、これ魔獣には天国なのかー。。。』の意味とか、美人が料理しに来てくれる事、が主人公の天国なのか。

わざと迷わせてるとかだとしても、ちょっとな、感がある。

というか、魔獣は兎も角、テイムした魔獣とかの限界突破は。。。いける?

解除
A・l・m
2021.09.07 A・l・m

完結おめでとう!

だがこれは『一巻の終わり』に過ぎない!(たぶん)


解除
A・l・m
2021.09.04 A・l・m

戦闘と生産が女神の与えた力、か。。。

レシピ与えてちゃんとやれれば、魔獣都市とか魔獣街とかそんなのも出来そうだ。。。
(酔っぱらい魔獣とか食い逃げは出るかもだけど)


主人公。。。料理習え!

解除
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