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エルンのステータス 2
しおりを挟む(『神獣使い』の条件は……自我を持つ上位の魔獣を最低一体使役していること。女神への祈りを欠かさないこと。十壁級の魔獣を一体でも倒すこと。……よかった、俺には無理だ)
思わず安堵する。
女神への祈りなんて生まれてこの方したこともない。
そんな余裕なかった。
それに、十壁級の魔獣とはつまりベヒーモスやドラゴン級の魔獣を倒すということだ。
無理無理。無理である。
笑ってステータスを閉じようとするが、一応、メイン職を『魔法使い見習い』に変更しておく。なんとなく。一応。
(『魔法使い見習い』の[魔法使い見習い卒業の試練]は、最大魔法を全魔力で放つ。……俺のちゃちい魔力量では、そもそも『魔法使い見習い』が覚える最強魔法[五属性融合弾]も、大した威力ではないんだよなぁ…………ぁ)
ははは、と自嘲気味に笑っていたが、以前自分が考えたことを思い出した。
基礎スキルの存在だ。
見習いと同様に、職業の基礎スキルはレベル10までしか上がらない。
それ以上は、そこから派生していくスキルをレベルアップさせて、新しいスキルを覚えていく。
そして『魔法使い見習い』で覚える基礎スキルは[魔法基礎]という“魔法を使えるようになる”スキル。
「…………」
当然[魔法基礎]のスキルレベルは10。
これは魔法を使えば勝手にレベルマックスになる。
昨日、トリニィの迷宮に入ってから『魔法使い見習い』『魔獣使い見習い』の職業レベルと共に、基礎スキルも上限を上げていたため現在のスキルレベルは55。
本来ならばあり得ないレベル。
これでなにが起こるのか、エルン自身もわからない。
(でも、魔獣の群れの展開の広範囲っぷりは……)
エルンの両親も魔獣大量発生で犠牲になった。
トリニィの町で農夫をしてた父と、大将と女将さんの宿屋で従業員として働いていた母。
父の作る野菜は宿に卸しており、家族ぐるみで付き合いがあった。
だからエルンはそのまま宿の大将と女将さんに引き取られて、ナットと兄弟同然に育てられたのだ。
そして、父と母が死んだ原因はトリニィの町に入り込んだ魔獣の群れの、ほんの一部。
鳥型の魔獣や、地面を掘って進む魔獣などが町に侵入し、住民を襲ったことが原因。
魔獣大量発生とは、そういうもの。
町に戦力を残すのも、近隣の村人を避難させるのも、それが理由。
(……うん、やろう。俺が生まれ育った町だから。俺が守ろう!)
町の人はみんな知り合いだ。
立ち上がって、ステータスを閉じる。
魔獣大量発生はすでに開始しているのだ。
いつ町に魔獣が現れるかわからない。
(アンジェリィさんが使っていた結界の魔法が、俺にも使えればいいんだけど。俺が今覚えているのは簡易な底結界[防御壁]だけだからな。でも、これを応用すれば町を守れるかもしれない。町のことが心配なければ、ベリアーヌさんやシシリィさんも気兼ねなく戦える……!)
外壁に[防御壁]を施そう。
ないよりマシである。
「ちょ、ちょっと、どこへ行くんですか?」
「外壁に[防御壁]を張ってきます。外壁の強度が上がりますし、見回りも兼ねて」
「うっ……そ、そうですか」
ギルドの中にも冒険者は残っている。
それなのに、トリニィのギルド受付嬢の不安そうな表情。
彼女もまだ年若い。
エルンの両親が亡くなった“前回”の魔獣大量発生を、ほんの少し覚えているのだろう。
その恐怖ゆえに、王都のギルドから来たエルンに、あんなすがるような態度を取ったのだ。
「あ、ええと……このギルドの中には冒険者もいますし、間もなく町長たちや、町の自警団の人も来ると思うから、大丈夫ですよ」
「……わ、わかっているわ。でも、今はデンゴたちがいないし……」
「そう、ですね……」
デンゴたち。
今はコロシアムでもがいている頃。
しかし、故郷が魔獣大量発生の危機に瀕していると知れば、ギルマスがかき集めている『応援』に挙手してくれる——はず。
トリニィの町にとってデンゴたちは英雄だ。
(わかる。俺もそう思ってた)
彼らが来てくれればと思う。
いかに立派な肩書きを持つベリアーヌやシシリィがいても、不安げに俯くトリニィの冒険者たちを上向かせることは無理だ。
こればかりは長年の“実績”というやつだろう。
デンゴたちが来てくれたなら。
「た、大変だ! 迷宮からまた大群が出てきた! 前線が下がってきて、もう柵の側まで来ている!」
「な、なんだと!?」
「!? べ、ベリアーヌさんやシシリィさんは!?」
「王都から来たギルド職員二人も柵のあたりまで後退してきている! 町にいる冒険者全員、外壁に登って備えろって! 溢れた一部が外壁の側まで来ているんだ!」
「そ、そんな……」
「く、くそっ! 王都からの応援はまだ来ねえのか!」
「っ」
予想以上に魔獣たちの侵攻が早い。
ベリアーヌとシシリィ、リエマユが戦っても押されている。
これこそが数の暴力。
王都からの応援がいつ来るのかわからない上、向こうはこちらの状況を知る術もない。
こちらも、状況を王都に伝える術がない。
もしまだ向こうが「時間はあるだろう」と考えていたら、応援が来るのはトリニィの町を魔獣が踏み荒らしたあとになる可能性も——。
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