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町を守るために 4

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「な、なるほど。なら、その誤解はすぐに解けそうで——」

 シシリィがエルンを見る。
 が、その横にはラッキーエアリス族の長、クイーンラッキーエアリス。
 沈黙が流れる。

「う、うーん」
「ま、まあ、だとしても他人の召喚獣を金儲けのために渡せ、なんつー要求には応えなくていいだろうな!」
「で、ですよねぇー!」
「ですよね!?」

 クイーンであるリエマユの角は蘇生効果と言われている。
 求める者は後を絶たないだろう。
 シシリィの神妙な面持ち。
 言いたいことはわかる。
 エルンの【限界突破】は世界初でエルンそのものが、金級スキル持ちというレアな存在。
 それに加えてクイーンラッキーエアリスを——しかも喋る——テイムして召喚獣にした。
 クイーンラッキーエアリスからもたらされる情報の数々は、新事実ばかり。
 控えめに言ってここにいていい存在ではない。
 それでもここにエルンがいるのは、ギルマスの指示と護衛としてシシリィ、ベリアーヌがいるから。
 そしてクイーンラッキーエアリスに強い自我があり、その強さはドラゴン級。
 しかし、魔獣大量発生今回の件が終わったら、エルンとリエマユの扱いは変わるだろう。
 特にリエマユに関しては、魔獣の情報を根掘り葉掘り聞かれることになる。
 魔獣たちに意思があり、上位の魔獣には自我と知性もあり、固有スキルまで与えられているという事実は、それだけでこれまでの固定概念を変えてしまう。

「エルン、お前なにやらかしたんだよ?」
「お、俺はなにもやらかしてないよ」

 すべては女神の思し召し。
 そして、固有スキルが発覚したあとも「使い道のないゴミスキル」「誰が使うんだそんなスキル」と認定して、活用方法を見出せなかったトリニィの町の冒険者ギルドの残念さ。
 田舎と孤児ゆえに、自分で調べることも思いつかなかったエルンの無知っぷり。
 不運な事柄が重なったがゆえ、である。
 多分。

「こほん! ま、ラッキーエアリスの話や騎士団の話は、とりあえず置いておくな。頼れねーもんにグダグダ言ってても仕方ないからな!」
「そうですね。残念ではありますが、目先の危機を乗り越えることが最優先です。近隣の村人が集まり始めたら、万一に備えて彼らにも最低限身を守る術を——」
「た、大変だ! 魔獣の群れが迷宮から出て来たぞ!」
「「「!?」」」

 扉を叩き壊さんばかりの勢いで飛び込んできたのは、外壁のさらに外側に柵を作っていた冒険者。
 迷宮の入り口を監視していた冒険者が大慌てで戻って来たと、表を指差して叫ぶ。

「思いの外早く動きやがったな……!」
「これは困りましたね。まだ近隣の村人の避難も、隣町からの食糧も、王都からの応援も間に合ってないのですが」
「しゃーねーな。まずは出鼻を挫くしかないな! 第一陣を迎え撃つ! 前衛組はついて来な! シシリィ、第二陣と後衛組の指揮を頼むぜな!」
「はい、了解しました。エルンさんは町長さんに報告して、町の人たちの後方支援をお願いします。戦うことのできない人は、この建物内に避難させてください」
「わ、わかりました!」

 ベリアーヌとシシリィの顔つきが一瞬で変わった。
 二人は知っている。
 魔獣大量発生がどういうものなのかを。
 迷宮に潜るのとはわけが違う。
 無数の魔獣が広大な“外”に統率の取れた状態で押し寄せる。
 昼も夜もなく、倒しても倒しても終わりが見えない。
 戦える者も戦えない者も関係ない。
 獲物を喰うことしか考えていない獣の大群を、いつ終わるともわからないまま、倒して倒して倒し続けねばならないのだ。
 終わりが見えないという精神的疲労。
 戦い続けなければ自分自身すら守れない、肉体的疲労。
 魔獣大量発生で戦うということは、そういうこと。

「第一陣は柵にすら辿り着かせません。大丈夫です」

 トリニィの町に集まっていた冒険者たちも空気が一変。
 立ち上がり、ベリアーヌの後ろへついていく。
 その空気に及び腰になっているのは、まさかのトリニィの町の冒険者たち。
 これから魔獣が大量に押し寄せる場所へ行くことを、躊躇っている。
 誰だって命が惜しいのは当たり前だ。
 トリニィの町は田舎だし、この町のギルドは銅級。
 冒険者も銅級が平均という、平和といえば平和なところ。
 一番級が高い冒険者だったデンゴたちが王都にいる今、トリニィの町に残っている冒険者たちは彼ら以下の比較的その日暮らしができればいいという、あまり出世欲がない者たち。
 それでも自分たちの町が危険に晒されている。
 エルンですら「自分にできることを」と思っているのに、町の冒険者がこれはちょっと情けない。

「ごしゅじん」
「リエマユ?」
「“でばな”をくじくのはさんせいだわ。アタシもあのケモミミチチオンナといっしょに、ゲイゲキしてくる」
「チッ……!」

 みんなが思ってても、あえて言わなかったことを。

「まあ、リエマユさんもご一緒してくださるんですか? 心強いですが、リエマユさんにとっては同僚では? よろしいのですか?」
「ヘーキよぉ。もともとランダムであの“めいきゅう”にきてたんやもの。ベヒーモスも一回やられたヤツが“サイタン”したヤツだし? それがエラッソーにアタシにメーレーしてきたのも、ちょっとムカついてたの。ごしゅじんにテイムされたときから、どうほうとたたかうのはかくごのうえだし、よわいヤツにはヤキいれてやるわ」
「そ、そうですか」

 やきいれる、は、よくわからないが、なぜかとても怖いと思った。
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