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クイーンラッキーエアリス

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「ボス部屋の扉が……!」

 蔦で覆われた扉。
 これでは逃げられない!

「くっ!」
「やるしかねぇみてぇだな」
「はんっ! 根性見せてやるな!」
「エルンさんはタータと扉を開けないか、試してみてください。私も前へ出ます」
「シ、シシリィさん……!」
「みゅ、みゅーん!」

 空間倉庫から取り出した愛剣を抜くシシリィ。
『剣聖見習い』として本気を出す、ということだ。
 それほどの相手。

「っ! タータ、入口が開かない試そう!」
「みゅ、みゅー」

 言われたことを、せめて。
 そう思って蔦をナイフで切るが、たちどころに再生する。
 後ろでは戦闘が開始。
 爆発音や打撃音、風切音。
 恐る恐る振り向くと、黒い小さなものが凄まじい速度で縦横無尽に空中を駆け巡っている。

「な、なんだ、あれ……」

 基本は直進。
 しかし突然空中でガクン、と方向を変える。
 その速度と角で剣や拳を弾き飛ばし、アンジェリィの魔法も避けていくため攻撃が当たらない。
 対してギルマスたちは体当たりと角の突進でじわじわと削られていく。

(これがドラゴン級——危険度赤、強さ基準10の魔獣……!)

 英雄級である白銀、白金級の冒険者が四人揃っても手こずる。
 いや、ここへ来るまでにかなり疲弊していたせいもあるだろう。
 丸一日歩き詰めで、ボス部屋を連戦。
 ここに来てのクイーンラッキーエアリスだ。

(なにか、俺にもできることは……!?)

 入り口はダメだ。
 蔦の再生が速すぎて、『魔法使い見習い』で習得した火魔法でもおそらくすぐに再生してしまう。
 なら、他には?
 ステータスを開くと、タータがエルンの頭に飛び乗って「みゅーん!」と手でなにかを指す。

「え? これ? ……なんだこれ……? 俺、こんなスキル取得してないような……?」
「みゅんみゅんみゅーん!」
「わ、わかった! わかった、試してみるから頭の毛齧らないで!」

 じょり、じょり、ぶちぶちぶち、とかなり嫌な音が頭上から聞こえてきて若干泣く。
 やることがえげつなさすぎないか、この小型魔獣。

「でも、それには足止めしないと。タータ、頼める?」
「みゅん!」

 頭の上からタータが地面に飛び降りる。
 と、その瞬間脱兎の如く。
 凄まじい速度でクイーンに突進した。
 ラッキーエアリスは脚が速い。
 速度で翻弄し、逃げる。
 だから捕らえることはおろか、テイムは本当に難しい。
 シシリィがタータをテイムして召喚獣にできたのは、ギルド内にある星緑樹から生まれたラッキーエアリスだったから。
 逃げ場がなく、シシリィが強かったから。
 その逃げ足を攻撃に転じたのがクイーン。

「みゃ!」
「みゅん!」

 正面衝突の音。
 小柄なラッキーエアリスが、中型犬くらいあるクイーンの側面に思い切り体当たり。
 人間では困難なことも、タータならできる。
 その一瞬を、エルンは逃さなかった。

「魔声——」

『魔獣使い』専用スキル、魔声。
 人には聴き取れない、魔獣にのみ聞こえる声。
 効果は魔獣との、対話。

『攻撃をやめてほしい。俺たちはもう帰りたい。扉を開けてほしい』

 魔獣にかける言葉は簡素に伝える。
『魔獣博士』の職で学んだこと。

『アタイの縄張りに入ってきて、勝手なことを!』
『わかってる。でも、これ以上戦いたいわけじゃない。俺たちは、調べに来ただけなんだ』

 思っていた以上に流暢な言葉が帰ってきた。
 少し面食らったが、事情を話すと『調べる!? なにを!』と叫びまたすぐさま高速移動を始める。
 タータは一撃、体当たりを入れただけでシシリィに回復魔法をかけてもらわねばならないダメージ。
 これがクイーン。
 これがドラゴン級の力。
 なんとしてでもここで説得しなければ、全滅も考えられる。

『この迷宮を調べにきたんだ。人間にとって危険じゃないか、迷宮から魔獣たちが大量に外へ出てこないか』
『ああ、そういう計画はあるみたいだね! アタイは興味ないけどさ!』
『え! 計画!?』
『そうさ! ここより上の奴らが計画してる! 人間を食い散らすんだってさ!』
『そんな……!』
『…………』

 ピタ、とクイーンが足を止める。
 ギルマスが攻撃しようとしたのをエルンが慌てて「待ってください!」と止めて、クイーンに『もう少し詳しく教えてくれたり、する?』と聞いてみた。
 クイーンは少し、悩んだ末に口の端を釣り上げる。

『アンタが隠してるスキルを、アタイに使ってみな』
「!」
『アンタ、他の奴らと少し違うね。アタイと対話しようってことは、アンタきっと“魔獣使い”だろう? ……アンタ、アタイを迷宮ココから出せる?』
『……っ』

 でなければ、魔獣大量発生スタンピードに混じって外へ出る。
 と、暗に告げてられているのだ。
 クイーンラッキーエアリスはドラゴンと同等の強さと危険度。
 そして
 どういう仕組みかはわからないが、このクイーンはきっと、本当は外へ出たかったのだ。

『……うん、一緒に行こう』
『!』

 手を伸ばす。

「メイン職を『魔獣使い見習い』に設定。『魔獣使い見習い』専用スキル、[見習い卒業の試練]を発動!!」
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