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エナトトスの夢

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「みゅんーん」
「あ、そうだな、食べよう!」

 運ばれてきた料理をうっかり忘れていた。
 タータに頬をぺちぺちと叩かれ、思い出して食事を開始する。
 種族が違っていても美味しく、楽しく食べられ、しかも安い。
 さすがはシシリィノートおすすめの店だ。

「そのノートホントいいよねぇー。冒険者用の手引書みたいに、買えたりしない?」
「私もほしいぞ! シシリィ殿には、是非ご検討願いたい!」
「売っていただけるのならワタシもほしいです」
「ギ、ギルドに帰ったら相談してみます」

 店を出るなり三人が口を揃えてそう言うので、ノートを眺める。
 冒険者用の手引書はギルドで何種類か販売しているものだ。
 主に『進級試験について』『依頼について』『初心者におすすめの迷宮や装備』『コロシアムについて』など。
 王都の地図、王都周辺の地図なども売っている。
 ただ、王都のお勧め武具屋、食堂、宿屋などが書かれたものはない。
 シシリィノートに「おすすめは書いてありますが、人によっては別な店の方が店主と相性がいい場合もあるので、そこは見定めが必要です」と噴き出しの中に書いてある。
 また、他にも「おすすめ店だけを紹介し続けると、他のお店の営業妨害になりかねません。お店を直に見ることで、そのお店のいいところを把握しましょう」とも。
 確かにシシリィのノートにある店は複数。
 その中でお得な店もあれば、高級でその分性能重視な店もある。
 受付の人たちも「いい店知らない?」と言われると「ご予算や、お泊まりの宿はどちらですか?」など、冒険者の予算や都合を考慮して案内していた。

(……受付さん、やっぱすごい……)

 しみじみと、改めてそのすごさに無言で頷く。

「む」
「?」

 ギルドへ戻りながら、残りの店も見ようと地図と現在地を確認しているとケイトが槍を背中から下ろす。
 エナとティアもケイトと同じ場所を睨んだ。
 五人——いや、もっとだ。
 どんどん建物の間から武装した男たちが出てくる。

「ヨォヨォ、珍しい生き物連れてんじゃん」
「しかもエルフと魔人までいるぜ」
「男と騎士は殺していいだろ。エルフと魔人は娼館行きだな」
「ヒヒっ……売る前に楽しめそうだなぁ」
「魔人はまだガキだけど、それはそれで……」

 卑下た笑い。
 ナイフや剣、弓矢まで持っている。
 知らないうちにゴロツキの縄張りに入り込んだのだろうか?
 ノートにも「しょっちゅう縄張りが変わるので、ご近所のお店に聞き込み必須」とある。

「ならず者か」
「ラッキーエアリスも目的のようですね」
「レア魔獣だもんねぇ、ラッキーエアリス。装備するだけで幸運値が30もアップするラッキーエアリスのつのは、切っても生えてくるから、生け捕りは基本だしねぇ」

 そうなのだ。
 ラッキーエアリスには二本の小さな角がある。
 それを切ってアクセサリーにして装備すると、幸運値が30もアップするのだ。
 これはすべての幸運値アップアクセサリーの中で、不動の一位。
 ただ、角はラッキーエアリスの寿命の塊とも言われており、生えてきても二、三回。
 最低でも三回、切り落とすと衰弱して死んでしまう。
 ラッキーエアリスはレアとはいえ魔獣。
 魔獣が死ぬことなど、誰も気にしない。
 だから誰もラッキーエアリスの角を切ることを“悪いこと”だと思わない。
 それでもこのタータはシシリィの召喚獣。
 我が強くて生意気で、シシリィのことが大好きなのをエルンは知っている。

「タータは預かっているだけです。渡すわけにはいきません」
「みゅんみゅーん、みゅんみゅん!」
「あとアンタら臭いってさぁ。風呂入って体ちゃんと洗った方がいいんじゃないのぉ?」
「「「「なんだとおおおおっ!」」」」

 タータ、本当に口が悪い。
 ティアが通訳したせいで、余計に挑発してるように聞こえてしまう。

「降りかかる火の粉は払うのが定石ですね。ここは我々に任せてください」
「そうそ。護衛だしねぇ、うちら」
「ならず者ども! このケイト・ジークティリアが成敗してくれる!」

 ぺろり、とティアが舌舐めずりする。
 ゴロツキん完全に経験値としてしか見ていない。
 しかし、気になるのはエナ。
 杖も弓も持っていない。

「大丈夫です。エルンさんのおかげで、『装飾師』になれたんですから」
「え?」

 それとなにが関係して——と声に出そうとした時、エナが腕輪を見せる。
 槍のような装飾がついている、金の腕輪。
 その小さな槍のような装飾にエナが触れると、光を纏って先端が尖ったロッドが現れた。
 これは突く殺傷能力が高いぞ。

「な——!?」
「なにそれすごーい!?」
「ワタシが開発した装飾品型の魔法具です。エルンさんがワタシに『装飾師見習い』の職業を与えてくれたから、試作することができたんです。ワタシ、ずっとこれを作りたかったんです。アイデアはあるのに、それを実現する手段がなくて……毎日毎日歯痒い思いをしていました」

 知り合いの装飾師に頼んでも、魔法系のスキルが足りない。
 本職の装飾師は冒険者経験がないからだ。
 魔法具師の中にはエナのアイデアを面白い、と試しに作ってくれた人もいた。
 だが、やはり武器の扱いがよくわからず失敗の日々。
 だからこれは——冒険者としての経験を持つ、戦闘を知るエナトトスでなければ作れない。
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