12 / 51
【限界突然】の固有スキル
しおりを挟むそれになにより真剣なシシリィの眼差しには、それだけ彼女の『聖女』への真摯な気持ちがこもっていた。
それを受け止めて、恩返ししたい。
シシリィには、利用されても構わないとすら思う。
「え、なんでもはしなくていいですよ」
「うっ」
あっさり拒否られた。
「エルンさんは、まず自分のことを優先してください。あなたの固有スキルは世界初なんですから」
「え、え?」
「あれ? 父から聞いてませんか? 城の方でも記録を確認したそうですが、【限界突破】というスキルは世界初だそうです。金級固有スキル確定おめでとうございます」
「き、金級……」
誰が使うんだよ、そんなスキル。
そうバカにされ続けてきたスキルが、世界初の金級固有スキル。
信じ難い。
そんなエルンの横で、シシリィはお弁当を引き寄せて、フォークで卵焼きを持ち上げる。
「はい、あーん」
「え!」
「ご飯食べましょう。卵焼きはわたしが作りました」
「え! シ、シシリィさん、お弁当、手作り!?」
若干、言葉が不自由になった。
仕方ない、そのくらい動揺してしまったのだ。
この可愛らしいお弁当が、シシリィの手作り。
まあ、シシリィにしか作れないだろう、こんな色とりどりのお弁当は。
まさかその中のおかずの一つを食べさせてもらえると思わず、盛大に動揺してしまった。
「手作りですよ」
「!」
「父の」
「…………。ギルマスの」
「って言うとほとんどの人が驚くんですけど、父はわたしを育てるために料理を一から勉強してくれたんです。父がわたしのために作ってくれたものだから、他のおかずはあげません。わたしのです。でも、卵焼きは私が作ったものなのでエルンさんにあげます」
「!」
はい、と改めて差し出される。
シシリィが作った、卵焼き。
恐る恐る口を開ける。
他のおかずは、ギルマスがシシリィのために作ったものだからもらえない。
いや、それはとてもよくわかる理屈だ。
むしろ当然だと思うし、それでいいと思う。
というか、そのおかげでシシリィの手作り卵焼きを食べられるのだからありがたい。
「い、いただきま——」
「みゅーん!」
「あ! こら、タータ!」
「おう、待たせたな…………?」
タイミングとは、重なるもので。
シシリィの卵焼きはタータに下から奪われ、隣に座っている状況を入ってきたギルマスに確認され……気持ちは怒ればいいのか焦ればいいのか悲しめばいいのか、もうめちゃくちゃな情緒と化す。
「どうしたんだ?」
「タータがエルンさんにあげた卵焼きを食べてしまったの」
普通に会話すんの?
「タータはやきもち焼きだな。エルン、シシリィの卵焼き、儂の弁当に入ってるけど食うか?」
「だ、大丈夫です」
ギルマスの「あーん」はさすがに厳しい。
心を殺す覚悟で挑まなけばならないというのに、その準備がなにひとつできていない状態だ。
そうか、とあっさり引き下がってくれて本当によかった。
「じゃあまあ、食いながらで構わんから聞いてくれ。お前さんによってレベル上限が上がった儂とシシリィ、『見習い』のレベルを20まで上げた結果報告なんだが——」
「は、はい」
シシリィは『巫女見習い』、上限20まで上げた結果、無事に職業『巫女』を取得した。
彼女の目標は“母のような聖女”であるため、次は取得した『巫女』をレベル20まで上げ、スキル【大回復】を取得して職業『聖女見習い』を取得する。
次にギルマス。
ギルマスがレベル上限を上げたのは職業『剣士見習い』。
「俺はすでに『剣士』とその上位職である『剣豪見習い』、『剣豪』、『大剣豪』、『剣聖見習い』まで取得している。まずこれを前提として覚えておいてくれ」
「あ、ハイ」
パネェ。
さすが金級ギルドのギルマス、パネェ。
あまりの高位職、最高職一覧。
この国で『剣聖見習い』は三人しかおらず、『剣聖』にはその中の誰も到達していない。
その『剣聖』に大手をかけている三人のうちの一人が、よもや目の前にいるとは。
「で、『剣士』はレベル42だった」
「す、すごく高いですね!」
「今は52だ」
「…………。え?」
最初なにを言っているのかわからず、頭の中で言葉にされたレベルを思い浮かべてみた。
意味がわからない。
なので、改めて聞き直してしまった。
この世界——この国に限らず、中位職とはいえレベル40台は高レベルだ。
そうなる前に、上位職を取得して職を乗り換える。
だからみんな、レベルは20~30が平均。
上位職になればなるほど必要経験値は上がり、レベルも当然上がりづらくなっていく。
「いいか、『剣士見習い』のレベルを上げたら、『剣士』のレベルも上がったんだ。言っておくが儂ぁ、設定してる職業は『剣聖見習い』であって『剣士』じゃねぇ。『剣士見習い』のレベルを上げるために、一時的に設定して、迷宮やコロシアムでレベル上げした結果、『剣士』までレベルが上がってたんだ」
「……え、あ……そ、それって、あの……まさか……」
「おそらくな」
エルンの予想を察してか、ギルマスが白米を箸で摘んで口に入れる。
肯定されてしまった。
「……女神は人類のケツを叩きにきたのかもしれんし、もしかしたら、なにかとんでもねぇ厄災の前触れかもしれん。……ともあれ、今はまず自分のことを優先して構わん。お前自身を守るためにも、だ」
「は、い……」
絞り出すように返事をした。
定食の味が全然わからなくなってしまった。
1
お気に入りに追加
133
あなたにおすすめの小説
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
実家が没落したので、こうなったら落ちるところまで落ちてやります。
黒蜜きな粉
ファンタジー
ある日を境にタニヤの生活は変わってしまった。
実家は爵位を剥奪され、領地を没収された。
父は刑死、それにショックを受けた母は自ら命を絶った。
まだ学生だったタニヤは学費が払えなくなり学校を退学。
そんなタニヤが生活費を稼ぐために始めたのは冒険者だった。
しかし、どこへ行っても元貴族とバレると嫌がらせを受けてしまう。
いい加減にこんな生活はうんざりだと思っていたときに出会ったのは、商人だと名乗る怪しい者たちだった。
騙されていたって構わない。
もう金に困ることなくお腹いっぱい食べられるなら、裏家業だろうがなんでもやってやる。
タニヤは商人の元へ転職することを決意する。
微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する
こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」
そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。
だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。
「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」
窮地に追い込まれたフォーレスト。
だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。
こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。
これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
追放された付与術士、別の職業に就く
志位斗 茂家波
ファンタジー
「…‥‥レーラ。君はもう、このパーティから出て行ってくれないか?」
……その一言で、私、付与術士のレーラは冒険者パーティから追放された。
けれども、別にそういう事はどうでもいい。なぜならば、別の就職先なら用意してあるもの。
とは言え、これで明暗が分かれるとは……人生とは不思議である。
たまにやる短編。今回は流行りの追放系を取り入れて見ました。作者の他作品のキャラも出す予定デス。
作者の連載作品「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」より、一部出していますので、興味があればそちらもどうぞ。
[完結]回復魔法しか使えない私が勇者パーティを追放されたが他の魔法を覚えたら最強魔法使いになりました
mikadozero
ファンタジー
3月19日 HOTランキング4位ありがとうございます。三月二十日HOTランキング2位ありがとうございます。
ーーーーーーーーーーーーー
エマは突然勇者パーティから「お前はパーティを抜けろ」と言われて追放されたエマは生きる希望を失う。
そんなところにある老人が助け舟を出す。
そのチャンスをエマは自分のものに変えようと努力をする。
努力をすると、結果がついてくるそう思い毎日を過ごしていた。
エマは一人前の冒険者になろうとしていたのだった。
追放された薬師でしたが、特に気にもしていません
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。
まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。
だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥
たまにやりたくなる短編。
ちょっと連載作品
「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。
『絶対に許さないわ』 嵌められた公爵令嬢は自らの力を使って陰湿に復讐を遂げる
黒木 鳴
ファンタジー
タイトルそのまんまです。殿下の婚約者だった公爵令嬢がありがち展開で冤罪での断罪を受けたところからお話しスタート。将来王族の一員となる者として清く正しく生きてきたのに悪役令嬢呼ばわりされ、復讐を決意して行動した結果悲劇の令嬢扱いされるお話し。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる