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王都へ

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「うわぁ……」

 片田舎のトリニィの町から歩き続けて野宿を挟み、たまーに商人の馬車に乗せてもらいつつ約十日。
 ついにエドラン王国、王都『エドラン』にたどり着いた。
 見渡す限り人、人、人。
 高い建物ばかりで空は狭く、大きな通りは馬車が交差しても、余裕があるほど。

「こ、これが都会……これが王都……! ……って、感心してる場合じゃないっ! ギルド探さなきゃ」

 圧巻の都市っぷりに圧倒されていたが、本来の目的は冒険者ギルドに行くことだ。
 自分の能力を人のために役立てることができるのなら、それほど嬉しいことはない。
 確かに、これほど人の多いところならばもしかしたらレベルマックスの人がいてもおかしくはないだろう。
 そう思うと、胸が高鳴る。
 人の役に立てるかもしれない。
 デンゴのような英雄に——いや、それは無理でも、これまでのような惨めで待つばかりの生活とはおさらばできるはずだ。
 人に尋ねながら都市の中央部に移動し、人混みに酔いながらもたどり着いたトリニィの町のギルド五個分はありそうな建物。

「え、こ、これがギルド……?」

 もはや規格外すぎて、目を丸くして口を開けたまま佇んでしまった。

「おい、こんなところに立ってると危ないぞ」
「す、すみません!」
「田舎から稼ぎに来たのか? 頑張れよ」
「え、あっ……」

 黒竜の彫り絵を全員が肩鎧に掘ったパーティ。
 どれも見るからに一級の装備。
 そのうちの一人に肩を叩かれ、咄嗟に礼を言うのも忘れて見入ってしまう。
 あれは強い。
 デンゴたちよりも。
 素人同然のエルンにすらわかるほどの強さ。

(ほ、本当にいるかもしれない……俺の【限界突破】を必要としている人が……!)

 人の役に立てるかもしれない、という希望。
 人に感謝され、尊敬されるような人間になりたい。
 両頬をパン! と叩いて、エルンは気合を入れ直した。

「行くぞ!」

 役立たず。ゴミスキル。能無しのお荷物。
 散々な言われ方をして、放置され続けてきた。
 でも、きっとどこかに自分の固有ギフトスキルを必要としてくれている人が、いるはずだ。

「…………」

 ギルドの建物に入って一秒で後悔してる。
 え、なにこれ人多すぎ。無理。ってなっている。
 強そうな人、優秀そうな人、獣人、亜人、巨人族まで。

(都会すげええええぇ……)

 エドラン王国は魔人族まで『亜人』の括りで認める、懐の大きな国だ。
 それにより国力を増加させ、移住希望者と冒険者が増えた。
 人が増えれば経済もよく回る。
 隣国を買収し、金で国土を広げたエンドラ王国はさらにもう一つの隣国も取り込んで、大陸最大国家という今の形に落ち着いた。
 たった一代で国土を四倍に増やした現王テイルは、存命中にも関わらず、すでに英雄王と呼ばれ、国民から絶大な支持を集めている。
 人々がこれほどまでに熱狂的な支持をテイル王に向けるのには、他国でどの奴隷の扱いと獣人、亜人などの人外と呼ばれる種族の扱いの差が原因だ。
 この国にも奴隷制度はある。
 犯罪奴隷と、借金奴隷の二種類。
 しかし、他国では殺しても罪にならない奴隷を、この国では暴行、殺害も罪に問われる。
 そして刑期や借金を返し終えれば奴隷は二級平民になれるのだ。
 この制度、実は非常に画期的で、他国で虐げられてきた多くの獣人、亜人、その他種族はこぞってエンドラ王国を目指すほど。
 見た目や生まれで差別、迫害されてきた彼らにとって、エンドラ王国は楽園。
 おかげで隣国は国力がだだ下がりし、結果エンドラ王国に吸収された。
 戦争をせず、血を流すこともなく二つの国を手に入れたテイル王は、人間種だけでなく特にそういった獣人、亜人からの支持が厚い。
 また、テイル王は側近や護衛に獣人や亜人を重用し、側室に獣人の娘を迎えた。
 他の種族との間に子はできないといわれる中、「彼女と結婚したかったから」とその娘を側室に迎えたテイル王は、一途な恋を実らせるために世界の常識すら覆したお方として尊敬されている。
 そんな国なので、冒険者ギルドも多種多様な種族が溢れかえっていた。

「なにかお探しですか?」
「え、あ……」

 意を決してギルドに入ると、猫の獣人が声をかけてくる。
 ギルド職員の制服を着ており、キラキラした目でこちらを見上げていた。
 こんな生き生きした目を、エルンは生まれて初めてみたかもしれない。

「あ、あの、これを……シシリィさんに手渡されて……」

 手渡したのはシシリィに渡された紙。
 上手く言葉が出てこない。
 なんて言えばいいのか、考えてなかった。
 けれど、その猫の獣人はそれでも通じたらしくて「ああ! あなたが!」と頷いて二階へと手を向ける。

「ご案内します! シシリィさんは忙しいので、待合室の方で少々お待ちください!」
「は、はい!」

 左右に伸びた楕円の片階段。
 溢れかえる一階の冒険者を眺めながら、トリニィの町のギルドの階段を二つ足しても届かない広さの階段を一段一段登っていく。
 本当に、あらゆるものが規格外。
 二階は壁がすべて本棚になっており、何人もの冒険者が壁際に佇んでいたり、手すり付近の備付けベンチで本を読んでいる。
 その合間合間に扉があり、エルンは『3号室』と表札の出ている扉の奥へ通された。
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