弟が『姫騎士になる』と言い出したら私が王太子になる事になりました。【連載版】

古森きり

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一ヶ月記念の夜会

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入学一ヶ月記念舞踏会。
この舞踏会はいわゆる『加点対象』。
入学後初めての舞踏会だから心配していたけれど、何事もなく通り過ぎて……。

「オーッホッホッホッホッ! わ、わたくしと友達になりたい? ま、まだそんな事を!」

…………くれないようだ。

「おやおやおやおや」
「なにを楽しげに……。貴方が姉様に頼んだ事でしょう」
「まあそうだけど」

クスクスと、私の背後から両肩に手を置き現れたのはエルスティー様だ。
髪を一つに結って、黒の礼服を着ておられる。
顔立ちはお綺麗だから、癪ではあるもののよくお似合いだし素敵だとは思う。
しかし、今はエルスティー様の事などどうでもいい。
会場はどよめきのあと、緊張したようなピリピリとした空気。
ある箇所から人が引いていき、中心には四人の淑女……一人は私の弟が『私』に扮しているので……あれだけれど。
その『セシル』がのほほんとした笑顔で対峙するのは、この国の王女メルティ様。
そのご友人である、ザグレの公爵家令嬢ミーシャ様とレイシャ様。
エルスティー様とメルヴィン様のお話では、この双子の公爵令嬢は、幼少期から執拗にメルヴィン様との婚約をせがんでおられたそうだ。
しかし、メルヴィン様は……当たり前だがお一人。
双子の公爵令嬢は、たった一つしかない正妻の座に『私を、私を』と手紙や父親の公爵様を通じて主張し続けてきたというのだから、それは誰でも困するし、選びようもないだろう。
出会う前からその調子だったので、メルヴィン様は「この双子の公爵令嬢だけは絶対ない」と決めてしまい、学園入学まで避けに避けて避けまくっていたんですって。
しかし、その事で双子は作戦を変え、妹姫メルティ様に取り入った。
私も人の事は言えないけれど、メルティ様はお兄様が大好きな方ーーいわゆるブラコン。
エルスティー様の事も「エルスお兄様」と呼んで懐いていたそうよ。
でも、あの双子とご友人になってからはメルヴィン様もエルスティー様も友人と兄を大好きなお気持ち、そして姫としての立場に挟まれ、元気がないとか……。

「オホホホホ! 貴女ごとき小国の姫が、ザグレの姫君であるメルティ様とご友人になれるはずがないでしょう! なのですわ!」
「参りましょう、姫様。こんな女に関わる必要ありません」
「……そ、そうね」

あの高笑いのあとだと一瞬「元気がない?」と首を傾げそうなものだけど、双子に左右を固められると表情はやや曇る。
淑女として育てられているのなら、その表情の曇りだけで全ての感情が出てしまっているといえよう。
そして相手のそんな表情を見たら……淑女として育てられた者ならば、その感情を察する事ができるはず。
姫君はすでにサインを出されておられる。
そして、あの双子令嬢はそれを無視しているのか、はたまた気が付いてすらいないのか……。
後者ならば、令嬢として再教育が必要でしょう。

「メルティ様は、どんなお菓子が好きなのですか?」
「え? ええと」
「姫様」

背を向けられても話しかけるわが弟。
な、なんという健気!
思わず口を手で覆ってしまう。
手を差し出そうとして、ハッとして下げる。
いかんいかん、今は私がセイドリックなのだ。
女の戦場に、今の私が乱入してはややこしい事になるわ。
ああ、でも手助けしたいぃっ!

「私はショートケーキが好きです」
「あ、あたくしも……」
「姫様!」

振り返ったメルティ様を、右の令嬢が遮る。
こんなあからさまに他国の姫との会話を邪魔するなんて、無礼ではないの?
口出しはダメだと思うけれど、でも一言……!

「ショートケーキ! いいですわね、わたくしも好きですわ」
「レディ・ウィール様……」
「メルティ様、あちらのテーブルにケーキが並んでおります。わたくしたちとご一緒にいかがですか?」
「!」


こ、これは……!

「これは驚いた」

エディレッタ王国のレディ・ウィール姫が、セイドリックの側に付いた!
独特な柄のドレスを纏ったレディ・ウィール様は、婚約者以外の殿方との会話を禁じられたエディレッタ王国の姫君。
私に扮するセイドリックとの会話は本来なら当然ダメなんだけど、でもセイドリックは今、私(セシル)であってだから仕方ないというか~!
で、ではなく、そ、そういう事なので恐らくエルスティー様もメルティ様の事をレディ・ウィール様には話していないはずなのだ。
私の後ろでエルスティー様も驚きの声を漏らしているし。
それなのに状況を察してセイドリック側に付いてくださった!
エディレッタ王国は現在、精霊獣が滞在する二国のうちの一つ!
ザグレの国の貴族であっても蔑ろにはできない!

「あ、え……な、なぜ……」
「王族同士、以前からお話してみたいと思っておりましたの。クラスも違いますから、ねえ? セシル様?」
「はい! 私もレディ・ウィール様ともお話してみたかったです!」
「うふふ」

私たちが使う物とは形が少し違う扇子で口許を隠し、目を細めるレディ・ウィール様。
『王族同士』と括ると、双子令嬢は表情を歪める。
あ、あんなにあからさまに……。
公爵家のご令嬢とは思えないわ。
片方の子は、扇子で口許を隠しているけれど……目が完全にレディ・ウィール様を睨んでいる。

「なんでしたらご友人のお二人も一緒にいかが? 他にお知り合いがいらっしゃらないのでしたら、わたくしたちは構いませんことよ? ねえ、セシル様?」
「はい! みんなでお話しましょう!」
「! ……そ、そういたしましょうか、ミーシャ、レイシャ」

左のそばかすがある令嬢がミーシャ様。
右の扇子で口許を隠している方がレイシャ様。
……ううん、ドレスの色は赤とピンク……とはいえ、すぐに判別が付くようになる気がしないわ。
メルティ様が左右のお二人にそれぞれ話しかけると、レイシャ様がピシャンと扇子を閉じる。

「いえ、わたくし、本日は他の方とお話して参りますわ。では、失礼致します」
「え? レ、レイシャ? ……あ、えーと、で、では、わたくしは……ご一緒してもいいでしょうか?」
「え、ええ。よろしいかしら、レディ・ウィール様、セシル様」
「ええ、もちろん!」
「うふふ、セシル様が良いならわたくしも構いませんことよ」
「ありがとうございます」

メルティ様の表情が明るくなった。
ほっと胸を撫で下ろす。
そしてその瞬間、まるで待ち望んでいましたとばかりに距離を取っていた令嬢たちがワッとメルティ様たちへと押し寄せる。
ん、んんん?

「メルティ様、こんばんは!」
「は、はじめまして、わたくしアーカ国の侯爵家の者で……」
「わたくしはシャゴインの……」
「あの、わたくしもご一緒してもよろしいですか⁉︎」
「私も!」

「……………………」

セ、セイドリックとレディ・ウィール様も巻き込まれて、ケーキの並ぶテーブルの方へと令嬢の波が去っていく。
な、な、なん……なんなのあれは!
いえ、各国の令嬢たちもメルティ様とお話したかった、というのは存分に伝わりましたけれども!

「ここぞとばかりに……」
「そ、そうですね……」

エルスティー様の呟きに、私も頷いてしまう。
そ、そうか、皆あの双子令嬢の壁に阻まれてーー。

「メルヴィンさまぁん! こんばんは~ぁ!」
「!」

背筋がぞわぞわと震える猫撫で声。
声の方を見ると、私たちから少し離れた場所でシルヴィオ様とお話していたメルヴィン様にレイシャ様が突進……あ、いえ、急接近していった。
びくり! と肩を跳ねさせるメルヴィン様。
さっきとは別人のような笑顔と甲高い声に、メルヴィン様の表情は引き攣っておられる。
私も、ゾッとした。
いえ、同じ女として舞踏会ではよく、いえ、舞踏会以外の日常生活でも、よ、よく見るけれど……ああいう女……。

「メルヴィンさまぁ、レイシャ一人になってしまいましたのぉん。すっごくさみしい~。一緒にお話してくださいませぇ~」
「ヒッ……! い、いや、じ、自分は今、シ、シルヴィオ様と……」
「いやぁん! それじゃあおふたりの間にレイシャをまぜてくださぁい。ね、よろしいでしょう? シルヴィオさまぁん」
「ヒッ……、……え、ええと、自分は他の方とも話してみたいと思っておりましたので、メルヴィン様、また後ほど……」
「シ、シルヴィオ様ぁぁぁっ」

ガシッ。
と、右腕をホールドされたメルヴィン様。
シルヴィオ様が表情を青ざめさせて、華麗な逃げ足で去っていくのを左手で留めようとするがあえなく失敗する。
な、なんという……!

「巻き込まれる前に僕らも逃げよう」
「人でなしですかっ⁉︎」

お友達のはずのエルスティー様が私の手を掴み、真顔で見付かる前にその場を離れる。
き、鬼畜の所業……!

「君だって王子なんだから、メルヴィンに見付かったら縋られるよ」
「うっ」

す、縋られる。
お助けしたい気持ちはあるけれど、ザグレ国内の王族貴族の婚約云々問題に他国の王太子が絡むわけには……。
そ、そうね、確かにここは立ち去るべき、かしら?
それにしてもメルヴィン様、哀れ!
レイシャ様はメルヴィン様に話しかける為にミーシャ様と別れて一人になったのね。
お、恐ろしい女性だわ。
自分の姉? 妹? を、出し抜いてでもメルヴィン様に取り入ろうとなさるなんて……。
いえ、いかにも貴族のご令嬢といった感じではあるけどね。

「エルスティー様、どちらまで?」
「しばらく隠れていようよ」

クスクス、笑いながらテラスに連れて行かれる。
まったく……。

「隠れん坊がお好きですね?」
「そうだよ」

初めて会った時もそうだったけど、逃げ隠れの好きな方だわ。
各国の貴族の方々とも多少、交流を持っておきたいと思っていたのだけれど……。

「あの光は……」

テラスに出て、一面森が広がっていた。
空の星とは違う、淡い光の粒が森の奥の方から空へと飛んでいくのが見える。
ロンディニアでは見た事のない光景に、思わず手摺に身を乗り出してしまう。
なに? あの不思議な光……。

「あれは精霊獣が放つ光だよ」
「え? しかし、ザグレに精霊獣が滞在しているという話はーー」
「ああ、あれは野生だ。ここから見えるこの森は、アーカ王国側との国境の森『スフレア』」
「ここがそうだったのですか⁉︎」

え? でも、アーカ王国はもっと南東では……?
エルスティー様を見上げると、柔らかく微笑まれる。

「君の国の隣にも神獣の森『スフレ』があるだろう? あれと同じだよ。我が国でもここから先に森を切り開く事は精霊獣が許さなかった。精霊獣はこの大陸となった神獣『レンギレス』の遣い。彼らが許さない事は、神獣『レンギレス』が許さないという事……」
「はい」
「でも僕は、この森を通ってアーカに行った事があるんだ」
「は、はい⁉︎」

目を輝かせて、森を見るエルスティー様。
我が国とシャゴインは神獣の森『スフレの森』と隣接している。
この『スフレアの森』もまた、それと同じ神域。
そこに入った?
そ、その上、そこからアーカ王国に⁉︎
な、なにをやっているんだこの人は!

「せ、精霊獣に食べられなかったんですか!」
「見ての通りだよ。我が国にも昔は王になる試練として、この『スフレアの森』に精霊獣を探しに行き、認められる習わしがあった。でも先先代の頃に途絶えてしまって……」
「それをエルスティー様がお試しになられたのですか? なぜ? 貴方はこの国の貴族なのでしょう? メルヴィン様と一緒に行かれたんですか?」
「うん、そう」

お、おおう?
なんか、メルヴィン様がご自分から行かれたというより、エルスティー様に巻き込まれて行った、という感じがしてならないわね。

「で、そのままアーカに出た」
「な、なんと……」

ご無事でなによりだが、アーカ王国側も驚いた事だろう。
ああ、もしかして……それでイクレスタ様と親しげだったのかしら?
あれ? では、シルヴィオ様とはいつ?

「では、イクレスタ様やシルヴィオ様とはもしかしてその時に?」
「ああ、シルヴィオはちょうどシルヴェスター王子とアーカを訪れておられた時でね。まあ、それで偶然にも知り合った。イクレスタ様とシルヴェスター様には、ふふっ、色々悪さも教わったよ~」
「…………」

なるほど。
イクレスタ様の自業自得、か。
でもシルヴェスター様もとは……。

「シルヴェスター王子は自国の学園を卒業されていたけれど、まあ、それが縁でイクレスタ様やシルヴィオたちは我が学園に来てくれたんだ。あちら側は『レンギレスの背骨』を超えないと来られないだろう?」
「そうだったのですね……」

『レンギレス背骨山脈』は非常に険しい山脈だ。
ザグレ側からは宝石が取れるけれど、それに沿う国々の方からはなにも採掘できない。
おそらく、ザグレ側にこの『スフレアの森』があるからだと言われている。
そう、精霊獣の影響があるのはザグレ側だからだ。
アーカ王国やエディレッタ王国の王族貴族は、この『レンギレスの背骨山脈』が邪魔で、ザグレの王族が通う場合を除き、ザグレディア学園に留学してこない。

「とても楽しかったよ! 精霊獣にはお目にかかれなかったけれど、アーカに行けたし、そこでイクレスタやシルヴィオやシルヴェスター様と会えた。良い経験だったと胸を張って言えるね!」
「…………」

ど、どう返していいのかしら。
メルヴィン様、は、多分、これを止めたのだろう。
でも、メルヴィン様はザグレの王太子様。
エルスティー様と共に『スフレアの森』に行ったのは……王族としての試練、という意味合いでならいい事……?
で、でも王族が試練として立ち向かったのと貴族の無茶振りに付き合わされたのでは意味が違うわよね?
ああ、なんてお可哀想なメルヴィン様……。

「いつかロンディニアの隣にある『スフレの森』にも挑んでみたいなって思ってて!」
「お、お断りします!」
「なぜ! 君だっていつかは挑まなければいけないんだろう⁉︎ 神獣の森に隣接する国は、どうあっても王族が精霊獣に認められる試練が習わしとして存在するはずじゃないか!」
「た、確かに我が国にもその習わしはありますけれども! 遊び半分でついてこられるのは迷惑です!」
「そう言わずに! 護衛という事で!」
「いりません!」

というか、セイドリックが『スフレの森』に行く時は私が付いていくわ!
エルスティー様もお強いけれど、そんな探検気分で付いてこられるのはごめんよ!

「残念だなー。『スフレアの森』を抜けるとそこはアーカしかなかった。地図通りね」
「はあ?」
「でも、ロンディニアより北にある『スフレの森』の奥には、誰も行った事がないんだろう?」
「え? ……ええ……」

我が国とシャゴインの北にある広大な森……『スフレの森』。
その森を抜けた者はいない。
その森に住む精霊獣たちが、それを許さないと言われている。
ロンディニアやシャゴインの王族は森の精霊獣に『王』と認められるように森に挑むのであって、森を抜けた先に行きたいと思う者はこれまで、一人も…………。

「面白そうじゃない⁉︎」
「いえ、まったく」

キラキラしたエルスティー様。
私にはまったく理解できないその思考。
真顔で言い放つと、また拗ねた顔をされる。
言いたい事は分かったけれど『スフレの森』は神域だ。
精霊獣たちが住まい、神獣『レンギレス』の意向でその地を守っている。
人間がおいそれと立ち入って良い場所ではない。
まして、そんな探検気分で……。

「僕は旅をしている方が性に合ってるんだけどなぁ」

そうね、そんな感じだわ。
この方は、ダンスパーティーに紛れてご令嬢に甘い言葉をかけ、自分の地位を守るとか、より権威にしがみつきたいとか……そういうものよりも、もっと自由な方に見える。
私のように国の為に尽くす事を義務付けられた者には、理解ができない領域だ。
見た事のないもの、行った事がない場所。
そういうものに憧れがまったくないわけではないけれど……。

「そうですね、エルスティー様はそちらの方がお似合いですね」
「え?」
「私も興味はありますよ。この世界は、きっと私が考えた事もないような美しいものがたくさんある」
「……美しいもの……?」
「ええ、この世界は美しいものに溢れているではないですか。今目の前に広がるこの森も、この森の精霊獣の光も! その光が空の星空の光と交わって……見た事もないほど綺麗です!」

手を伸ばせば届きそうなほど。
こんな夜空、まともな窓のないロンディニアの私の自室からは見えないわね。
異母姉たちにお父様が用意してくれたお部屋を奪われて、追いやられたあの元倉庫!
ふっふっふっ、今思い出してももやっとするわ。
まあ、別に最初ちょっと臭かっただけで、窓っぽいものは自分で壁をぶち壊して作ったけど!

「…………」
「?」

変な顔をされてしまった。
な、なに?
変な事は言ってないわよ?

「美しいもの……」
「エルスティー様は、そういうものを見たくて旅がしたい、とかではないのですか?」
「うん。単に家が窮屈」
「…………」

そ、そっちかぁ。

「……考えた事もなかったなぁ。この光景が、美しい、かぁ……」
「もったいないですね。え? じゃあ今私をここに連れてきたのも単なる自慢ですか?」
「うん」
「…………」

ああそうですかー。
国内に精霊獣はいるぞ自慢ですかー、そうでしたかー!
そういえば負けず嫌いでしたもんねー、エルスティー様はー!

「変な方ですね。お家は窮屈でお嫌いなのに、自国の自慢はしたいなんて」
「…………。……あれ……言われてみると、そう、だね?」
「ん?」

そうだね?
まさかの同意?
エルスティー様を見上げると、困惑した表情。
え? まさか、無自覚?

「なんでだろう……」
「なんでって……。……お家が窮屈でも、お国の事はお好きだからでしょう? まあ、良いのではないのですか。国を支える貴族たるもの、そうでなければザグレの王家も困ります」
「………………」
「あれ? エルスティー様?」

な、なに、その驚いた顔は……。
あ、ああ……。

「本当に無自覚だったんですか」
「む、無自覚……⁉︎」
「そうでなければそんな顔にはならないでしょう。……呆れた方ですね」
「…………」

腰に手を当てて、ふん、と鼻で笑ってやる。
この方、色々とはちゃめちゃだけど、意外とおバカさんなのね。

「エルスティー様は、ザグレの国がお好きなんですよ。そうでなければ自慢したいなどと思わないでしょう。まあ、確かにザグレは他国に自慢するものがたくさんおありですけどね! 我が国にだって焼物や新鮮な野菜や魚を使った料理など、自慢できるものがたくさんあるのですよ! ふふふ、もしご所望なら、料理はこの私自ら振舞って差し上げます! こう見えて料理は嗜んでいるのですから。……あれ? 料理を嗜んでいる話は、以前しませんでした? しましたよね? ま、まあ、シェフのようにプロではないですが……」
「うん……そうだな、食べてみたい」
「! では、今度お招きします」
「楽しみにしているよ」


…………あれ?


「お招き、楽しみにしておく」
「は、はい……」

なに?
エルスティー様の、笑ったお顔、なんだか……違う。
これまでのとは、なにか……。
でも具体的になにが、といわれると説明に困る。
なんと言えばいいのだろう?
これまではこちらを少し小馬鹿にしたような笑みだったのに、なんだか、柔らかいというか……。

「…………ところで会場が騒がしくありませんか?」
「騒がしいね。下品な高笑いが聞こえるね」

ぎゃはははは!
という、なんとなく聞き覚えがあるけれど誰と特定するのが嫌~な……。
ああ、はい、シャゴインのジーニア様ね。
私の婚約者の……私の……。

「はっ! セっ! セシル姉様!」

危ない!
危うく『セイドリック』と呼ぶところだった!
耐えた! 私偉い!
ではなく! あの方が会場に現れて下品な高笑いをしているという事はセイドリックが巻き込まれている可能性が!

「も、戻ります!」
「そうだねー。手伝うよ」
「ありがとうございます!」



……ちなみに、セイドリックは無事だったがメルヴィン様は閉場するまでレイシャ様に捕まっておられた。
あと、ジーニア様は各国のご令嬢に絡みまくってますます嫌われていた。



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