【R18】黒曜帝の甘い檻

古森きり

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第11話

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「うっ」

 まだ張り型は半分しか入っていない。
 それに改めて愕然としつつ、張り型を抜いた。
 すっかりと萎えた自分の性器。
 息を整えながら、張り型を桶の中に放り込む。

「は、はあ、はあ……」

 困り果てた。
 思いもよらない事態。
 まさか男性器を模した張り型を挿れるだけで、ここまで苦労するとは。

(陛下が僕に挿れてくださらなかったのは……)

 納得の結果、というやつなのかもしれない。
 しかし「これで練習する」と言ってしまった手前、黒曜帝はしばらく来ない。
 そう……自分でお通りを断ったのだ。

(僕では上手く挿れられそうにないのに……)

 調教師という手を封じられているため、自分で引き続き頑張るか、世話係に尻穴の奥を受け入れられるように拡張する手伝いをしてもらうくらいしか、ヒオリが思いつく手段はない。
 腹の圧迫感。
 中への異物感。
 確かに最初は指でも辛かった感覚は、慣れてしまえば途方もなく気持ちがいい。
 それを思い出して、ヒオリはもう一度張り型に手を伸ばす。
 諦めるのは早い。
 きっと、これも何度も挿れれば慣れて堪らなく気持ちよくなる……はず、と。

「んっ……」


 しかし、その夜何度試しても気持ちよいと感じる事はなかった。
 張り型練習初日。
 ヒオリの完全敗北である。



 ***



「くははははは! 本当にアレを使ったのか!」

 高笑いする皇帝に、白髪の男が眉尻を下げた。
 そこは皇帝の執務室。
 白髪の男は、布を外したヒオリの世話係の一人。
 名をロンシという。

「笑い事ではありませんぞ、スェラド様。初心者用の張り型だとばかり思いましたら、なんとご自分のモノを模したものを贈られるとは……はぁぁ、ジイは呆れて言葉も出ませんでした」

 ロンシが思い起こすのは、朝にヒオリの部屋を訪れた時に見た光景。
 あれだけ作っておいた潤滑油は張り型に吸い尽くされ、ベッドのシーツはぐしょぐしょ。
 疲れ果てたヒオリがぐったりと寝転んでいて、起きる気配もない。
 血の気も引いていて死体かと驚いたほどだ。
 それらの説明を聞いて、黒曜帝は顎を撫でる。
 口許は笑んだままだ。

「そこまで健気に頑張られては、俺が手ずから開発するしかあるまいて」
「はぁ……」

 やはりそのつもりだったか、とロンシが頭を抱える。
 幼い頃、かの領地へ先帝に連れられて行ったこの皇帝はすっかりヒオリにご執心。
 それ事態を悪い事だとは言わない。
 この国とこの国に取り込まれた全てのものはこの男のものなのだ。
 無論、ヒオリも皇帝のもの。
 しかし、この皇帝が本当に欲しい、得たいと思っているものは体でなく心だろう。
 だからこそ、このように慎重に慎重に……その心を手に入れようとあれこれ手を講じているのだ。
 ロンシが世話係の一人として派遣されているのもその一つ。

「ヒオリはまだ一人で頑張るつもりか?」
「そのようでございますね。……スェラド様が調教師を禁止なさいましたから。クォドが拗ねておりましたぞ」

 クォドとは赤毛が特徴の、同じヒオリの世話係として派遣されている『調教師』。
 茶髪の男、ルゥイギーも『調教師』ではあるが彼は些か経緯が特殊だ。

「クォドには絶対触らせるな。あの野郎のやり方ではヒオリが盗られかねん」
「…………」

 自分で命じて世話係にしておいて、なんという言い草だろうか。
 もちろん口には出さない。
 最悪命に関わる。

「ではせめてルゥイギーに任せてみては」
「嫌だ」

 嫌だときたものだ。
 駄々っ子か。
 ロンシが心の中でそう突っ込みを入れても、黒曜帝は不満げに唇を尖らせて「ヒオリの調教は俺が自ら行う!」と宣言する。

「しかし、それではなんのためにあの二人をつけたのか分かりません」
「無論、ヒオリが行為で怪我をしないためだ」
「ああ、左様ですか」

 もう色々と諦めて、首を振った。
 執務を行い手は止まっていないので言う事はない。
 ただ、二人の調教師を使わないのであればヒオリが可哀想だ。
 一晩であれほど憔悴してしまって。
 今夜は自主開発は禁止しなければ、と一人頷くロンシ。

「あ。……だからと言って今宵はお休みして頂く予定ですから、陛下も来ないでください」
「なんだと!?」
「当たり前でございましょう。一晩中頑張っておられたのですよ。今朝もずいぶんお疲れで……」
「ほ、ほほう? いじらしいではないか」

 頭痛を感じた。
 だが、言いたい言葉は飲み込む。
 その辺りには同意見だが、そうじゃないだろう、と。

「それと、これはジイからの助言でございます」
「聞こう」
「やはり一週間ばかりはお通りを控えてください。陛下の存在を遠ざける事で、ヒオリ様の中の陛下の存在が変化するはずでございます」

 これは年の功故、というものだろうか。
 年若いヒオリとまだ二十代の若造でしかない黒曜帝には分かりづらいだろう。
 また、第三者から客観的に見た二人の距離。
 それを、詰める。

「……一週間も保たぬ」
「では後宮で発散してきてください。それもまた一つのスパイスとなりましょう」
「ヒオリ以外を抱けというのか」
「なにを今更。そのための後宮でございます。そして、子を成すのも陛下の大切な職務」
「ぐっ」
「二人も作ればあとは周りが育てます。陛下はそれで自由の身でございましょう。むしろこの機会を存分に利用されませい」
「……ちっ」

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