【R18】黒曜帝の甘い檻

古森きり

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第2話

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 だから、翌朝。
 ヒオリは世話係の一人がカーテンを開けたのを眺めながら、昨夜の帝の言葉を思い出して唇を噛む。

 あの方を、自分の中にお迎えしたい、と。

 朝食を摂りながら、ヒオリは言われた通り知恵を絞る事にした。
 しかしながら、十歳で『北の宮殿』……通称『人質宮』に押し込められたヒオリには、王妃候補、側室候補として後宮に来た女性たちのような性的知識はない。
 ヒオリに性の知識を与えてくるのはあの皇帝のみ。
『人質宮』にいるのは男女合わせて八名。
 年齢はバラバラ。
 一人につき世話係が二人と、庭の付いた邸が与えられている。
 一日に二食の食事を与えられ、週に四回の湯浴みが出来る上、年若い女であれば希望して後宮へと移動も可能。
 そのため、各国の王や大公はほとんど娘や血縁の令嬢を『人質』として帝都に送り込んだ。
 なので『人質宮』にいるのは若すぎて後宮には入れない、初潮前の女児と『後宮』に興味のない……別な形で忠誠を誓っている国の人質だけ。

「ごちそうさまです」

 食事が終わると無言で食器が下げられていく。
 ヒオリに黒曜帝から与えられた世話係は五人。
 他の人質よりも多い。
 とはいえ、他の人質も庭のを高い壁に覆われている。
 ヒオリもここに来て世話係と黒曜帝以外の人間と会った事はない。
 故郷にいた頃は、毎日使用人に囲まれ、領民と挨拶をして領地を駆け回っていた。
 あの頃に比べて本を読んだり、剣の訓練をしたり、薬草を育てるくらいしかする事がない。
 しかしそれでも一年前……十五になった誕生日。
 あの日に時折しか現れなかった黒曜帝が訪れ、ヒオリの体に触れるようになってから生活は激変した。
 最初は触れる程度の口づけをされ、それだけでも頰を染めていたものだ。
 だが、それがしっとり合わさるようになり、舌が差し込まれるようになり……。
 ついに身の下の方に手が滑り込むようになり、自分でも触れた事のない場所を弄ばれるようになれば……あとはあの方の思うがまま。
 翻弄され、頭が真っ白になる夜。
 一度刺激と快感を覚えると、癖になっていく。
 ヒオリには最初、それがなんなのか分からなかった。
 ただ気持ちのよいものだ、としか。

「……っ」

 思い出すと体の芯が熱を持つ。
 もじもじと身を震わせながら、部屋の中を見る。
 顔を薄い布で隠した世話係が扉に二人、立っていた。
 表情は布のせいで分からない。

(……どうしよう……触りたい……)

 腿を擦り合わせると、昨夜の行為を生々しく彷彿させる。
 あの方はここ数ヶ月、ほぼ毎日のようにヒオリの腿を使って射精していた。
 自分の腿の間に擦り付けられ、出し入れされるのを眺めながら達する。

(は、はしたない……)

 きっとこれは、いけない事なのだ。
 あれは人前では行わない、秘め事のはず。
 なぜなら、世話係たちは黒曜帝が来ると部屋からいなくなる。
 黒曜帝……この国で最も高貴なお方がおられるのにも関わらず、だ。
 だから恐らく、あれは特別な行為。

(本で読んだ。陛下は本当は夜は後宮で休まれるべきなんだと)

 一般教養の一つとして、ヒオリもそのくらいは学んでいる。
 黒曜帝は後宮に通い、数多の姫や令嬢の中から正妃や側室を選ばねばならない。
 選んだ正妃や側室と子をなし、世継ぎを残す。
 これが皇帝たる黒曜帝の大切な役割だと。
 それなのに、黒曜帝はヒオリのところへ通う。
 昼間は公務で忙しいはず。
 ならば、夜しか妃選びは出来ないはずだ。
 なのに——。

(けれど、僕が陛下にそんな事を申し上げずとも、家臣が進言してるはず。……それに、今更陛下が通わなくなったら僕……。今もこうして、触りたくなってるのに……)

 目を泳がせる。
 いつもなら本か、庭に出るか。
 そこに悩む。
 だが、今日は——否、今は、自分自身の興奮した場所を慰めたい。
 その欲は、抑えつけよとすればするほど膨れ上がってく。

「……あ、あの」
「はい」
「ええと、その……」

 なにか用事を頼み、出て行ってもらおう。
 しかし、なにを頼めばいい?
 それに彼ら二人が出て行けば、また別な二人が入ってくる。
 次の二人にも用事を頼んだとして、最後の一人が入ってくるだろう。
 この生活において、五つも六つも長い用事を頼めるほど困ってはいない。
 考えた末、絞り出すように「い、一時間ほど、一人にして頂けませんか」と震える声で頼む。
 世話係たちは一度お互いの顔を見合わせる。

「大変申し訳ないのですが、理由をお聞かせ願えませんと……」

 当然である。
 彼らはヒオリの監視も兼ねているのだ。
 通常二人の世話係が五人もつけられているのは、黒曜帝にヒオリが強い監視体制を命じられていると同義。
 なぜ自分だけ、と最初は困惑したが、夜にあのような行為を行われるというのはもしかしたら母国がなにか不穏な動きを見せているからなのかもしれない。
 そんな疑いがあるにも関わらず、『一人になりたい』と言ったら……。
 それは当然疑いを深めてしまう。
 仕方がなく、ヒオリは観念する事にした。
 それは自分と母国の嫌疑を晴らすため。

「あ……あの……せ、性器が……な、なんだか……熱くて……」

 恥辱を耐えながら『理由』を口にする。
 顔が熱く、声は小さくなっていく。
 とてもではないが世話係たちの顔を見られない。
 世話係の顔は布で覆われているので、見えないのだが。


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