魔法菓子職人ティハのアイシングクッキー屋さん

古森きり

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ダンジョンデート?(1)

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 ティハがナフィラに来て二ヶ月。
 アイシングクッキーや魔力底上げクッキーが流通するようになってから、ナフィラの町は誰の目から見ても活気づいている。
 新たなエリアボスが二体発見され、そのうちの一体をホリーが数名の冒険者パーティーと遭遇し、なんと討伐に成功。
 これで来年のスタンピードも起こらないだろうという安堵感と、一年で二つのエリアが解放されたこと、それを成したホリーを英雄として称え、盛り上がっているのだ。
 特に今回ホリーがほぼ単独撃破したエリアボスにはナフィラ領主から報奨金が出され、マーザ・テラー王国から爵位を与える話も出ている。
 爵位の話は鬼国クロージェタスとの兼ね合いもあるので数年の時間を必要とするだろうとの話だが、そのくらいすごいことをしたのだ。
 
「ティハさん、おい、聞いたか? 『銀狼のたてがみ』が新しいエリアを発見したらしいぞ!」
「俺も『紅蠍の尾』がエリアボス級のデラックスボアを討伐したって聞いた! なあ、ここのクッキーを食べたからなんだろう!? 魔力底上げクッキーはまだあるかい!? 売ってほしいんだけど!?」
「俺にも売ってくれ! 二十枚セットを二つ!」
「俺はアイシングクッキーの五枚セットと、魔力底上げクッキーの二十枚セットを一つずつ!」
「んあ、んあ、お、お待ちください~」
 
 クッキーを売り始めた当初からご愛顧くださっている冒険者パーティーが、最近ものすごく活躍しているらしい。
 北部支部二階は他に武具屋や雑貨屋、魔法書が売っている図書館がある。
 それなのにティハの小さな長テーブルのクッキー売り場に人が密集している。
 しかし、一人で作っているのでこんなに人が集まれば、あっという間に売り切れてしまう。
 売り切れたら今度は「明日の分も予約させてくれ!」という者が現れる。
 学のない自分には予約の管理などができないので、とお断りするしかない。
 
「こらこら、あまり魔法菓子職人を困らせるんじゃないよ」
「ティハ、迎えに来た。約束通り、森に行ってみよう」
「あ、今行きます~」
 
 長テーブルの後片づけを行い、まだ群がるお客に頭を下げてから迎えに来てくれたホリーとエイリーの下へ小さく駆け足で近づいた。
 今日は今から解放済みのエリアに向かい、従魔探しに行くのだ。
 魔物を屈服させ、首輪をつけて従属させるのが従魔。
 従魔にしたらお世話はしなければいけないのだが、幸いホリーの家の裏手には小さいながらも厩舎がある。
 馬型の魔物を従魔にして、足に使いたい。
 残りの中型と小型の首輪は、小型中型の魔物用。
 使うかどうかはわからないが、生まれて初めてのダンジョンということもあり少し緊張しながら二人の後ろをついて行こうとした。
 しかし、ホリーがティハに手を差し出す。
 手を繋ごう、という意思表示に、若干困惑しながらその手に手を乗せた。
 
「一応進展はしていたんだな。よかったよかった」
「う、うるさい。茶化すな」
「それにしてもティハのクッキーは今日も完売か。このままいけば店舗も借りられるんじゃないか? 明日にでも家貸しに頼んで見に行くかい?」
「い、いえ~、まだ五万マリーしか貯まってないです~。それじゃあ足りませんよね~?」
「あ、うーん。まあ、五万マリーでは確かに足りないな。一軒家を借りるなら一年で十万マリー、一軒家を買うなら百万マリーは必要だ」
「んぇぇぇぇぇぇ……」
 
 さすがは一軒家。
 桁がティハの聞いたことのないもので、変な声が出る。
 北部支部から出て、徒歩で北西に進むと第一開発拠点が見えてきた。
 開発拠点はその名の通りエリアボスを倒して解放したエリアを、騎士団や兵団が浄化したり木々を伐採して木塀や居住と防衛を目的とした鉄製の砦を建設し、さらに周辺を人が住んでも問題なく開発していく拠点とする場所。
 第一開発拠点はほぼ開発が完了しており、現在はこの場所を新たな北部支部にするよう移転計画が進んでいる。
 魔物は出るが、平民の女子どもが木の棒で倒せる弱い小型の魔物ばかりで冒険者たちにはなんの旨味もなくなっているという。
 なのでここからさらに第二拠点付近まで進む。
 
「ここが昔は第三拠点よりも危険地帯だったなんて信じられないな」
「んえ、そうなんですか~?」
「私が産まれる前の話だ。そう考えると二十数年でここまでエリア開放と開拓が進んでいるのは、結構すごいことだよな」
「ああ、そう思う。それでも『北大森林迷宮ナフィラダンジョン』の十分の一程度。このダンジョンが制覇されるのに、いったいなん十年かかるんだろうな」
「まあ、少なくとも今年は二つものエリアが解放された。あと二つエリア解放されればそこに第四開発拠点が建設できるだろう。この調子でいけば北部支部の移転は第一じゃなく第二の方がいいかもしれないな! ……だというのに……」
 
 と、急に眉をしかめるエイリー。
 なにか問題があるのか、とホリーが首を傾げるとエイリーはますます険しい表情になって「王都がな」と話してくれた。
 いわく、王都から騎士団を派遣したいと打診があったそうだ。
 エイリーの父、ナフィラ領主からエリアを二つ開放したという報告に騎士団が「自分たちもエリア開放の栄誉がほしい」という本音を「今年のスタンピードの時期が近づいてきたので、ダンジョンで魔物掃討作戦を行うべき」という建前で圧をかけてきているという。
 ナフィラ領主は再三「スタンピードが起こる危険性は低いため、王国騎士団派遣は不要」と返事をしているにも関わらず、だ。
 
「そんなにしつこいのか。なぜだろうな?」
「普通に考えて王国騎士団の面子のためだろうな。あと、考えられるとすれば騎士団重鎮のウォル家長男が最近第四王女カレンラ姫と婚約したから、その箔づけにエリア開放の栄誉がほしいんだろう」
「ッ」


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