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こんなところで試食会(2)
しおりを挟む「美味しく安全に食べてほしいので、一日最大五枚までにしてほしいです。それに、早めに食べてもらった方が美味しいと思います~。あと、朝に起きて他のことに魔力を使う前に食べた方が効果が高いんじゃありませんかねぇ~? 魔力が完全に回復した状態でないと、魔力器の拡張はできないと思います」
「そうだね! 訓練も魔力が完全に回復している状態の時に行う。……まあ、だからこそ痛いんだけれど」
と、エイリーが訓練の痛みを思い出したのか自分の腕をさする。
その苦悶の表情に、魔力器未使用部分拡張訓練経験がある魔法師は皆、表情をしわくちゃにして「くっ」「うう」「うっ……うう」と呻く。
怖い怖い怖い。
ベリっといった時の痛みを思い出しているんだろうけれど、見ているだけでゾゾゾっとくる。
「魔力を少し使った状態だと、微々たる魔力回復にしかならないからね」
「魔力を回復できるってことなら、魔力回復薬でも同じことができるのでは?」
エイリーにそう提案したのは、さっきの錬金術師だ。
しかしそれに対してエイリーは首を横に振るう。
「魔力回復薬はなくした魔力の補充を行歌めに、擬似的な自然魔力を取り込む効果しかない。魔力そのものを取り込むこのクッキーとは、別物なんだよね」
「クッキー自体に魔力を練りこんであるということですか?」
「おっと、その手には乗らないよ。製造方法は企業秘密。まあ、私が見た限り真似できる者はいないと思うけれどね。これはティハの体質によるところが大きいから」
「チッ」
舌打ちしやがった。
製造方法を探られていたのか、とホリーが呆れた顔をする。
真似して作ろうとしていたのだろうが、この錬金術師、なにげに商魂逞しい。逞しすぎる。
それからまたしばらくあーだこーだと議論が始まり、当事者のはずのティハはボーッとそれを見守った。
数字の話をされても、よくわからない。
とりあえずエイリーはやはり採算度外視の高額を提示していたらしい。
そのあたりは貴族の金銭感覚が強かったのだろう。
実際に食べたい、ほしい、という声は溢れんばかりだが、そういう者たちの財布事情は平民のそれである。
なので、高額すぎると手が届かない。
量産はそれなりにできるが、すべての人に行き渡るかどうかは別の話。
なのでやはり、それなりに値段は張る必要がある。
「一枚三百マリー! ここが限界だろう」
「く、た、高い」
「いや、でも魔法師からするとそれでも安くは感じるな」
「確かにその辺りが妥協点か」
「まとめ買いができるようにすれば、まあ……」
「というか普通に見た目も可愛いし美味しいし、お土産用に普通のクッキーは販売しないんですか?」
「んえぇ……それは考えてなかったです。そういうのもあった方がいいんですかね」
「このクッキー、不思議な色だな。味もなんか食べたことのない味だし……」
「あ、お野菜をペーストにして混ぜてるんですよ~」
「「「や、野菜!?」」」
うげ、という顔の冒険者が数名。
すかさずエイリーが「でも美味しいだろう?」と言うと誰も反論できない。
それはエイリーの立場を恐れてなのか、実際にクッキーが美味しいからなのか、どっちだ。どっちもかもしれない。
「これなら野菜嫌いの子どもも野菜を食べてくれそう。やっぱりお土産にほしいわ。魔力器の未使用部分拡張よりも、お土産用として売ってもらえないかしら」
「普通の野菜クッキーも作ってみますね~。そういうのはお安くすればいいんですかね?」
「そうだね」
実際に食べる人の意見は本当に参考になる。
エイリーとホリーの言う通りにして正解だったと思う。
そしてあらかたそこにいた人の話を聞き終えて、いざ、北部支部の冒険者拠点へと転移してみた。
城の中にある拠点本部とはまた雰囲気が違う、木製の建物。
窓から見えるのは雪。
太い丸太で木壁が形成され、行商人の荷馬車があちこちに停車している。
転移陣の部屋を出ると、最初に見えたのは食堂。
普段は数多くの冒険者が利用するのだろうが、休みということもあり拠点も休み。
閑散としており、ちらほらと人のいるのは売店や受付カウンターの方。
あれがいわゆる“意識高い系”なのだろう。
「騎士や兵士はもっとダンジョンに近い拠点の方に行っているので、ここにいるのは冒険者ばかりだろうな」
「……あの~、気になってたんですけど~」
「うん、なんだ? なんでも聞いてほしい」
「騎士さんと兵士さんはなにが違うんですか~? どっちもナフィラ領の公務官的な存在ですよねぇ~?」
呼び方が違うのか、しかしそれなら呼び方を変える意味はなんなんだろう。
首を傾げていると、エイリーが「騎士は領の貴族で構成されているが、兵士は平民の志願者や冒険者上がりで構成されているんだよ」と教えてくれた。
めっちゃわかりやすい。
「また役割も異なる。騎士は主に貴族と領の守護を優先しているが、兵士団はいくつかに分かれており領内の町や村の警護、魔物の迎撃、対人犯罪の取り締まり、治安の維持など。兵団の役職付になれば騎士団への志願も許され、騎士になれば一代限りの爵位――騎士爵が与えられる。そこから騎士として領主や国へなにか多大な貢献をすれば、国からの爵位も与えられるかもしれない。騎士爵は領主の一存で与えることができるが、男爵位などは国王の許可を得なければならないからな」
「ほえ~~~~~」
そう聞くと、確かに役割がまったく異なる。
そしてナフィラ騎士を動かせるのはナフィラ領主のみ。
つまり騎士が動くのは、ナフィラ領主の命でなければあり得ない。
「まあ、そんな騎士も普段は出番がないから冒険者として自分を鍛えたり小遣い稼ぎに勤しんだりしている。私とかね」
「エイリー様は騎士なんですか~?」
「一応これでも騎士団にも所属しているよ。普段は城で父の補佐や魔法の研究や冒険者として研鑽を積んでいる感じかな」
「忙しそうです~」
「忙しいとも! でも研究は息抜きであり趣味と実益を兼ねたものだからやめるわけにはいかないよね~」
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