18 / 37
こんなところで試食会(1)
しおりを挟む「魔力が増えるのか? 食べるだけで? 本当に?」
「画期的なアイテムじゃないか! それに美味い!」
「俺、これ知ってるよ! 最近拠点本部にも魔法菓子が売っているんだ。『体力回復効果付与』『攻撃力上昇効果付与』『防御力上昇効果付与』『素早さ上昇効果付与』『魔力回復効果付与』の五枚セットで、特にポーションを使った時の体力減少をカバーしてくれるんだ。すごく便利なんだよ! 『体力回復効果付与』だけのセットはないのか聞いてみたんだが、『そういう要望は職人に伝えておく』としか言われてなくて……もしかして、そこの小さな子が魔法菓子の職人さんなのか? これはその新商品?」
エイリー並みによく話す騎士が、笑顔で近づいてくる。
なぜか握手を求められて、思わず応じてしまう。
「この『体力回復効果付与』のクッキーのおかげで仲間にポーションを連続で飲ませることができて、助かったんだ! 作った菓子職人に出会えたら直接お礼を言いたいって言っていた。いつか騎士宿舎に会いに来てください。モーリスという騎士です。本当にありがとう! あなたのおかげでこれからはポーションに頼ることができる」
「待て待て、俺もお礼を言いたい!」
「ん、んえぇ?」
今度はなんだ、と身を引くティハ。
今度近づいてきたのは見るからに文科系の人。
戦う職業の人には見えない。
丸い眼鏡をかけたその男も、ティハに握手を求めてきた。
「私は錬金術師なのですが、ポーションを作っています。人の助けになればとポーション作りをしているのですが、ポーションは即効性があるものの体力をごっそりと持って行って衰弱死に至らせる危険性がありました。これを改善する研究は王宮でも続けられていますが、私も長年それを研究し、ポーションを改良し続けていたんです。あなたはこの問題を、クッキーに魔方陣を描くという形で解決してくださった。そこでどうでしょう! これからのポーションとあなたのクッキーをセットで売ってみては! ぜひ私の工房のポーションと契約を――」
「リーサン、いいこと言っている風で抜け駆けしようとするんではないよ。そういうのは領主である父に話を通してからにしてもらおうか」
「……残念」
本当に、途中まではイイハナシダナーと思ったのに。
「つまりこのクッキーを食べると魔力器の未使用部が拡張されるってことなのか? そんな感覚しないけど」
「訓練に比べて非常に微々たる拡張なのだ。だからこそ痛みがない。訓練で激痛を味わいながら拡張していくよりも、朝に子の魔力底上げクッキーを食べ続けていく方が効率的に感じるね、私は」
「その話、詳しく聞かせてくれ!」
「食べるだけで魔力器の未使用部が拡張されるって本当なの!?」
どんどん人が集まっていく。
特に食いつきがいいのは魔法師だろう。
集まってくる者たちにエイリーがクッキーの説明を行ってくれた。
初めてティハのクッキーのことを知った者も多く、クッキーにいくら出せるか、という話になると「毎日食べるならできるだけ安い方がいいな」「まとめ買いができるようにしてほしい」「大量購入か、定期購入で少し安くしてくれるなら購入する」などなど、色々感想をくれる。
なるほど、と感心した。
エイリーの言う通りになっている。
「試供品とかはないんですか?」
「おいおい、いくら微々たるものと言っても魔力器の未使用部分拡張がこれ以上安くなるわけないだろう? 私としては一枚五百マリー払ってもいいと思っている」
「魔法師からすると確かにそのくらいの価格でも安いと感じるな」
「いやいや、前衛からすると一枚五百マリーは高すぎる」
あと、彼らの話を聞きながらティハが思うのは彼らの言い分をどうしても叶えてあげられない要因――賞味期限と消費期限。
食べ物なのでどうしても長期保存は好ましくない。
それは魔力底上げクッキーだけでなく魔法付与したアイシングクッキーも同様である。
「あ、あのぉ~」
「どうした、ティハ」
「あ、あの、あの……食べ物なので、あんまり日持ちしないです~。クッキーは他のお菓子に比べて焼き菓子なので、ケーキとかよりはよっぽど日持ちしやすいんですけど……でもやっぱり何ヶ月もっていうのは無理ですね~。美味しくなくなっちゃいますよ~。魔力を込めても抜けちゃうんじゃないんですかねぇ~」
魔力というのは循環するものだ。
ティハも魔力を排出しなければならないし、望まずとも回復する。
物質であれば停滞した魔力は自然魔力に戻っていくはず。
それを言うと、全員が思い出したように「あ」という顔になる。
お気づきになられたようでなにより。
「そ、それもそうか。消費期限……そこまで調べてないな」
「この大きさでは一ヶ月程度で抜けてしまうだろうな」
「ちなみに食べすぎるとさすがに痛みは感じたよ。だいたい二十枚くらいでチクっと」
「そんなに毎日食べてたら太っちゃいますよぉ~。クッキーって結構バターや砂糖をふんだんに使いますからね~? いくら運動する人でも毎日二十枚は多すぎです~。健康にもよくないですよ~」
つまり、魔力を含んだ野菜たっぷりの料理がある意味一番安全で健康的で美味しく無理なく摂取できる、ということ。
その恩恵を一人で受けられるホリーは、この一ヶ月で飛躍的に魔力器の未使用部分が拡張できた。
とはいえ、それを他人にも提供するにはティハの時間が足りなくなる。
毎日三時間は魔力を込めなければならない上、すぐに体調を崩しがちになるティハに食堂を開くなんて不可能だ。
やはり量産が可能なクッキーを売るのが一番確実で手っ取り早い。
しかし、クッキーはカロリーの高い部類のお菓子。
食べ過ぎは肥満のもとだ。
153
お気に入りに追加
176
あなたにおすすめの小説
婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました
ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。
愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。
*****************
「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。
※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。
※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。
評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。
※小説家になろう様でも公開中です。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

仮面の兵士と出来損ない王子
天使の輪っか
BL
姫として隣国へ嫁ぐことになった出来損ないの王子。
王子には、仮面をつけた兵士が護衛を務めていた。兵士は自ら志願して王子の護衛をしていたが、それにはある理由があった。
王子は姫として男だとばれぬように振舞うことにしようと決心した。
美しい見た目を最大限に使い結婚式に挑むが、相手の姿を見て驚愕する。
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

王子様と魔法は取り扱いが難しい
南方まいこ
BL
とある舞踏会に出席したレジェ、そこで幼馴染に出会い、挨拶を交わしたのが運の尽き、おかしな魔道具が陳列する室内へと潜入し、うっかり触れた魔具の魔法が発動してしまう。
特殊な魔法がかかったレジェは、みるみるうちに体が縮み、十歳前後の身体になってしまい、元に戻る方法を探し始めるが、ちょっとした誤解から、幼馴染の行動がおかしな方向へ、更には過保護な執事も加わり、色々と面倒なことに――。
※濃縮版
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。

婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される
田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた!
なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。
婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?!
従者×悪役令息
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる