上 下
8 / 37

冒険者拠点本部(3)

しおりを挟む

(き、貴族の人も色々いるのかなぁ? それとも、やっぱり僕をなにかに使うつもりなのかな? 研究してる人って言ってたから僕になにか使い道があるんですかねぇ?)
 
 自分がなにか使い道があるのなら、使ってもらって有用性があると示した方がすぐに殺されないかもしれない。
 という結論を出してパッとエイリーを見上げる。
 
「はい! やってみます~!」
「オッケー! 今買ってくるね!」
 
 ルンルンで三階に戻り、三冊の魔法書を買って戻ってくるエイリー。
 三階は職員の寮部屋と聞いていたが、魔法師のための魔法書専門店があるらしい。
 魔法書の「これとこれとこれとこれを」とリクエストされるが、覚えきれないので紙に書いてもらう。
 
「それで、これをティハに作ってもらって本部始め、各支部の売店に置いてもらえないかと思ってな」
「それはいい考えだね!」
「『体力回復効果付与』のクッキーを食べたあとなら、ポーションを飲んで衰弱死する心配もなくなる」
「ハッ!! そうじゃん! そうか、そういう使い方もできるのか!」
「『防御力上昇効果付与』で落ちる攻撃力もカバーできるのではないか?」
「天才か!? これは今までの魔法の常識を覆すかもしれない!」
 
 ティハは首を傾げ、頭に「?」を浮かべるしかない。
 目を輝かせるエイリーは、クッキーを取り出すと、『体力回復効果付与』のクッキー効果が切れていないのに食べ始める。
 まあ、普通のアイシングクッキーとしても美味しいと思うので、お腹が空いていたのかもしれない。
 
「――やはり! 魔法と違って複数効果が同時に発動している! 素晴らしい!」
「本当か!?」
「『体力回復効果付与』『防御力上昇効果付与』『体力上昇効果付与』のクッキーしかないのかい?」
「んぇ? は、はい。僕、この三種類しか作ったことがなくて……」
「ぜひ色んな魔方陣で作ってみてほしい!!」
「んぇっ!」
 
 手を握られ、顔を近づけられて背中を変な汗が流れる。
 が、ホリーがその手を引きはがす。
 
「ティハは俺の命の恩人だからな!」
「え? 急になんだ? わかったわかった?」
「……は、はあ……」
「ティハ?」
 
 俯いて深く息を吐き出す。
 胸が重苦しい。
 ホリーに優しく肩を掴まれて、なんとか笑顔を浮かべられる。
 
「あ、えーと……魔力が溜まっちゃってるんで……ちょっと苦しくなってきてて……」
「そうか。料理をしないと排出ができないんだったな」
「料理じゃなくても、魔力を送る対象があれば……」
「ああ、魔門眼アイゲートが機能していない体質なんだったな。疑似魔門を作ると少し排出できるんだったか? それなら私の魔石装飾品に魔力をチャージしてくれないか? ほら、こっちに座って」
「んぇ……」
 
 食堂の方に連れていかれ、席に座らせられると指輪を渡される。
 曇りのない美しい紫色の魔石が嵌った指輪だ。
 魔石は定期的に魔力を供給しないと、自然魔力に分解されて消えてしまう。
 指をわっかにして疑似魔門を作り、その魔石に魔力を送る。
 ゆっくり自分の中に溜まった魔力が体から動く。
 
「は、はあ……はあ……」
「疑似魔門ではこの程度の魔力しか排出できないのか。これはつらいな。効率が悪すぎる」
「エイリー、ティハはアイシングクッキーを作る時に指を丸くするから、それでクッキーに描く魔方陣に魔力が込められるんだろう」
「なるほどな。普通の人間は魔門眼アイゲートが機能しているから少量をゆっくりと流し込むには向かない。魔門眼アイゲートでこの少量でゆっくりとした魔力の抽出は、相当に熟練度が必要だ。そんなことができる魔法師は、クッキー作りよりも魔法の研究や神髄の追及を行うだろうし……この魔法付与のクッキーはティハくんにしか作れないかもしれないな」
「そうなのか!」
「少し楽になりました~」
 
 まだまだ体は気怠いが、それはいつものこと。
 立って歩いて話すのに問題ない程度に体から魔力が排出できた。
 
「……ふむ、魔石の魔力が満タンになっているな。ありがとう。だが、まだ顔色はよくないように見えるが」
「え、ええと……はい、まあ。でも、クッキーを作っている方が体外に魔力を排出できるので……」
「そうなのか。では君にもこのアイシングクッキーは利益になるんだね。いや、むしろ生命線かな? クッキーの研究もさせてもらいたいし、城の厨房を貸すからクッキーを作ってくれないか?」
「え、あ、でも、材料が……」
「こちらから出そう。お金での支給と現物支給、どっちがいい?」
 
 城で、というところに体が強張る。
 貴族がたくさん働くこの城から、できれば早く出たい。
 俯いてしまうと、なにかを感じたのかホリーが「ティハはしばらく俺の家に居候させて、休ませたい。長旅だったようだからな」と庇ってくれる。
 
「そうか、配慮が足りなくてすまない。詳しい事情は聞かないでおくよ、この町に来るのは訳アリが多いからね」
「ん、んえ……んぇ……あ、あう……」
「今日のところは俺の家についてきてもらう。クッキーは後日まとめて作って渡しに来ればいいだろう?」
「そうだな、ではマリーを支給しよう。二万マリーで足りるか?」
「そ、そんなにもらっていいんですか?」
「もちろん! 非常に興味深いからね! むしろ足りなければ言ってほしい。とにかく、サンプルがほしいからね! 渡した魔法書で、作れそうな魔法陣は全部作って持ってきてほしい! 全部買い取るよ! そうだな、一枚につき千マリーでどうかな?」
「んえええええ!? い、一枚千マリー!?」
 
 それはぼったくりすぎなのでは!?
 高額買い取りすぎる、と目を見開くが、ウキウキのエイリーは「もちろんだよ! 君のアイシングクッキーはこの町の在り方を変えるかもしれないからね!」とのこと。
 ホリーにも「お金を貯めるんだろう? 家を借りるために」と肩を叩く。
 確かに。自立するためにもお金は必要だ。
 けれどいいんだろうか?
 金銭感覚にまだ自信はないけれど、これが破格の報酬であることはわかる。
 
「い、いいんでしょうか~?」
「技術には相応の報酬は当然だよ。頑張っていっぱい作っておくれ!」
「えっと…………わかりました~。が、がんばりますぅ~」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

失恋して崖から落ちたら、山の主の熊さんの嫁になった

無月陸兎
BL
ホタル祭で夜にホタルを見ながら友達に告白しようと企んでいた俺は、浮かれてムードの欠片もない山道で告白してフラれた。更には足を踏み外して崖から落ちてしまった。 そこで出会った山の主の熊さんと会い俺は熊さんの嫁になった──。 チョロくてちょっぴりおつむが弱い主人公が、ひたすら自分の旦那になった熊さん好き好きしてます。

運命を変えるために良い子を目指したら、ハイスペ従者に溺愛されました

十夜 篁
BL
 初めて会った家族や使用人に『バケモノ』として扱われ、傷ついたユーリ(5歳)は、階段から落ちたことがきっかけで神様に出会った。 そして、神様から教えてもらった未来はとんでもないものだった…。 「えぇ!僕、16歳で死んじゃうの!? しかも、死ぬまでずっと1人ぼっちだなんて…」 ユーリは神様からもらったチートスキルを活かして未来を変えることを決意! 「いい子になってみんなに愛してもらえるように頑張ります!」  まずユーリは、1番近くにいてくれる従者のアルバートと仲良くなろうとするが…? 「ユーリ様を害する者は、すべて私が排除しましょう」 「うぇ!?は、排除はしなくていいよ!!」 健気に頑張るご主人様に、ハイスペ従者の溺愛が急成長中!? そんなユーリの周りにはいつの間にか人が集まり… 《これは、1人ぼっちになった少年が、温かい居場所を見つけ、運命を変えるまでの物語》

異世界に召喚され生活してるのだが、仕事のたびに元カレと会うのツラい

だいず
BL
平凡な生活を送っていた主人公、宇久田冬晴は、ある日異世界に召喚される。「転移者」となった冬晴の仕事は、魔女の予言を授かることだった。慣れない生活に戸惑う冬晴だったが、そんな冬晴を支える人物が現れる。グレンノルト・シルヴェスター、国の騎士団で団長を務める彼は、何も知らない冬晴に、世界のこと、国のこと、様々なことを教えてくれた。そんなグレンノルトに冬晴は次第に惹かれていき___ 1度は愛し合った2人が過去のしがらみを断ち切り、再び結ばれるまでの話。 ※設定上2人が仲良くなるまで時間がかかります…でもちゃんとハッピーエンドです!

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

上司と俺のSM関係

雫@3日更新予定あり
BL
タイトルの通りです。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...