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冒険者拠点本部(2)

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 後ろから声をかけられて振り返る。
 白藤色の髪と目のイタチのような顔立ちの男が三階から下りてきた。
 冒険者ではんく、貴族のような装いのだ。
 
「んぇっと……?」
「エイリー」
「エイリー様っ」 
 
 売店の店主は慌てて姿勢を正した相手を、ホリーは呼び捨てにした。
 下りてきてそのままカウンター前にいるホリーとティハに歩み寄ってくる。
 やはり立ち居振る舞いと着衣から見て彼は貴族だ。
 
「ティハ、彼はエイリー・ナフィラ。領主の息子で冒険者拠点の統括管理者を行っている」
「偉い人ですね~?」
「お、おう……」
「おや、可愛い子を連れているね。君もついに女の子に興味を持ったんだ? でもちょっと若すぎない? 大丈夫? 成人までちゃんと待ってあげなよ?」
「ええと……」
「僕成人してますよ~」
「ええ!? そうなの!? それは失礼――って、んん? 僕?」
「ティハだ。音速兔に襲われて瀕死になったところを助けてくれた恩人だ。よく見ろ、男だ」
「マジで!?」
 
 オーバーなほどに驚かれ、改めてまじまじと見下ろされる。
 確かに魔力が上手く巡回しない・排出ができない・幼少期から栄養不足気味とよくない理由が山積みで発育はよくない。
 眉尻を下げてちょっと困っていると、ホリーがティハを庇うように間に立つ。
 
「はいはい、失礼したね。それで? 恩人のためになにか買いにきたってこと?」
「いや……ティハは魔門眼アイゲートが機能していない体質なんだそうだ。生まれつき……。魔力を排出する道具など売ってないかと、ダメ元で立ち寄ってみたんだが」
魔門眼アイゲートが機能していない体質? そんな人間いるんだ? っていうか、それだと魔力が体外に排出されなくて爆発しない?」
「えっと……こうやって指を丸くして、魔力を送る対象に向けると少しだけ排出できるんです。疑似魔門って言うんですけど~」
「へええぇ」
 
 両手の指で円を作って見せると、エイリーと店主に感心される。
 やはり普通の人間には理解されないのだろう。
 しかし、ウォル家の人間と違って蔑むような反応ではない。
 貴族と聞いていたので、ティハとしては「ああ、死んだかな」と覚悟したのだが。
 
(まあ、でも貴族の人は人がたくさんいるところで本性出したりしないしねぇ~)
 
 貴族といえば暗殺が上等。
 人がたくさんいるところでは殺されることはないかもしれない。
 しかし、まさかナフィラに着いてすぐ貴族に紹介されるとは。
 ウォル家の人間とバレていないので、まだ大丈夫だろうか?
 
「つまり魔門眼アイゲートの代わりになるような魔石道具がほしい、ってことなんだね? 冒険者拠点本部の売店にはそういうものは置いていないね。魔石道具専門店で直接作成依頼知るしかないだろう。しかし、魔門眼アイゲートが機能していないということは魔門眼アイゲート自体は持っているんだよな? 魔門眼アイゲートがなぜ機能していないのかはわかっているのか? 医者にはなんと?」
「んえええええ? わ、わかんないです~。お医者さんには機能してないってことだけしか~……」
「なんだいそれは! 医者のくせに原因究明を怠ったというのかい? ヤブじゃないか! ……いや、平民では医者に診せるのも簡単なことではないか。だが興味深いな!」
「ん、んえええ……!?」
 
 顔を近づけられてのけぞる。
 キラキラした目で見つめられ、本気で驚く。
 貴族はみんな、自分のような体質の者を疎む者だと思っていたから。
 それとも演技だろうか?
 いや、実験台に使えるという喜びか?
 
「近い」
「ああ、ごめんね。私は魔力や魔石や魔法や魔物の研究をしているんだよ。だから君の体質には興味があるな。魔門眼《アイゲート》が機能していないということは、体の中に魔石が生成されているかもしれない。人間の体内に魔石が生成されたという報告はないが、魔石は魔力を凝縮して人工でも精製できることは証明済みだから……」
「エイリー」
「ああ、ごめん。つい……。でも、もしよかったら今度魔門眼《アイゲート》を診せてほしい。魔法道具を依頼する時に診断書や仕様書を書いてあげるからさ!」
「ん、んぇぇえ……?」
 
 困惑しながらホリーを見上げる。
 ホリーも少し困ったような顔をしているが、こくり、と頷く。
 大丈夫な人、ということなのか。
 
「ええと~~~……は、はあ……」
「あはははは! そんなに警戒しないでおくれよ! 悪いようにはしないからさ!」
「は、はあ~……」
「こほん! それと、もう一つ。まあ、エイリーがいるならちょうどいい。ティハ、あのクッキーを」
「んぇ? ……ああ! これですか~?」
「クッキー?」
 
 ホリーに言われてポシェットを探り、アイシングクッキーを取り出す。
 取り出したものをホリーに手渡すと、そのままエイリーに手渡された。
 それを目にした瞬間、エイリーの目がまた輝き出した。
 
「素晴らしい! こんな手法があったのか! しかもなんだこれは、種類がある! すごい! ティハ、君が編み出したのか!?」
「エ、エイリー様? そのクッキーなんなんですか?」
「さすがだな、一目でこのクッキーの有用性をわかってくれたか」
「もちろんだとも! そうか! こんな手法があったなんて! ああ、これは思いつかなかった! そうだよな、食べ物に付与すれば一石二鳥じゃないか!」
 
 すっかりテンションの上がったエイリーは、クッキーを色々な角度から見てはしゃいでいる。
 ホリーの言う通り、魔法陣の描かれたアイシングクッキーは画期的らしい。
 何種類か見せると全部買い取らせてほしいと手を握られた。
 
「効果は? 持続する? 早速食べてみようか」
「効果は間違いない。持続は物によるだろうが、『体力回復効果付与』は三十分ほど。味は保証する」
「いただいていいかな!?」
「ど、どうぞ~」
 
 紙袋から一枚取り出して、エイリーが食べたのは『体力回復効果付与』。
 食べ終わるとすぐに効果が出たのか、エイリーの瞳が輝く。
 
「うんうん! 効果が感じられるな! ちなみに疲労回復とかあるかな?」
「疲労回復……? は、魔法陣がわからなくて」
「なるほど、勉強中というやつか! それなら三階の本屋から魔法陣の本を購入するといい。あ、よかったら私が買ってあげよう! その代わり作ったクッキーを私に見せてくれないかな!?」
「ん、んぇぇえぇ……!?」
 
 ものすごくグイグイ来る。
 しかもだいぶ友好的な感じで。
 ――貴族が。



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