魔法菓子職人ティハのアイシングクッキー屋さん

古森きり

文字の大きさ
上 下
6 / 37

冒険者拠点本部(1)

しおりを挟む

「ここが南大通り。特に人通りが多く、門衛棟までの左右の道は商業通りになっている。必要なものはだいたいこの辺りで手に入るから、今度従魔首輪を見に来よう」
「はあ~~~」
 
 きょろきょろしているせいで、ちょいちょい人にぶつかりそうになり、その都度ホリーがティハを抱き寄せて守ってくれる。
 完全にお上りさん丸出しだ。
 そうして庇われながら進み、いよいよ城が目の前に見えてきた。
 城門の近くは水路が通り、大きな跳ね橋が降りて大勢の通行人がそこを通って行き来している。
 大通りより様相が違うのは、行き来する人の装いだろうか。
 市民というより冒険者が多いように見える。
 
「こちらも広いから気をつけて。こっちだ。門衛棟に入ってすぐに左のところにある、大きな黒い扉。あそこが冒険者拠点の本部だ」
「デッカ~いですねぇ~」
「中も広いぞ」
 
 手を引かれたまま中へと入ると、天井も高く人も多い。
 忙しなく走り回る事務員と、行列を捌く受付。
 巨大な浮かぶ掲示板には、依頼書がびっしり。
 
「あっちは冒険者用の受付窓口。身分証は住民窓口だからこちらだ」
「空いてますね」
「基本的に冒険者の施設だからな。正式な身分証の発行は領主館の文官が審査して行う。そして正式な身分証の前にここで仮の身分証を発行してもらうだ。まずはこの町の市民としてどのように貢献できるのか実績を積み、働きを見せなければならない」
「んぇ~」
 
 自信ない~、と肩を落とすが、この町の住民になるにはそうするしか方法がない。
 ので、やらねばならない。
 肩を落としつつとぼとぼ受付窓口に向かうと、暇そうだった年配女性が別の暇そうな窓口から移動してきて対応してくれた。
 
「ご用件はぁ?」
「あの……ええと……身分証? がほしいんですけど~」
「はいはい。ここのカードに名前書いてねぇ」
 
 と長方形のカードを差し出され、青いインクと万年筆を差し出された。
 文字が書けないティハは、固まる。
 
「もしかして文字が書けないかしら?」
「は、はひ」
「あー、ちょっと待ってねぇ。名前は?」
「ティハといいます~」
「ティハくんねぇ。……はい、これをなぞって書いて」
「ほぁ~。ありがとうございます~」
 
 半透明な紙にティハ、と名前を書いて手渡された。
 それをカードの上に置いて、万年筆にインクを染み込ませてなぞるだけでいいらしい。
 
「文字の書けない平民は多いからねぇ。気にしなくていいわよー。こちとら仕事だしぃ。はい、オッケーね。ふむ、色が変わらないってことは犯歴もないのね。いいわよー。はいこれ、仮身分証。出かける時は腕輪にでもして身につけておくようにねぇ」
「腕輪……?」
「あー、身分証はこうやって左右を引っ張ると――」
 
 と、受付おばさんが身分証のカードを左右から引っ張ると、ぽん、と細長い金の腕輪に変化した。
 わあ、と間抜けな声を出して驚いてしまう。
 
「身分証はこうして腕輪にして身につければいいのよ。失くさなくておすすめ。元に戻す時は腕輪をこう、左右から押し込むようにすると――ほら、元に戻るでしょ」
「うわぁ~」
「ちなみにこの身分証の端、四箇所に魔石片が使われていてねぇ、犯罪や不正は記録れるからぁ。冒険者として魔物を討伐したりぃ、なにか商売してもその実績が記録されるわよぉ。記録しかできないけど、結構ガチガチに記録されるから気ぃ抜かないようにねぇ」
「そうなんですね~……ありがとうございます」
 
 再び腕輪にしてもらい、左手首につけるとするん、とサイズがぴったりになった。
 魔石道具の一種なのだろう。
 身分証を受け取ってからホリーのところへ戻って、腕を見せる。
 
「身分証作れました~」
「ああ、これでティハもナフィラの一市民だ。仮、だけどな。ティハならすぐに実績を積んで市民になれるさ」
「がんばります~」
「可愛い」
「んぇ?」
「いや、なんでも」
 
 なにかボソリと聞こえたが、腕輪を眺めていてよく聞こえなかった。
 わざとらしい咳き込みのあと、ホリーは二階への階段を指差す。
 手を握られて、階段を上ると食堂といくつかの部屋、吹き抜けを挟んだ反対側は売店が並ぶ。
 二階の面積半分が食堂と売店のようだ。
 建物の真ん中が吹き抜けになっており、螺旋階段がさらに上へ続いている構造。
 
「この上は……」
「三階より上は職員の寮などだと聞いている。まあ、用がないから行く必要もない」
「そうなんですね~」
「そうだ、腹は減っているか? 食堂に寄って行ってもいいが……」
「うーん……ううん。僕はお腹減ってないです。ホリーさん、お腹減ってたら食べてきてもいいですよ~」
「そうか?」
 
 笑顔でやんわりお断りしたが、なぜか心配そうな目で見られた。
 首を傾げると「元気がなさそうに見える」と言われて少し驚く。
 
「んぇ……ああ……ええと……魔門眼アイゲートが機能してないんで、体に魔力が溜まって怠いんです。いつもお昼ご飯作ってる時間ですからねぇ~……そのせいですかねぇ~……」
「そうか、疑似魔門で魔力を排出する時間だったんだな。ううん……困ったな。売店に魔門眼アイゲートが機能していなくても魔力を排出する道具など売ってないだろうか?」
「んぇ~~~? そんなもんあるんですかぁ?」
「まあ、一応? 聞いてみるだけでも?」
 
 そんな便利なアイテム絶対ないだろう、と思いながらも手を引かれて売店の方へ行く。
 カウンターの中にいたおじさんに「よお、ホリーさん」と挨拶された。
 
「珍しいね、本部の売店に来るのは。なにかお求めかね?」
魔門眼アイゲートが機能していなくても魔力を排出する道具など売ってないだろうか?」
魔門眼アイゲートが機能していなくても魔力を排出する道具ぅ? なんだそりゃあ? そういうのは医者に聞いた方がいいんじゃないかい?」
「ううん……やっぱりそうか……」
「あれ、ホリーじゃん。珍しいな、お前が本部にいるの。新装備の作製依頼にでも来たのか?」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

王子様と魔法は取り扱いが難しい

南方まいこ
BL
とある舞踏会に出席したレジェ、そこで幼馴染に出会い、挨拶を交わしたのが運の尽き、おかしな魔道具が陳列する室内へと潜入し、うっかり触れた魔具の魔法が発動してしまう。 特殊な魔法がかかったレジェは、みるみるうちに体が縮み、十歳前後の身体になってしまい、元に戻る方法を探し始めるが、ちょっとした誤解から、幼馴染の行動がおかしな方向へ、更には過保護な執事も加わり、色々と面倒なことに――。 ※濃縮版

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される

田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた! なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。 婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?! 従者×悪役令息

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

僕のユニークスキルはお菓子を出すことです

野鳥
BL
魔法のある世界で、異世界転生した主人公の唯一使えるユニークスキルがお菓子を出すことだった。 あれ?これって材料費なしでお菓子屋さん出来るのでは?? お菓子無双を夢見る主人公です。 ******** 小説は読み専なので、思い立った時にしか書けないです。 基本全ての小説は不定期に書いておりますので、ご了承くださいませー。 ショートショートじゃ終わらないので短編に切り替えます……こんなはずじゃ…( `ᾥ´ )クッ 本編完結しました〜

末っ子王子は婚約者の愛を信じられない。

めちゅう
BL
 末っ子王子のフランは兄であるカイゼンとその伴侶であるトーマの結婚式で涙を流すトーマ付きの騎士アズランを目にする。密かに慕っていたアズランがトーマに失恋したと思いー。 お読みくださりありがとうございます。

アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜

車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第二の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。

処理中です...