4 / 37
ナフィラに向けて歩き出す
しおりを挟むティハはこの国以外に国があるのを、この時初めて知った。
ホリーがやや困惑しながら説明してもらったところによると、この国はマーザ・テラー王国。
辺境より国境まで行くと、その先は別の国がある。
国によって法律という“決まりごと”が定められており、それを破ると罰があるという。
「へ~。そういうのがあるんですねぇ~」
「物知らずと言っていたが、の……なんというか……知識に偏りがあるとかそういう範囲ではないということか」
「そうですね~。生きることに関係ないことは、なんにも教わらなかったです」
「ふむ……。ではダンジョンのことも、もしかしてよく知らないのか?」
「知らんっす。魔物がたくさんいて、危ないっていうのくらいですね~」
自分たちが食べている肉や野菜の一部はダンジョンで獲れる。
ダンジョンにいる魔物からは魔石が採れて、魔石は生活必需品。
属性が付与された魔石は、たとえば水の魔石なら水を出せるし、火の魔石なら火を出せる。
属性が付与されない魔石は、あらゆる魔石道具の格として使われる。
魔石の魔力は使用すれば消費され、枯渇前ならば魔門眼から魔力を補充すれば再利用可能。
完全に魔力を使い果たした枯渇状態の魔石は、別の魔石に当てがえば吸収して魔石の純度が上がる。
純度の高い魔石は魔法を使う時の杖などに利用され、杖に魔門眼から魔力を注ぎ魔法陣を描くと強力な魔法を使うことができるのだ。
「ふむ、そこまでは知っているんだな」
野宿の片付けを終わらせてから、従魔馬に飛び乗る。
ホリーもティハの後ろに乗せてもらい、歩き始めた。
移動しながら、ダンジョンについて教わる。
ティハが知っていることを話すと、概ね間違っていないそうだ。
北の辺境ナフィラ領は、未開の大森林型ダンジョン『北大森林迷宮』と呼ばれ、人間が現在六つの国を切り拓いたこの大陸『ラプラトス』が丸々一つ入るほど広い――という説があるとか。
マーザ・テラー王国は『ラプラトスの盾』と呼ばれる国で、その北部――ナフィラ領はその最前線。
少しずつ森を切り拓きながら、その奥地から溢れる魔物を討伐し続け国と大陸を守っている。
「実を言うと他の国にも“塔型”と呼ばれるダンジョンも出現しているそうだ。それらのダンジョンは最上階の部屋にいる巨大で強力な魔物を討伐すると、消えるという。つまり、ナフィラダンジョンもおそらくそういう部屋のようなもの……あるいは部屋を守る魔物の長のようなものが、森の最奥にいるのだろうと言われている。ナフィラに集まる冒険者はランクレベル4以上推奨。五人から十人でパーティーを組み、拠点を拡げながらダンジョンの攻略を進めている。ナフィラの町はそういった冒険者や、ナフィラ領お抱えの兵士や騎士で成り立っている要塞都市。一攫千金も夢ではないが、治安は正直あまりいいとは言えない」
「ほえ~」
「だが、だからこそティハのクッキーは人気が出る。きっと。保証する」
後ろを振り返り、見上げるとずいぶん上に頭がある。
本当に大きい人だなぁ、と目を細めてから、笑顔で「やってみます~」と答えた。
しかし、急に話題が止まる。
謎の沈黙が流れたので、ティハは次になにを聞けばいいのか首を傾げた。
「えっと、それで……だな」
「はい~?」
「ティハは、一応成人している、んだよな?」
「はい~。王都から出て三日目くらいで~、え~と、昨日くらい? に生まれた日が来ましたから~」
「昨日が生誕日だったのか!?」
「ホリーさんは大きいですよねぇ~? ホリーさんは何歳なんですか~?」
「俺は二十四だ」
「んぇ~~~。二十四歳になるとそんなに大きくなれるんですねぇ~」
「ん? ん?」
若干なにを言っている? みたいな顔をされる。
笑顔で見上げると結局「まあいいか」と目を泳がせるホリー。
気を取り直して、わざと咳き込む。
「ナフィラに着いたらまずは領主城の中にある冒険者拠点本部で『滞在権』の申請を行う。犯罪歴がなければその場で仮の身分証が発行され、その身分証に滞在権がついてくる感じだな。ナフィラで仕事をして半年後、正式な身分証の申請ができるようになる。家は金が溜まるまで俺の家に住めばいいし、残りの七万マリーでクッキーの材料を買って冒険者拠点の売店に置いてもらえるよう頼めば、売り上げに応じて定期的な卸しを依頼されるようになるだろう。話は俺がつけるから、なにも心配しなくていい。それでな……ええと……結婚……」
「んぇ~~~、なにからなにまで申し訳ないです~。でも、ありがとうございます~」
「………………。うむ。まあ、その話はまたナフィラに着いたら詳しく説明しよう。他にもわからないことがあればなんでも聞いてくれ」
「ありがとうございます~。あ、でも面倒くさくなったらいつでも捨ててくださいね~。自分でなんとかしますから~」
「そんなことはしない」
優しい、誠実な人だ。
冒険者というより、口調も相俟って騎士のようだなと思った。
(優しい人にはあんまり期待しちゃダメですよね~。早くお金を貯めて、自立して暮らせるようにならないと~)
142
お気に入りに追加
176
あなたにおすすめの小説
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

王子様と魔法は取り扱いが難しい
南方まいこ
BL
とある舞踏会に出席したレジェ、そこで幼馴染に出会い、挨拶を交わしたのが運の尽き、おかしな魔道具が陳列する室内へと潜入し、うっかり触れた魔具の魔法が発動してしまう。
特殊な魔法がかかったレジェは、みるみるうちに体が縮み、十歳前後の身体になってしまい、元に戻る方法を探し始めるが、ちょっとした誤解から、幼馴染の行動がおかしな方向へ、更には過保護な執事も加わり、色々と面倒なことに――。
※濃縮版
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。

婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される
田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた!
なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。
婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?!
従者×悪役令息

完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します

僕のユニークスキルはお菓子を出すことです
野鳥
BL
魔法のある世界で、異世界転生した主人公の唯一使えるユニークスキルがお菓子を出すことだった。
あれ?これって材料費なしでお菓子屋さん出来るのでは??
お菓子無双を夢見る主人公です。
********
小説は読み専なので、思い立った時にしか書けないです。
基本全ての小説は不定期に書いておりますので、ご了承くださいませー。
ショートショートじゃ終わらないので短編に切り替えます……こんなはずじゃ…( `ᾥ´ )クッ
本編完結しました〜

末っ子王子は婚約者の愛を信じられない。
めちゅう
BL
末っ子王子のフランは兄であるカイゼンとその伴侶であるトーマの結婚式で涙を流すトーマ付きの騎士アズランを目にする。密かに慕っていたアズランがトーマに失恋したと思いー。
お読みくださりありがとうございます。

アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜
車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第二の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる