流星群の落下地点で〜集団転移で私だけ魔力なし判定だったから一般人として生活しようと思っているんですが、もしかして下剋上担当でしたか?〜

古森きり

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リグ エンディング

契約

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 あの戦いのあと、リグはウォレスティー王国に残ることを選んだ。
 選んだ、というよりリョウの「カーベルトに帰って働きたい」という希望を優先してくれた、という方が正しいだろうか。
 フィリックスが今回の功績で三階級特進したのもあり、彼の庇護下で召喚警騎士団に助力しながらレオスフィードの家庭教師をやることになった。
 そのため、リグもまたカーベルトに部屋を借りて夜に帰ってきて朝に出勤している。
 
「ただいま」
「おかえりなさい」
「おかえりなさーい! ダンナさーん!」
 
 リグが住むようになり、一緒にいたいとスエアロもカーベルトに住み込みで働くようになった。
 ガウバスも自分の犯した罪を償うために、フィリックスの契約召喚魔として働き始めた。
 存外、二人とも今の生活の方が楽しいと言っている。
 リグがダロアログの虐待に怯えることなく生活できるのは、確かに二人の精神的な面にもいいことなのだろう。
 スエアロは人間が相変わらず嫌いだが、冒険者たちの程よい柄の悪さと相性がいいらしく悪態をつきながらもせくせく働いている。
 夕飯時になるとリョウもリータ、リグ、スエアロ、ガウバス、おあげとおかきに囲まれながら夕飯を食べる日常が、たまらなく幸せに感じられるようになった。
 
「リグ、今日はお仕事大丈夫だった?」
「ああ、いつもフィリックスたちが守ってくれる。ガウバスもいるし」
 
 確かにいくら貴族といえどレオスフィードが重用している召喚警騎士と[異界の愛し子]を害するのは難しかろう。
 貴族への意識改革を強要する流れが強まっており、反発は激しいもののさすがにレオスフィードが神竜エンシェントウォレスティードラゴンに認められた今、国内は非常に不安定。
 他国もつけ入る隙があると接触を図っているようだが、[異界の愛し子]が増えたことでかなり慎重らしい。
 リグの存在は確かに抑止力になっている。
 それほどまでに、[異界の愛し子]の存在は大きい。
 それなのに、そんなリグの力を利用しようとすれば他の貴族たちから睨まれる。
 力の強い貴族が何人か接触してきたらしいが、レオスフィードが追い払ったそうだ。
 今日も今日とて、比較的安全に一日を終えられたようでなによりだ。
 
「……僕はいつも守られてばかりで――」
 
 本当にこのままでいいのか、と呟くリグに、また目を丸くしてしまう。
 本当に、成長著しい。
 レイオンの言っていた『自分がどうしたいのか』を、もう少しで考えられるようになりそうだ。
 
「ねえ、ちょっとだけ悪いことしない?」
「え?」
「私も最近、おあげとおかきに教えてもらった秘密の場所があるの」
 
 手を掴んで、屋根裏部屋に向かう。
 窓から出ると、カーベルトの屋根の上。
 そこから見上げる満天の星空。
 
「コンコーン!」
「ぽーんぽーん」
「ね、すごいでしょう?」
「ああ」
 
 ハンカチをお尻の下に敷いて、見上げる。
 リグもリョウを真似て夜空を見上げていた。
 
「あのね、本当のことを言うと、私、もう少しリグには守られていてほしい」
「どういうことだ……?」
「リグは一人の時間がとても多かったでしょう? それに、レイオンさんやフィリックスさんがリグには『大人に守ってもらった経験がないのが心配』って言っていたの。私は前の世界で、なんだかんだ親の庇護下にはいたから……リグももっと誰かに守ってもらう経験をした方がいいんじゃないかなぁ、って」
「けれど……」
「うん、シドも……そうだけど」
 
 シドは完全に“守る側”の人間だ。
 幼い頃からリグを守る“兄”だった。
 シドも当然、大人に守られた経験はないだろう。
 リグはシドにも、普通の人間のような生活を送ってほしいと思っていた。
 リョウだってリグと同じ気持ちだ。
 けれどシドが選んだのは今までと同じ、日陰からリグを守る形。
 
「すぐにはきっと無理だと思うけれど、今はまだ無理せず守ってもらいながら普通の生活に慣れてほしいなって。私がカーベルトの生活を取り戻したいって思うくらい、今の生活が楽しくて幸せなのを、リグにも理解してほしいというか……」
「今の生活……」
「ダロアログに捕まっていた時に比べて、どう?」
「制限がなくて不思議な感じだ。毎日知らないことが必ずあって、フィリックスとスフレとオリーブに教わってばかりだ」
 
 ミルアの名前が入っていないのに、一瞬スン……となる。
 いや、今はそれはどうでもいい。
 
「私もまだこの世界で知らないことがたくさんあるの。だからこれからも、二人で勉強して慣れて行こう。シドも『守るために守られるのは悪いことじゃない』って言ってたし」
「シドが……」
 
 少しだけ俯いてから、また星空を見上げるリグ。
 なにか吹っ切れたように「うん」とリョウの方に頭を乗せる。
 この先も、きっと守り、守られていく。
 リョウとリグはそういう約束契約でここにいるのだ。



リグ 召喚警騎士エンディング
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