110 / 112
リグ エンディング
契約
しおりを挟むあの戦いのあと、リグはウォレスティー王国に残ることを選んだ。
選んだ、というより涼の「カーベルトに帰って働きたい」という希望を優先してくれた、という方が正しいだろうか。
フィリックスが今回の功績で三階級特進したのもあり、彼の庇護下で召喚警騎士団に助力しながらレオスフィードの家庭教師をやることになった。
そのため、リグもまたカーベルトに部屋を借りて夜に帰ってきて朝に出勤している。
「ただいま」
「おかえりなさい」
「おかえりなさーい! ダンナさーん!」
リグが住むようになり、一緒にいたいとスエアロもカーベルトに住み込みで働くようになった。
ガウバスも自分の犯した罪を償うために、フィリックスの契約召喚魔として働き始めた。
存外、二人とも今の生活の方が楽しいと言っている。
リグがダロアログの虐待に怯えることなく生活できるのは、確かに二人の精神的な面にもいいことなのだろう。
スエアロは人間が相変わらず嫌いだが、冒険者たちの程よい柄の悪さと相性がいいらしく悪態をつきながらもせくせく働いている。
夕飯時になると涼もリータ、リグ、スエアロ、ガウバス、おあげとおかきに囲まれながら夕飯を食べる日常が、たまらなく幸せに感じられるようになった。
「リグ、今日はお仕事大丈夫だった?」
「ああ、いつもフィリックスたちが守ってくれる。ガウバスもいるし」
確かにいくら貴族といえどレオスフィードが重用している召喚警騎士と[異界の愛し子]を害するのは難しかろう。
貴族への意識改革を強要する流れが強まっており、反発は激しいもののさすがにレオスフィードが神竜エンシェントウォレスティードラゴンに認められた今、国内は非常に不安定。
他国もつけ入る隙があると接触を図っているようだが、[異界の愛し子]が増えたことでかなり慎重らしい。
リグの存在は確かに抑止力になっている。
それほどまでに、[異界の愛し子]の存在は大きい。
それなのに、そんなリグの力を利用しようとすれば他の貴族たちから睨まれる。
力の強い貴族が何人か接触してきたらしいが、レオスフィードが追い払ったそうだ。
今日も今日とて、比較的安全に一日を終えられたようでなによりだ。
「……僕はいつも守られてばかりで――」
本当にこのままでいいのか、と呟くリグに、また目を丸くしてしまう。
本当に、成長著しい。
レイオンの言っていた『自分がどうしたいのか』を、もう少しで考えられるようになりそうだ。
「ねえ、ちょっとだけ悪いことしない?」
「え?」
「私も最近、おあげとおかきに教えてもらった秘密の場所があるの」
手を掴んで、屋根裏部屋に向かう。
窓から出ると、カーベルトの屋根の上。
そこから見上げる満天の星空。
「コンコーン!」
「ぽーんぽーん」
「ね、すごいでしょう?」
「ああ」
ハンカチをお尻の下に敷いて、見上げる。
リグも涼を真似て夜空を見上げていた。
「あのね、本当のことを言うと、私、もう少しリグには守られていてほしい」
「どういうことだ……?」
「リグは一人の時間がとても多かったでしょう? それに、レイオンさんやフィリックスさんがリグには『大人に守ってもらった経験がないのが心配』って言っていたの。私は前の世界で、なんだかんだ親の庇護下にはいたから……リグももっと誰かに守ってもらう経験をした方がいいんじゃないかなぁ、って」
「けれど……」
「うん、シドも……そうだけど」
シドは完全に“守る側”の人間だ。
幼い頃からリグを守る“兄”だった。
シドも当然、大人に守られた経験はないだろう。
リグはシドにも、普通の人間のような生活を送ってほしいと思っていた。
涼だってリグと同じ気持ちだ。
けれどシドが選んだのは今までと同じ、日陰からリグを守る形。
「すぐにはきっと無理だと思うけれど、今はまだ無理せず守ってもらいながら普通の生活に慣れてほしいなって。私がカーベルトの生活を取り戻したいって思うくらい、今の生活が楽しくて幸せなのを、リグにも理解してほしいというか……」
「今の生活……」
「ダロアログに捕まっていた時に比べて、どう?」
「制限がなくて不思議な感じだ。毎日知らないことが必ずあって、フィリックスとスフレとオリーブに教わってばかりだ」
ミルアの名前が入っていないのに、一瞬スン……となる。
いや、今はそれはどうでもいい。
「私もまだこの世界で知らないことがたくさんあるの。だからこれからも、二人で勉強して慣れて行こう。シドも『守るために守られるのは悪いことじゃない』って言ってたし」
「シドが……」
少しだけ俯いてから、また星空を見上げるリグ。
なにか吹っ切れたように「うん」と涼の方に頭を乗せる。
この先も、きっと守り、守られていく。
涼とリグはそういう約束でここにいるのだ。
リグ 召喚警騎士エンディング
1
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。


出生の秘密は墓場まで
しゃーりん
恋愛
20歳で公爵になったエスメラルダには13歳離れた弟ザフィーロがいる。
だが実はザフィーロはエスメラルダが産んだ子。この事実を知っている者は墓場まで口を噤むことになっている。
ザフィーロに跡を継がせるつもりだったが、特殊な性癖があるのではないかという恐れから、もう一人子供を産むためにエスメラルダは25歳で結婚する。
3年後、出産したばかりのエスメラルダに自分の出生についてザフィーロが確認するというお話です。

跡継ぎが産めなければ私は用なし!? でしたらあなたの前から消えて差し上げます。どうぞ愛妾とお幸せに。
Kouei
恋愛
私リサーリア・ウォルトマンは、父の命令でグリフォンド伯爵令息であるモートンの妻になった。
政略結婚だったけれど、お互いに思い合い、幸せに暮らしていた。
しかし結婚して1年経っても子宝に恵まれなかった事で、義父母に愛妾を薦められた夫。
「承知致しました」
夫は二つ返事で承諾した。
私を裏切らないと言ったのに、こんな簡単に受け入れるなんて…!
貴方がそのつもりなら、私は喜んで消えて差し上げますわ。
私は切岸に立って、夕日を見ながら夫に別れを告げた―――…
※この作品は、他サイトにも投稿しています。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~
tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。
番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。
ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。
そして安定のヤンデレさん☆
ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。
別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

一番悪いのは誰
jun
恋愛
結婚式翌日から屋敷に帰れなかったファビオ。
ようやく帰れたのは三か月後。
愛する妻のローラにやっと会えると早る気持ちを抑えて家路を急いだ。
出迎えないローラを探そうとすると、執事が言った、
「ローラ様は先日亡くなられました」と。
何故ローラは死んだのは、帰れなかったファビオのせいなのか、それとも・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる