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リグ エンディング
新たな道を二人で
しおりを挟むあの戦いのあと、リグは涼とともに自由騎士団に保護されることを選んだ。
選んだらというより、シドに勧められたからその通りにした――が、正しい。
そのシドもノインに捕獲され、自由騎士団の騎士に仕立て上げられてしまった。
自由騎士団の召喚魔魔法師部門立ち上げに協力し、今ではすっかり自由騎士団の召喚魔魔法師として人々に崇められている。
少しだけ残念なのは、フィリックスがユオグレイブの町の召喚警騎士としていることだろうか。
いや、フィリックスの活躍は自由騎士団にいても聞こえてくる。
王都の事件で三階級も特進して、「殉死した?」と心配されたらしいのは、今はもう笑い話だろうか。
その日はたまたま休みで、リグと召喚魔法の勉強をしていた時だ。
「ねえ、リグ、私思ったんだけど」
「うん?」
「私の魔力量なら流入召喚魔たちを元の世界に帰すことってできないかな? 流入召喚魔が元の世界に帰れないのって、契約していないから、なんだよね」
「そうだ。――ああ、なるほど」
さすがはリグ。
ここまで言うと全部察してくれた。
流入召喚魔が元の世界に帰れない、主な理由は三つ。
一つ、契約していないから。
二つ、強制的に帰すには魔力が不足している。
三つ、強制的に帰したあとの無事が保証できない。
召喚魔魔法の契約というのは、お互いの座標を共有するところから始まる。
複数の条件をつけて、それに当てはまる者に“魔力、必要なら他にもコストを”支払って同意の上召喚して働いてもらい元の世界に帰す。
流入召喚魔はその座標が不明なのだ。
しかし、[異界の愛し子]はそれらの作業を魔力の質により省略する。
契約が非常ゆるくて、お互いの座標だけを目印に召喚と相関を行う。
元々がそれほど簡易なため、涼とリグならば流入召喚魔に対して送還もできるのではないか、と考えた。
問題は座標だ。
彼らが元々住んでいたところへ帰すためには、座標がわからなければならない。
それを解決するののに、リグが作った召喚魔法の魔法陣を応用する。
リグが涼を召喚した時に、【聖杯】の条件に合う人間を八異世界以外の異世界から探し出した。
砂漠で砂金を一粒探すほどに困難なそれを、破格の魔力量でやり遂げたのがリグだ。
コストをかけずに該当の異世界の住人に来てもらい、まずは異世界の地図を作る。
そこから「ここに住んでいた」という者を集めて“土地”を座標として魔力量で無理矢理道を作り出す。
そうして送還すれば、涼とリグの魔力量ならば上手くいくだろう。
普通の召喚魔法師の魔力量は40前後が一般的。
無契約の召喚魔を送還するのには、個体差はあれどおそらく一人につき200ほどかかる。
リグと涼ならば、一日で数十人可能。
「でもそれならまずは地図から作らないと」
「うん、頑張ろう!」
特に多く流入しているのは【獣人国パルテ】の獣人たち。
リグに鳥人族の召喚魔を召喚してもらい、いくつかのいくつかのエリアを地図用の紙に書き込んでいく。
当然鳥人族の住んでいるエリアとは違うエリアの獣人の情報も必要なので、何人もの獣人の話を聞く必要がある。
それを数日、繰り返す。
「うん。だいぶいいと思う」
「それでも全容がわからないんだね……【獣人国パルテ】って広いんだなぁ」
「これをあと五回繰り返すんだが、大丈夫か?」
「うん」
村の名前や町の名前が無数にある、だだっ広い。
おそらくこれでも完成には程遠い。
だからまずは、この範囲に住んでいる者たちを探して意見を聞いてみよう――ということになった。
「上手くいくかなぁ」
「理論上は問題ない。最初の者たちは事前に契約魔石を作っておいて、帰してから一度召喚して、無事に帰還できたかを確認しよう」
「そっか!」
それならば、万が一別の地域に飛ばされても問題はない。はず。
さすがはリグだ。
涼が考える程度のことは、リグも考えてある。
「早速ファプティスさんに相談してこよう」
「リョウ」
「なに?」
「……僕のためだろうか?」
立ち上がった涼に、リグが不安そうに聞く。
リグのために――。
この世界に流入してきた召喚魔たちは、ハロルド・エルセイドの所業により巻き込まれて来た。
今も多くの召喚魔が『エーデルラーム』の人間たちに“資源”として利用されている。
それがより、ハロルド・エルセイドへの呪いを増やしていく。
その呪いはハロルドの息子である、シドとリグにも向けられる。
知らない誰かに憎まれ、恨まれ、呪われ、不幸を望まれてしまう。
だから送還することで、少しでも食材になるように――。
「うーん、それもあるけど……ただ単に帰れるのなら帰れる方がいいと思うから」
「帰れるのなら」
「うん。私は自分で帰らないことを選んだけれど、帰りたいって言っていた人たちの気持ちもわかるの。カーベルトでの生活もすごく楽しかった。落ち着いたらまた戻れたらって思う。リグにもそういう“帰る場所”があればわかると思うけど……」
「……うん」
座るリグの横に歩み寄り、抱き締める。
その帰る場所が――自分のもとであればいい。
「だから別に、リグのためだけっていうわけじゃないから大丈夫。一緒に頑張ろう」
「……うん」
二人で世界を正していこう。
そう言った涼の体をリグが抱き締める。
とても、とても心休まる。
幸せだな、と思った。
リグ 自由騎士団エンディング
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