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フィリックス エンディング
同じ憧れ
しおりを挟む「辞めることにしたよ。これが終わったら――」
そうなんですか、としか答えられなかった。
王都の瓦礫を撤去しながら、フィリックスが選択したのは自由騎士団への転職。
国王と直接話し合ったフィリックスにとって、それは本当に悲しむべきことだったらしい。
レオスフィードが王になる未来が確定していても、その失意は深い。
涼はリグとともに自由騎士団に保護してもらうことを選択し、自由騎士団への入団試験を受けるフィリックスと刃、ノインとともに総本山へと向かうことになった。
シドは気がつけば姿を消しており、影からリグを守る道を再び選んだようだ。
フィリックスの退職を聞いて、スフレもミルアも退職すると聞いている。
ユオグレイブの町はこれから貴族たちだけで日々のトラブルを解決していかなくてはならなくなった。
だが、フィリックスたちを惜しむ声よりも応援する声の方が遥かに大きい。
皆口々に「自由騎士団になってユオグレイブに帰ってこい」と言う。
そういう期待を寄せられて、フィリックスは自由騎士団という道を選択したのだ。
「……って、存外簡単になれてしまうものなんだなぁ?」
「えー? ファプティスさんとの問答で一発合格する人って結構少ないんだってよ?」
「え? そうなのか?」
「え、そうなの?」
自由騎士団の総本山本部の要塞の中を案内してもらいながら、涼とリグも今後発足予定の召喚魔法師部門にフィリックスとともに参加する予定だ。
本部としてもようやく勝ち取った召喚魔法師なので、フィリックスとリグと涼、そして刃はかなり重宝されそうらしい。
十一の階級のうち、フィリックスと刃はいきなり五等級にされたのだから。
「それにいきなり五等級はなんか、こう、ずるくないか?」
「ないよ。ボク最初から三等級だったし」
「あ……そ、そうかぁ」
すごい前例がいると色々スムーズなものである。
「実際おれたちってこれからなにをすればいいんだ?」
「えーと、基本的な実習のあと二年に一度の進級コロシアムがあるから興味があれば参加してくれるといいかなぁ。師匠としては四人に世界中の召喚魔法師の受け皿として、自由騎士団がどうやって活動していけばいいのか探っていってほしいみたいだから……大変だと思うけど……」
「うーん、自由騎士団として、召喚魔法師としての活動か……」
自由騎士団の存在理由としては、貴族の横暴から市民を守る。
内政干渉はせず、内戦が始まるようなら撤退する。
己の騎士道を曲げることなく、弱きを守る。
内戦が始まったら基本的には撤退が推奨されるが、己の騎士道が優先される。ただし、成人済みに限る。
「こんな感じ!」
「なるほど」
「意外と少ないけど……難しいね」
「うん。師匠は世界中の平民召喚魔法師が貴族に虐められているようなら受け皿になれればって思ってるらしいけど、具体的な活動方法とかさっぱり考えてなかったんだよね」
「レイオンさんらしいなぁ」
では具体的にどんなことをすればいいのかを、四人で考えることにした。
部屋をひとつ借りて、今後どう活動していくべきかの意見を出していく。
「ジン・シンドー五等級騎士、部屋の掃除が終了したので荷物を持って移動を行うように」
「え! あ、は、はい!」
「あ、あの、おれ――自分は?」
「フィリックス・ジード五等級騎士の部屋はまだ終わっていない。終了後に別のものが案内に来るのでそれまで待機していてほしい。[異界の愛し子]様方には護衛騎士が後ほど到着する予定故、今しばらくこちらでお待ちいただきたい。それまでフィリックス・ジード五等級騎士がお二人の護衛を引き継ぎ行ってもらいたい」
「りょ、了解しました」
六等級以上には個室が与えられるとは聞いていたが、使用人はとても少ない。
レイオンが要塞内にユオグレイブの町のスラムの子どもたちを連れてきたのも、一応は教育を施して要塞内の雑務を手伝わせることにしたため。
基本的に本部に騎士の滞在は少ないが、一年交代で再配置があるのでその時期には人が増えるそうだ。
三等級以上は自分の好きな滞在地域を選べたりもするそうだが、三等級が十名、二等級がノイン含めて五名、一等級は二名しかいない。
今回ノインが剣聖に格上げされるため、二等級は間もなく四名になる。
かといって三等級から格上げになるわけではなく、進級したければ進級コロシアムというバトルロワイヤルで勝利しなければならないらしい。
五等級以上は集まるのが難しいため、再配置の時期に合わせて進級希望を出す必要があり難しいんだそうだ。
「話に聞いていた以上に進級はキツイんだなぁ」
「私とリグには等級もらえなかったんだよね」
「僕らは“客”の扱いだからな」
「そ、そっかぁ……でもそれならどうやって自由騎士団の人たちの役に立つのかもっと考えないとだね。自由騎士団の立場から他国に干渉して、フィリックスさんたちみたいな召喚警騎士の人たちのを手伝えるようになればいいんだもんね」
「とはいえ、自由騎士団の持つ『決闘』の特権を召喚魔法師で実践するのは少し矛盾を感じる。剣士だからこそ、成立する部分だろう」
「そうだな。自由騎士団に召喚警騎士のような捜査権や逮捕権があればいいんだが……」
「…………」
「大丈夫? リグ」
がく、と傾いたリグを涼が支える。
魔力が回復し切っていないのだろう。
加えて、消費してしまった黒魔石の魔力を、再び補完もしている。
旅の最中にもよく倒れかかっていた。
部屋の隅にあるソファーに涼とフィリックスが支えて寝かせて、おあげとおかきに小領域を作ってもらう。
急になんとも言えない空気が涼とフィリックスの間に漂った。
「あ……あの、リョウちゃん……」
「は、はい。なんでしょうか」
「多分これから忙しくなると思うから、今言っておこうと思うんだけど……その……勘違いじゃなかったらリョウちゃんはおれのこと割と好き? その……恋愛方面で」
「うっ」
急にどうしたんですか、とモゴモゴしながら聞き返すと、「聞きたかったんだけど、機会がなかったじゃん?」と言われる。
確かに。
道中必ず誰かしらと一緒だった。
二回ほど「話があるんだけど」とフィリックスに誘われたが、刃とノインに声をかけられてタイミングを失していた。
だからやっと二人で話せる。
リグに聞かれても、とりあえずは問題ない。
なぜなら――
「でも、フィリックスさんは、リグのことが好きなんですよね」
「好きは好きだけど……どちらかというと憧れかな」
「…………」
顔を上げる。
その気持ちは涼にもてともよくわかる。
リグと、シド。
二人に対して抱く、涼の憧れの感情。
まったく同じではないだろうが、彼の生き方を今の形に導くほどの憧れ。
「だから、そのー……リョウちゃんさえよければ……おれと――」
「はい」
「え、さ、最後まで言わせて?」
「ふふ。……はい、お付き合い、しましょう。喜んで」
「! そ、そう! うん! よろしく!」
フィリックス 自由騎士団エンディング
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