流星群の落下地点で〜集団転移で私だけ魔力なし判定だったから一般人として生活しようと思っているんですが、もしかして下剋上担当でしたか?〜

古森きり

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刃 エンディング

この世界で、隣で

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ジンくん、本当に元の世界に帰らないの?」
「うん、このままエーデルラームで自由騎士団フリーナイツの騎士になるよ。決めていたことだし」
「そ……そう」
 
 しょぼん、としたリョウ
 ハロルドを倒してから一ヶ月経つ。
 王都を失った王侯貴族の一部はユオグレイブの町に避難し、フィリックスとスフレは王都の町の撤去に協力するため居残り。
 リョウとリグは、自由騎士団フリーナイツに保護してもらうためにノインとジンとともにユオグレイブの町に一度戻ってから自由騎士団フリーナイツ総本山に向かうことになった。
 ジンは一応仮見習いなので、そのまま正式に所属できないか試験を受けるつもりだ。
 シドは――気づけばいなくなっていた。
 捕まる恐れは少なかっただろうに、シドは影からリグを守り続ける道を選んだ。
 ただ、今回の件で懸賞金は減額されることなく、むしろ二十億加算されて世界最高額を更新した。
 レイオン曰く、それが『シドの価値』として永遠に残り続けるだろう、とのことだ。
 
リョウちゃんは、これからどうするの?」
「……本当はユオグレイブの町のカーベルトに帰りたいな、とは思っているの。でも、私の魔力保有可能量がリグよりも多いのは変えれない事実だし、試してみてやっぱり私も[異界の愛し子]だったから――自由騎士団フリーナイツの召喚魔法師を目指そうかなって。リグだけじゃなくて、私の存在が世界にどんな影響を齎すのかまだわからないけれど……」
「そう……」
 
 すでに宿の窓から見える真っ白な山。
 雪がかかっているわけではなく、土が白いのだそうだ。
 ただ、山頂はやはり空気が薄くて肌寒い。
 すでに自由騎士団フリーナイツの支配領であり、自由騎士を目指す冒険者がこの宿にも多く泊まっている。
 シドに言われた通り、この世界での人の命は軽い。
 自由騎士団フリーナイツの騎士が背負う責務はそれとは比較にならないほどに重く、必要とあれば人を殺めることも求められる。
 ノインも人を殺めた経験があると言っていた。
 そうしなければ多くの人が苦しめられ続け、理不尽に命を奪われたりもするからだ。
 人を殺すのは怖い。
 けれどその人間を殺さなければ罪のない人が死ぬ。
 被害を出さないために、そこで食い止めるために殺すのだ。
 それが騎士の勤めであり、背負う義務。
 あの白い山に住む騎士たちは、その覚悟を持って世界を少しでも良くしようと生きている。
 
ジンくんは――」
「うん……わかってるんだ」
 
 窓の手すりに手をかける。
 そこまで言われて、言葉を選ぶように見上げられたらジンにもわかる。
 リョウは必要ならば人を殺める覚悟ができているのだ。
 いや、ハロルドの体も魂もすべて魔力に変えて食らったリョウには、その覚悟を持たざるを得なかったのかもしれない。
 
「無理に殺す必要はないし、その日が来たら受け入れるし絶対に躊躇しない。ただその日がいつか来る。そう思うようにする。……そうなっても、オレは揺るがないように。覚えていられはように」
「……うん」
「それがこの世界で生きていくことだとしても」
 
 胸の薄紫色の契約魔石が微かに光る。
 エルが肯定してくれる。
 人は変わるけれど、せめてハロルドのような変わり方をしないでほしい、と。
 それと同じくらい、首輪という制限のなくなったリョウの召喚魔法師としての実力は未知数だ。
 リグと同じ[異界の愛し子]ならば、間違いなくジン以上。
 そんな彼女を「守る」なんて、おこがましいことをもう二度と言えない。
 シドですらリグとは「絶対戦いたくない」と言っていた。
 それはなにも、大事な弟だから――なんて理由ではない。
 あのシドでさえ、リグと戦えば無事では済まないし勝てないとさえ思っているのだろう。
 全力で挑んでも、伝承級の召喚魔を無数に召喚されれば勝ち目はない。
 今もリョウの足元についている二匹の召喚魔――稲荷狐と治化狸ちばけたぬきは伝説級の神獣。
 きっと守られる側になるのは自分の方。
 
「きっとリョウちゃんは、オレが側にいなくても大丈夫なんだろうね」
「え……?」
「でも、やっぱりオレ、リョウちゃんの隣にいたいよ。こっちの世界で初めて見る一面が、こんなにたくさんあったんだっていつも驚かされているんだけど……そういうところをこれからも見ていたいから」
 
 また振られてしまうだろうけれど、口説くと決めている。
 素直に好意は伝えていこう。
 そういう意味で告げると、少しだけ泣きそうな表情をされた。
 あ、と口を開けてしまう。
 人を――ハロルドを魔力として食い殺した。
 それもまた、彼女の新しい一面だ。
 
「オレが人殺しになっても、驚かないでいてくれる?」
「……うん。大丈夫だよ。……たとえ人を殺す日が来ても、ジンくんは間違えない人だと思うもの」
「そうかな?」
「うん」
 
 手を差し出されて、少し驚いたけれどその手に手を重ねた。
 これからなにがあっても、彼女の隣なら大丈夫だと思う。
 
「一緒に生きていこう。ジンくんの隣には私がいるから、私の隣に、ジンくんにいてほしい」
「え、あ、も、もちろん」
 
 どういう意味?
 一瞬困惑したけれど、たとえそんな意味でなくても、この世界で一緒に生きていこう。
 隣で。





 ジン 残留エンディング
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