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刃 エンディング
この世界で幸せになろう
しおりを挟むあの戦いから、間もなく半年。
刃は元の世界に帰ることを選んだ。
一人ではなく、涼も一緒に。
「今更っていうか……涼ちゃん、その、本当に一緒に帰ってくれるの?」
「もう……本当に一緒に帰るってば。だって刃くんがずっと『一緒に帰ろう』って言ってたんじゃない」
「それはそうだけど……」
それは刃の希望の通り。
あの戦いのあと、一緒にいる時間がとても増えた。
シドはリグをレイオンに預けてどこかへ消えてしまうし、リグはレイオン、ノインと共に自由騎士団の総本山に旅立った。
涼と刃も、今は自由騎士団の総本山にお世話になっている。
召喚魔法師の部門設立に向けてリグはとても必要とされており、自然と勉強段階の涼と刃は一緒の時間が増えたのだ。
なので、一週間ほど前、刃は涼に三回目の告白をしてみた。
まさかのOKをもらい、今もまだ現実味がなくてふわふわしている。
一週間、ずっと手も握れぬまま今まで通りできていた。
そこにきて、刃と一緒なら元の世界に帰る、と言ってくれたのだ。
刃の最初の望み通り――。
「もういいの。両親にはなにも期待してないから。でも、だからこそなあなあにせずちゃんと終わらせたいな、って……リグとシドを見て思ったの。私もちゃんと立ち向かって、やっつけたい。向こうで仕事を見つけて働ける自信もついたし、刃くんが一緒にいてくれるのなら、私はきっと間違えないで生きていける」
「涼ちゃん……」
「それに、自信はないままだよ。うちの家族はあんな感じだから、結婚しても冷めることは普通にあるんだろうなって思ってる」
「そ、そんなことはないよ! オレは十年以上涼ちゃんに片想いしてたんだから! 絶対ない!」
冷めるなんてない、とはっきり言い切るが、涼は少しだけ悲しそうに微笑む。
絶対ない、なんてことは好きになるのと同じくらい不確かなことだから言わないでほしい――と。
「涼ちゃん……」
「でも、そうだね。刃くんにはこれから証明していってもらえればいいかな。私はあんまり期待しないで、刃くんの“絶対”を信じてみるから」
「っ……うん!」
そうして元の世界に――地球に、日本に帰った。
同じ大学を受験して、家から出て同棲を始める。
アルバイトをしながら学費を払って、足りない分は両親に支払ってもらったのでコツコツ両親に返す予定だ。
大学の学費だけは、涼も父親に出してもらった。
ただ、娘を放っていた無責任さからくる罪悪感でもあったののか涼の父親は「学費は返す必要はない」と言い「その代わり金輪際会わない」とも宣言している。
涼はそれでいいと言っていたし、母親に至っては電話で「あ、そぉ」で済ませたそうだ。
だから涼には刃だけ。
大学で新しい友人もできたらしいが、全員刃目当ての女子で友情だと思っていたものは一年後に破綻した。
(本当に連れて帰ってきてよかったのだろうか)
大学の時に教員免許を取得して、高校の教育になった刃と、公務員になって市役所勤めの涼。
あまり無理をしない程度に社会人生活を送り始めたが、刃の頭の中にはずっとその考えが残っている。
刃は家族仲がいいので、家族と離れるのに抵抗感が強かった。
けれど現実に涼が両親と完全に絶縁状態になり、刃と二人暮らししている今も夜になると考えてしまうのだ。
彼女の幸せは『エーデルラーム』にしかなかったのでは、と。
「涼」
「んん? なぁに?」
「結婚しよう」
「え?」
「ちゃんと家族になろう」
「………………うん。家族にしてくれるの?」
「うん」
エアコンをつけっぱなしにして、熱帯夜なのに二人でベッドに横たわり抱き合って寝よう、という時に。
唐突に、刃が口にしたプロポーズ。
少しだけ驚いた涼が、刃の胸に顔を埋めて答えた。
「指輪、買いに行こう。えっと、初任給でよければ」
「無理しなくてもいいけど……そうだね、二人で見に行こうっか。お揃いのやつ?」
「うん。婚約指輪は三ヶ月分だっけ」
「今時婚約指輪買う人いなくない?」
「ダメだよ。婚約指輪って男の甲斐性っていうか……『俺になにかあった時はこれを換金して、やり過ごしてください』っていう意味なんだって。だから、贈らせて」
「じゃあ、私も刃に時計買うね」
「あんまり高いものじゃなくていいからね?」
「それじゃあ意味ないよぉ」
クスクスと笑って背中に手を回す涼を、抱きしめる。
きっと『エーデルラーム』に残した方が、彼女は幸せだった。
今なぜかはっきりとそう確信した。
だからこそ、この世界で――自分が必ず幸せにしよう。
家族になろう。
「幸せになろうね」
「……うん、そうだね」
刃 帰還エンディング
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