流星群の落下地点で〜集団転移で私だけ魔力なし判定だったから一般人として生活しようと思っているんですが、もしかして下剋上担当でしたか?〜

古森きり

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7章

対策会議 3

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 目を覚ましたのは二日後で、本当に驚いた。
 どうやらリョウとリグは王都周辺のダンジョン化の日、魔力を使い過ぎてしまったらしい。
 なお、それを説明してくれた時のシドは「お前らの魔力量があり得なさすぎて、ちょっと現実離れして感じた」――そうだ。
 ちなみに「翌日の朝のこと覚えてないの?」とジンにものすごく心配そうにされたのだが、とんと記憶にない。
 リグも首を傾げていた。
 どうやら起き上がって食事も食べたらしいのだが、ダンジョン化した日の夜の記憶しか残っていない。
 その答えにジンとフィリックスがなんとも言えない表情をしていたのが気になる。
 が、詳しく聞いても教えてはくれなかった。
 
「……まあ、なんにしてもお前たちが起きたのなら護衛は増やした方がいいかもな」
「そうだな。ジンと――スフレに頼むか」
「スフレさんも見つかったんですね」
 
 よかったです、と胸を撫で下ろしたリョウに、フィリックスは「あいつも半泣きだったよ」と眉尻を下げる。
 それはそうだろう。
 簡易召喚魔法は使えるし、剣も扱えるがスフレには相棒召喚魔がいないのだ。
 相棒がいるといないのでは、やはり戦闘力に差が生まれる。
 列車に乗っていた他の警騎士や召喚魔法師は、実力でも経験でもフィリックスには劣るものの、誰一人欠けることなく合流したという。
 それほどまでに相棒の有無は大きい。
 
「ところで、支配人室を我々が使って本当にいいのか?」
 
 レオスフィードの髪を梳かしながら、リグが広い支配人室を眺める。
 この場にいるのはリョウジンとリグとシド、レイオンとノインとフィリックス、そしてアスカ。
 ミセラとアラベルはハロルド捜しに出かけている。
 彼女が王宮召喚魔法師を辞めたと聞いた時は驚いた。
 そして、その代わりに王侯貴族たちが旅館の中で働いているのだ。
 リグとリョウは起きたばかりで、昨日と一昨日になにがあったのかを知らない。
 なので、ハロルド捜しの作戦を聞く前に二日巻の出来事をもう少し詳しく教えてほしいのだ。
 
「結論から言うと、レイオンさんとミセラ様、アスカ様に見放された挙句シドに『どうしても殺したくなったらまず俺に相談しろ』と言われたのを拡大解釈したというか、それを言質に『働かざる者食うべからず』って言って王都内の瓦礫撤去や遺体の回収、墓作りや旅館の手入れをさせることにしたんだ。王都の中は今も幻覚効果で一般人は入れない。だから魔力のある貴族にも、王都内の作業を手伝わせることにしたらしい。それを嫌がった王族は屋敷の掃除をさせているそうだ」
「お、王族に、ですか?」
「うん! ボクも今から厨房のお手伝いしてくるんだ! 料理は早いって言われたけど、家事も覚えたかったからラッキー! リグ、髪の毛ありがとう! 行ってきます!」
「怪我しないように」
「はーい!」
 
 リグに髪を結ってもらったレオスフィードは、うきうきと一階の厨房に向かう。
 家事を覚えたがる王族はどう考えても彼だけだろう。
 第一王子、第二王子だけでなく、王妃が窓拭き、国王陛下にも床の拭き掃除をさせているらしいのだから「うわあ」と声が出てしまった。
 
「又吉ちゃん強い」
「当然ですにゃー!」
「わあ! 出た!?」
 
 天井から生えてきた又吉が、床に一回転して降りてきた。
 スタッと素晴らしい着地。
 からの、プンスコと怒りながら「無銭飲食も無銭宿泊もお断りにゃー!」と地団駄を踏む。
 それはその通りである。
 召喚魔とはいえ、旅館であることに変わりはないのだ。
 食事の材料費もある意味タダではない。
 リグが召喚魔法で召喚した打ち出の小槌で取り出したという。
 二日もリグが寝ていれば、突然食糧庫は空になる。
 となれば、王都の住人たちは自給自足に移行していかなければならない。
 水は地下の泉から無料で提供を許しているそうだが、食糧は持参に切り替えるそうだ。
 
「じゃあ、私たちもなにかご飯になるものを探してこないとだね」
「いえいえ、あるじ様とあるじ様の専属召喚魔様、そのお客人の皆様は別でございますにゃ。本当ならレオスフィード様もお客人ですから、働かれる必要はないのですにゃ……。父や兄君たちが働いているので自分もやりたいとおっしゃいまして」
「自主的にやるって言ってたんだ」
「そうなんですにゃん」
 
 真面目というかなんというか。
 
「ダンジョンが成長すれば『甘露の森』を食らって食糧問題はかなり改善されるだろうが……過ごしやすくしてもなぁ?」
「ですね」
「それに、他の町と連絡も取れないんでしょう?」
「ああ、通信端末は使い物にならない」
 
 首を傾げたシドに、ジンが強く頷く。
 ノインが自分の端末を持ち上げてフィリックスを見上げる。
 当然のように、フィリックスの端末も砂嵐を映し出す。
 
「やはり一刻も早くハロルドを見つけ出して、倒すしかないな。王都が陥落状態ともなれば、隣の国々が侵略に動き出すだろう」
「そ、そうか……そういう危険性があるんですね」
「この国の貴族どもは王都の指示がなければ、それを言い訳に使って逃げ隠れするだろうな。結局犠牲になるのは平民だ」
「国王陛下もあのご様子では平民にいくら犠牲が出ても、なんとも思わないだろう。ご自身の地位が安泰ならば、それでいいのだと」
 
 深刻な表情のレイオンに、平和な日本で生まれ育ったジンリョウはやはりいまいち想像ができない。
 ただ、シドすらレイオンの言っていることを危惧していたのだからあまり時間を与えるべきではないのだろう。
 フィリックスは一昨日の夜に王が平民を軽んじる結論を出したことで、完全に国を信じられなくなっている。
 スフレもそれを感じて、複雑そうな表情。
 
「シド、具体的にハロルドはどの辺りにいると思う?」
 
 アスカがテーブルに地図を開いて、王都の周りに円を描く。
 ギリギリユオグレイブの町が入らない。
 調査の結果、ダンジョン化した範囲がこれだけ広いということがわかった。
 それを見下ろしたシドは「この辺りだな」と指でトントン、と王都の北を指差す。
 ユオグレイブの町方面――この付近ではないか。
 
「え? このあたりにいるんですか!?」
「いる。間違いなく。表に見えないってことは地下か、あるいは上空だな」
 
 驚いたジンが聞き返すと、さらに具体的な答えが返ってきた。
 具体的だが、さすがに上空は現実味がない。
 
「王都の地下ってことか?」
「普通に考えればそっちの方が妥当だろうが、俺ならそんなわかりやすいところをわざわざ選ばねぇな」
「わかりやすいかぁ?」
「そりゃわかりやすいだろ。王都の地下といえば世界の底辺。一度落ちたら二度と抜け出せない地獄。清廉潔白な騎士様たちにゃ、触りを見るだけでも刺激が強すぎまるぜ。あそこにいるのは基礎膜の皮を被ったクソ獣とゴミと娯楽道具だけだからな」
 
 歓楽街など生ぬるい。
 貴族以外の人間も召喚魔もすべては貴族が楽しむための遊具。
 あらゆる娯楽を追い求めるのが目的であり、そこに正義も悪もない。
 欲望だけだ。
 無法地帯とはこのことで、人身売買も召喚魔オークションも当たり前。
 貴族であればあらゆることが罪になることはなく、出てくる食事は人魚や獣人の肉。
 仙人の血を混ぜたワインで喉を潤し、エルフはその美貌から娼館に集められ、天使や悪魔は羽をもがれて苦しみ仲間ら死ぬのを鑑賞される。
 頑丈なドワーフやドラゴンは射的の的にされ、ありとあらゆるものが賭けごとの担保に使われる。
 
「ま、待ってくれ! そんな、違法も違法じゃないか! そんなの王都のどこでやってるんだよ! そもそも王都に地下なんてないし……」
「[異界の愛し子]のアンタの耳には絶対入らねぇよ。さすがにそんな馬鹿な真似はしねぇだろ。地下には裏社会の人間か、馴染みの貴族しか入り方がわからないようになっている。特に貴族は一見さんお断りだからな。入るのにも予約がいるっつーし」
「噂は聞いたことがあるが、本当に存在するのか」
「血と肉と臓物の町だ。違法召喚魔法師、偉大なるクレマ・リージュの家契召喚魔かけいしょうかんま獄門蟻が作り出した悪党の楽園。――英雄アスカがウォレスティー王国表の切り札なら、クレマ・リージュは裏の切り札。地上をウォレスティー王家が支配しているのなら、地下はクレマ・リージュの国。ハロルド・エルセイドを相手にするのが楽に思える強さの魔女――と、聞いたことがある」
「……!」
 
 王都に二十年住むアスカや、最年長のレイオンすら“噂”だと思っていた王都の地下世界。
 そこに君臨する魔女。
 そんなものがいるとは……。
 
「[異界の愛し子]なのか?」
「いや。俺も実際目にしたことはない。でも多分なにかしらの効果で不老不死か不老長寿にはなっているんだろう。……アンタと同じようにり多分【魔杖まじょうエレシュキガル】を得て死を奪われたんじゃあないか、って思っている。噂を聞く限り、だが」
「【魔杖まじょうエレシュキガル】……【戦界イグディア】の伝説級か」
 
 さらりと言っていたが、シドの言い方だとアスカも不老不死・不老長寿になっている。
 確かに見た目は二十代前半。
 二十年前にこの世界に来た人にしては、ずいぶん歳若く見えるとは思っていた。
 ただ、日本人は結構歳がわかりづらい。
 若く見える人、なのかと思っていた。
 
「それって、王都の地下もダンジョン化の影響を受けてるってこと?」
「多分だがそれはない。地下はクレマ・リージュの縄張りだ。なんというか、あそこはあそこである意味すでに別種のダンジョンみたいなものっつーか」
「シドの話を聞く限りだと獄門蟻の特殊領域が展開しているのだと思う。獄門蟻は【鬼仙国シルクアース】の『地獄』と呼ばれる次元の半生物半霊体と聞いたことがある。【鬼仙国シルクアース】は他の世界と違って四層に次元が分かれており、『極楽』と『地獄』から召喚魔として召喚されるものはどれも漏れなく伝説級以上だそうだ」
「聞いたことがあるな。『現世』『仙界』『極楽』『地獄』の四層で、『極楽』と『地獄』は他の世界にない半生物半霊体という生き物であり、霊体でもある特殊な存在が住んでいるとか」
「そうだ。すごいなフィリックス。【獣人国パルテ】適性しか持っていないだろうに、ちゃんと他の異界のことも知っている」
「え? あ、ああ、まあな」
 
 リグに褒められて嬉しそうなフィリックス。
 そういえばリョウがおあげとおかきを連れて行った時も、「治化狸ちばけたぬきと稲荷狐は珍しいな」と言い当てていた。
 
「地下にハロルド・エルセイドが逃げ込んでいるのなら、それはそれで厄介だ。どうしても地下に行くのならアッシュのやつに繋いでもらわにゃならねぇ」
「は? なんでそこでアッシュが出る?」
「俺は伝手がねぇんだよ。いろんな組織が地下に拠点なり支部なりを持ってるが、俺はそういう組織からの誘いは全部蹴ってたからな。さっきも言ったが、地下に行くには予約か裏社会の人間にしか行き方がわからないようになっている。俺も何度か行ったことがあるが、同じ方法では行くことができない。騎士なんざ絶対入れねぇだろうよ」
「……っ」
 
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