流星群の落下地点で〜集団転移で私だけ魔力なし判定だったから一般人として生活しようと思っているんですが、もしかして下剋上担当でしたか?〜

古森きり

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7章

明日に向けて

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「って、ジンくんには言ったけど正直気持ちがめっちゃわかる」
「あはは……」
 
 レオスフィードとリョウの護衛のために残ったノインは、窓辺で頭を抱えていた。
 先程ジンにはああ言ったが、ノインだって自分の力不足をいつも感じて、早く強い大人になりたいと思っている。
 四つの属性を極めると決めたジンが、早速リグに相談しに向かったのでノインはレオスフィードとリョウの護衛に居残り。
 からのこの発言。
 
「でもさー、フィリックスさんもリグさんやシドを見てると自分が『無力』って言ってたじゃん?」
「言ってたね。でも、私はそう思わないな。フィリックスさんがフィリックスさんだから、助けられていることの方が多いじゃない?」
「――だよねー!」
 
 ノインにそう言えば、いきなり満面の笑顔。
 結局のところ何歳になってもないものねだりはなくならない。
 少なくとも、その時にできることを精一杯やるしかないのだ。
 上を目指し続ければ、きっと多少は無力感から解放される瞬間がある。
 
「ボク、師匠みたいな剣士になりたいし――フィリックスさんみたいな大人になりたいなぁ」
「うん。カッコいいものね」
「うん! ……ありがとうね、リョウちゃん」
 
 ふんわりと微笑まれて、柄にもなく少し照れてしまった。
 間もなく、下の方がどんどん騒がしくなっていく。
 王都からの避難者が続々とたどり着いているのだろう。
 
「私も手伝いに行きたいな」
「リョウちゃんはおあげとおかきの召喚魔法を使い続けてるんでしょ? 無理しない方がいいよ。おあげとおかきの領域魔法が解けたら、それこそ元に戻っちゃう。リグさんの洗脳や呪いみたいに、一度解除されたらそれでおしまいじゃあないんでしょう?」
「う、うん……ダンジョンの効果だから、おあげとおかきの領域魔法を解除するとに戻るんだって。今は遮断しているだけだね」
 
 ダンジョンの正常が異常なのだが、ダンジョンとはそういうもの。
 だからリョウはおあげとおかきの契約魔石に魔力を送り続ける。
 かなりゴリゴリ削られているが、まだ余裕だ。
 しかし、夜までは持たないかもしれない。
 
「一人でも多くの人が、王都から脱出できますように」
 
 それなら祈るしかない。
 祈りながら、細く長く魔力を魔石に送り続ける。
 夜になるまで、ずっと。
 
 
 
 ◇◇◇
 
 
 
「やあ! 初めまして!」
「は……初めまして……?」
「初めまして……?」
 
 その日の夜、最上階の支配人室には国王と二人の王子、そしてミセラとアラベル、黒髪の青年がやってきた。
 黒髪の青年は騎士の装いで、ところどころ汚れている。
 戦った痕跡だろう。
 爽やかに挨拶をされてリョウジンは少しだけ困惑した。
 しかしレイオンとミセラ、ノインの態度から「ああ、この人が」とおおよその察しがつく。
 
「俺の名前は三鶴城朱鳥ミツルギアスカ! 二十年前にこの世界に事故召喚で来たんだ!」
 
 とても元気なお兄さんである。
 改めて頭を下げて、「加賀深カガミリョウです」「真堂シンドウジンです」と自己紹介した。
 
「うんうん! 初めまして! レイオンさんもマージでお久しぶりです!」
「息災でなによりだ。国王陛下と王子殿下方を守り抜くあたり、腕は鈍ってないみたいだな」
「もちろん! 毎日鍛錬は欠かしていませんよ!」
 
 この人が三鶴城朱鳥ミツルギアスカ
 リョウやリグと同じ、[異界の愛し子]。
 二十年前の戦争で、ハロルド・エルセイドを退けた英雄。
 
「国王陛下も改めましてご無事でなによりでございます」
「うむ……レイオン・クロッスよ、此度も我らを救ってくれたこと、礼を言う。褒美は改めて取らせよう」
「もったいなきお言葉。ひとまずは一等室にて奥方とともにお寛ぎください。明日、王都奪還とハロルド・エルセイドへの対応をお話しさせていただければと」
「すまない。そうさせてもらおう」
 
 部屋の中に残ったのはリョウと剣聖師弟とジン、フィリックス、レオスフィード、ミセラ、アラベル、アスカ。
 そして、王子二人。
 第一王子と第二王子はレオスフィードを見下ろしてにこやかに微笑んだ。
 
「レオスが無事でよかったよ。さすがは剣聖レイオン様です。弟を守ってくださり、ありがとうございました」
「本当に。突然城からいなくなったので、心配していたのです」
 
 演技が上手いな、とゾッとする。
 レオスフィードはリョウとノインの後ろに隠れて、複雑そうな表情。
 耐えるように震えて、顔を合わせない。
 
「殿下たちも今日はお休みになられた方がいいでしょう。此度の混乱、殿下たちにとっても大変でしたでしょうし」
「まあ、しかし……父上と王都奪還について明日話し合うのであれば、具体的なところは詰めておきたい。剣聖レイオンよ、策はあるのか?」
 
 チラリとミセラを見るリョウ
 点数稼ぎよ、とにこりと微笑まれてこっそり耳打ちされて「ああ、なるほど」とがっかりする。
 本当にレオスフィードのことはどうでもいいのだ。
 こんなにあっさりと切り替えるとは。
 
「ダンジョン化の魔法を解くのか先決でしょうが――それには協力者が必要です。今この場にはおりませんので、明日、彼らも呼んで話を聞けば動き方も定められましょう」
「協力者?」
「ユオグレイブの町で保護した[異界の愛し子]のことだ。あとまあ、彼の兄も、だな」
 
 王子たちに説明したあと、レイオンはアスカに目を瞑って訴える。
 この王子たちを早く寝かせろ、と。
 アスカはすぐにそれを察してなのか、柔らかく微笑む。
 
「ではやはり、殿下たちもお休みになって万全の状態で明日の話し合いに出席なさらなければ。指揮なさる方がヘロヘロでは、戦地に向かうことなど危なくて。ね?」
「む、そ、それもそうですね」
「では、我らもお言葉に甘えさせていただきましょう」
「レオスフィード様はノインとお部屋へお戻りください。父君もご無事で喜んでおられましたし」
「……うん」
 
 レイオンに「ここ空気悪いし、夜も遅くなってきたし寝な?」と言われればレオスフィードも頷く。
 ノインも今日一日戦い尽くし。
 子どもなので、早く休ませたかった。
 
「……レオスフィード様は憔悴されていますわね。大丈夫なんですの?」
「気丈に振る舞ってはおられるが、やはり兄君たちに賞金をかけられていることはかなり参っているようだ」
「まったくろくでもありませんわね。レオンさんたちがご無事でなによりです」
「そりゃこっちのセリフだよ。ただまあ、明日は本当に忙しい。町の死体の埋葬も行わなけりゃならんが……明日はおあげとおかきの領域魔法は使われないんだろう?」
「は、はい。すみません……魔力が、もう……」
 
 明日までに完全回復は難しいだろう。
 レイオンの問いに首を横に振るリョウ
 ミセラが「そもそもあれほどの領域魔法をほぼ一日中展開していたことが信じられないですわ!」と叫ぶ。
 
「王子たちは領域魔法を新たな[異界の愛し子]が使ったと思っているのですのね?」
 
 だから王だけでなく王子たちも追い出した。
 ミセラがレイオンの方を見て確認をとる。
 頷いたレイオンに、アスカもやや驚き気味に目を見開く。
 
「もしかして――君が?」
「いえ……」
「そ、そうだよね? 新しい[異界の愛し子]は、ハロルド・エルセイドの息子だと聞いている」
「あの、でも……彼の、専属召喚魔なので、私……彼と同じくらいの魔力量があるんです。……[原初の召喚魔法]も、使えるみたいで……」
「え」
 
 この話はアスカも初めて聞いたのか、ばっとレイオンの方へ顔を向ける。
 肩をすくめて見せるレイオン。
 
「このことはまだ伏せておけ。[異界の愛し子]が新たに二人となると国の方針も変わる。わしとしては二人とも自由騎士団フリーナイツで保護できればと思っているんだ」
「――そうですね。レイオンさんと自由騎士団フリーナイツなら――俺も協力しますよ!」
「ああ、よろしく頼む。ただ、リョウちゃんもリグも今日結構魔力を使っちまったんだよな?」
「はい。今までで一番なくなってます。リグは多分、私より少し多く残っていると思いますけど……リグが完全回復に一ヶ月くらいかかると言っていたので、私も多分そのくらい……」
「うーむ……一ヶ月ダンジョン暮らしはキツイな」
「そうですね」
 
 なによりお化け屋敷に王都で生き延びた人を抱えておくのにも限界がある。
 町の死体も埋葬したい。
 
「わしは明日、生き残りの警騎士を連れて列車と列車に乗っていた騎士たちを探しに行こうと思う。エジソンやエドワドも回収しておきたい。特にエジソンのやつはマスターキーをまんまと敵に渡しやがった。責任は重いぞ」
「そうですわね。そのせいでハロルドは逃げたのですもの。英雄譚はここでおしまい。しっかり償ってもらいますわよ」
 
 どうせフィリックスたちの手柄を横取りして得た名声だ。
 メッキが剥がれたというところだろうか。
 
「リョウちゃんとリグには、とにかく魔力回復に専念してもらうのが一番だろう。リョウちゃんは上の王子二人に気をつけてくれ。生き残りの貴族も最上階には入ってこれないが、王族はそうじゃないからな。必ずノインと一緒に行動してくれ。悪いことは言わん。絶対一人になるな。できればリグもだ。年上の男は手篭めにしづらいだろうが、アスカも今だに貞操は狙われるというしな」
「本当それ。この世界マジヤバい。男でも普通に襲われるから。自由騎士団フリーナイツが一人側にいるだけで安心感ダンチ」
「「ヒ、ヒェ……」」
 
 ガチの真顔のアスカの体験談に、ドン引きするリョウジン
 目が本気すぎる。
 そういえばリョウに絡んできた女子たちも嫌気がさしてブチギレていた。
 それはこういうことなのか。
 
「で、だ。ジン」
「え? は、はい?」
「お前、自由騎士団フリーナイツ見習いになるつもりはないか?」
「――!?」
 
 レイオンが提案したのは、ジンを一時的に自由騎士団フリーナイツ見習いにしてリョウとリグを護衛すること。
 今回の件で王は「褒美を与え」と確約している。
 
「だからわしはシドも自由騎士団フリーナイツ見習いにするつもりだ。あいつが了承するかはわからんが、リグを守るためならば了承はするだろう。手っ取り早いしな」
「い、いいんですか? オレなんかが……」
「剣の腕はノインに稽古をつけられてなかなかのモンになっている。これからも成長が楽しみだし、お前さんも『守る側』の人間だ。申し分はないさ」
「っ! オ、オレ自由騎士団フリーナイツ見習いになりたいです!」
「ヨシ! じゃあ、剣聖たるわしの権限で見習いとして認めよう! よろしく頼むぞ!」
「はい!」
 
 見習いとはいえ自由騎士団フリーナイツが側にいるのは大きい。
 ジンリョウが守れる上合法的に四六時中一緒にいられるので、誰も損をしない。
 
リョウちゃんは絶対オレが守るよ!」
「あ、う、うん。よろしくお願いします」
「あとはリグと……シドだな」
「リグは食糧を……なんか小槌を振って作っていたんだが……シドはどこへ?」
「町の中を調べると言っていた。領域魔法は切れているが、シドに幻覚は通用しないからな。あいつも今日一日戦いづくだから、休んだ方がいいと思うんだが――」
「確かにホンッットに疲れましたよね……」
 
 しみじみと。
 肩を落としたフィリックスに、レイオンも「わしも歳を感じる」と自分の肩を叩く。
 おかきの治癒魔法でも、蓄積疲労は癒し切れない。
 
「そういえばレイオンたちは列車の中でも戦っていたのですわよね。あなたたちももう休んだ方がいいですわ」
「そうですよ! レイオンさん! また明日! みんなで話し合いましょう!」
「だな。ミセラ、アラベル、リョウちゃんを頼むぜ。わしらももう今日は休むことにしよう。リグを迎えに行ってくるわ」
「あ、それはおれが行きますよ」
「ああ、なるほど。じゃあリグの迎えはフィリックスに頼む。わしは先に寝るぞー」
「はい。おやすみなさい。リョウちゃんもおやすみ」
「はい。おやすみなさい、フィリックスさん、レイオンさん」
 
 と、見送ったあとジンも「あ、そうか、さすがに寝室は……うん」と察して二人のあとをアスカとともに追いかけて出ていく。
 
「あ、ジンくん待って」
「どうしたの?」
「……明日の朝、フィリックスさんを起こすの……ノインくんに手伝ってもらった方がいいと思うの。それでも起きないようなら私も起こすの手伝うから」
「え? どういうこと?」
「えーと……明日わかると思う」
「え?」
 
 ジンはまだ知らないのだ。
 フィリックスの寝起きの悪さを――。
 
 
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