流星群の落下地点で〜集団転移で私だけ魔力なし判定だったから一般人として生活しようと思っているんですが、もしかして下剋上担当でしたか?〜

古森きり

文字の大きさ
上 下
58 / 112
6章

カーベルトへ

しおりを挟む
 
「まあ、とにかくだ。リグ・エルセイドくん、君の魔力量は常人の比ではない。回復速度は速いし回復量も多いようだが、それでも一度空になった魔力を全快するのは時間がかかる」
「ああ。回復速度と回復量は、生命維持に最低限必要分が満たされるとどんどん落ちて減っていく。全回復するのは一ヶ月くらいかかると思う」
「もしかして、私も?」
「もちろん。君は僕のように訓練したわけではないから、通常のスピードで回復していく。同じく一ヶ月くらいはかかると思う」
「そ、そうなんだ……」
「まあ……そもそも全回復に一ヶ月かかるっていうのが、もう規格外なんだが……」
 
 院長に半目で言われて居心地悪くなるリョウ
 あいにく、リョウもリグも普通の感覚がわからない。
 
「一ヶ月か……」
 
 そう、ジンが呟く。
 一ヶ月経てば――状況がどうなるかわからないが――召喚された人たちを元の世界に帰すことができるようになる。
 リョウは残るつもりだが、ジンはどうするつもりなのだろう。
 リョウを振り向かせるために帰らない、と言っていたけれど。
 
「しかし、正直君の存在をここに置いておくのは不安だな」
「院長先生」
「魔力もさることながら[異界の愛し子]だろう? しかもシド・エルセイドの弟、ハロルド・エルセイドの息子ときた。公表されたのは今朝だが、他国はすぐに君を奪取に動くだろう。国内組織も一様にだ。エルセイドの血筋の者というのは、伏せられてはいるけれどね。うちはあくまで病院。護衛を召喚警騎士団に頼むべきだ。最悪病院ごと襲われかねない。困るんだよなぁ、一般患者もいるし」
「『赤い靴跡』はまだ町から出て行ったわけではないしな」
「そうそう」
 
 院長が深々溜息を吐く。
 今はノインとレイオンがいるので、あまり院長も警戒していないようだが、確かにこのままでは院長の胃に穴が開く。
 ついでに、今は第三王子レオスフィードも健康診断のために入院中だ。
 誘拐されていた間、なにかよからぬことをされていないかなど。
 彼は怪我の一つも許されない立場だ。
 
「可能なら、貴族街の町長庁内にある警備が整った部屋とかにいてもらった方がいいのだけれど」
「ああ、それなら一つわしの方から提案がある。リグ、お前さんカーベルトにしばらく身を隠すつもりはないか?」
「カーベルトに……?」
「私がお世話になっている民宿だよ。でも、あの、カーベルトに身を隠すというのは?」
 
 どう考えてもカーベルトの警備能力は病院以下だ。
 にも関わらず、リグをカーベルトに連れて行くとはどういうことなのか。
 リョウ首を傾げると、レイオンはニヤ、と笑う。
 
「リグ、お前さんならカーベルトを王城よりも安全な場所にできるんじゃないか?」
「ああ、そういうことか……」
「は!? まさか本人に自衛しろっていうのかい!?」
「下手な警備よりその方が絶対いいって。どうだ?」
 
 院長が驚いて椅子から落ちかける。
 レイオンがリグを見下ろす。
 あっさり「できると思う」と答えが返ってきた。
 
「それは今の魔力量でも可能か?」
「問題ない」
「よし、じゃあカーベルトまで行こう。レオスフィード様も体調は問題ないだろう? リグの側が一番安全だ。一緒に連れて行って民の生活を見ていただこう」
「師匠、それ王家にお許しもらってるの?」
「ククク……もちろん」
 
 多分、もらっていない。
 ノインの微妙な表情からそれを察したリョウジン
 院長とミニアも顔を見合わせて呆れ顔になっている。
 
「あの王子殿下を味方に引き入れられると自由騎士団フリーナイツに召喚魔法師の部署を作るのを許してもらえそうだよな」
「それが目的かぁ。いいと思うな」
「だろう? フィリックスやミルアやスフレは、召喚警騎士団に置いておくのもったいないからな」
 
 によによと笑う師弟に連れられて、王子を迎えに行く。
 病室には警騎士がびっしり。
 あまりの人数にリョウたちは廊下で待たされるほど。
 
「レイオン! リグはどこだ!?」
「ご安心を、殿下。廊下に連れてきておりますよ」
「リグ!」
 
 そしてその廊下に、殿下直々に飛び出してこられた。
 リグに抱きつくとニコニコ、すっかり安心した表情。
 
「お、お待ちください、レイオン様。愛し子と王子の移動は聞いておりません」
「あー、じゃあ今お前らの目の前で許可取るな?」
「「「「え?」」」」
 
 中を覗くと、レイオンが通信端末でどこかに電話をかける。
 半透明なモニターが宙に浮かび、ミセラの顔が映った。
 
『なんですの、レイオン。今ちょっと忙しのですわ』
「すぐ終わる。リグとレオスフィード様を例のところへご案内しようと思うんだが、警騎士たちが『なにも聞いてない』と言うんだ」
『あらまあそれはそうですわよ。情報を伝えていて、どこから漏れるかわからないですもの。ちょうど署長と町長の二人と一緒におりますからお聞きしますわね? お二方、よろしくて?』
『ひっ!』
『は、はい! もちろんです!』
『――とのことですわ』
「おう……ありがとな。……あんまりいじめてやるなよ?」
『おほほほほほほほほほ。なーんのことですの?』
 
 ガチン。
 なかなかゴツい音を立てて通信が切れる。
 それを見ていた警騎士たちの顔色の悪さたるや。
 
「というわけだ。レオスフィード様も我々とともに来ていただきたい」
「リグも一緒か?」
「はい、もちろん」
「安全な場所、なのだよな?」
「問題ない。危険な場所ならば安全にすればいい」
「え?」
 
 リグが頭を撫でながらレオスフィードにそう言うので、全員が目を泳がせる。
 説得力が半端じゃない。
 
「では参りましょう」
 
 ということで、レオスフィードとリグを連れて、町の方へと出る。
 手続きはミニアに頼み、カーベルトに向かう。
 本当に大丈夫なのだろうかと、ドキドキしながら向かうと――。
 
「おかえり。ああ、その子らがフィリックスのお友達と訳アリ貴族の坊ちゃんだね、しかし本当にうちで預かっていいのかい? うちはお貴族様が泊まるような宿じゃないよ?」
 
 リータがテーブルを拭きながら出迎えてくれた。
 営業時間内なので、冒険者も十人ほど食事中だ。
 歩み寄ってきて「リョウは体調どうだったんだい?」と心配してくれる。
 幸い、リョウはおあげとおかきのおかげで不調は感じていない。
 
「大丈夫です。ただ、こちらの彼は魔力が回復していなくて不調が続くようでして」
「あら、ほんと。顔色悪いねぇ」
 
 シドと同じ顔なのだが、やはり色合いが違うのと雰囲気が違いすぎるためなのか誰も気づかない。
 今も掲示板にはシドとアッシュのポスターが貼ってあるのだが。
 真正面からの顔写真ではないので、わかりづらいのだろう。
 
「結界を張ってもいいだろうか?」
「大丈夫か? 今じゃなくてもいいんだぞ?」
「結界?」
「あ、ああ、こちらの坊ちゃんは貴族だからな。フィリックスの友達の、リグというんだが――こっちは召喚魔法師なんだ」
「あらまあ、護衛の人なのね」
 
 レイオン、全然リータに説明していないっぽい。
 なかなかのグダグダ具合に心配の眼差しを送るリョウジンとノイン。
 
「しかし、具合が悪いのに召喚魔法なんて使って大丈夫なのかい?」
「召喚魔法は使わない」
「え?」
 
 レイオンが聞き返す前に手のひらの上に魔法陣を作り出す。
 召喚魔法に詳しくない者でも、杖や魔石を用いることのない魔法は身体強化くらいしか知らない。
 しかもそれが二重三重に重なって一気に広がり、一瞬で消えるのだ。
 それらは、人間が使うのではなく召喚されてきた“召喚魔”が使う系統の魔法。
 
「お、おい、お前召喚魔法以外の魔法も使えるのか……?」
「魔石は全部取り上げられて、持ち合わせがないから使えない」
「あ、そうか。いや、そうじゃなくて!」
 
 ノリツッコミまでしてしまう有様のレイオン。
 食堂に来ていた冒険者たちが口を開けたまま食べる手を止めている。
 
「アンタ、召喚魔法師じゃないのかい? そんな魔法初めて見たよ」
「召喚魔法も使えるが、魔法は別に召喚魔法だけではない。身体強化魔法以外にも覚えれば魔法は使える」
「へー、そうなのかい。アタシゃ魔法はよくわからないけど、やっぱりお貴族様の護衛の召喚魔法師はすごいんだねぇ。ああ、一応部屋は三階をお使いな」
 
 なんてこともなく言っているが、リョウとノインはジンが口を半開きにしたまま固まっているのを見て察していた。
 ああ、またさらりとやべーことかましたんだな、と。
 
「わしとノインは一階、リョウちゃんは二階の部屋を借りている。三階のどの部屋だ?」
「三〇六号室と三〇七号室を掃除しておいたよ」
「ありがとうよ。じゃあ行くとしよう」
「も、戻ってくるか?」
「食事のために戻ってきますから大丈夫ですよ」
 
 レイオンがレオスフィードとリグをまずは部屋で少し休ませる、とノインに頷いてアイコンタクトし、連れて行く。
 階段を登って行く音が遠のくと、食事していた冒険者が一気にノインに詰め寄ってきた。
 
「なんだあいつヤバいだろ!? 召喚魔法以外の魔法で結界張るって王宮召喚魔法師かなにかなのか!?」
「杖も魔石もなく魔法使ってたぞ!? そんなことあり得るのか!?」
「あんな貴族は初めて見たぞ、ヤベェ! フィリックスの知り合いって言ってたよな?」
「フィリックスの知り合いならちょっと納得だな!」
 
 フィリックスの人望の厚さよ。
 しかも冒険者たちの話ぶりから、ハロルドを捕らえたのは署長ではなくフィリックスたちであり、署長はその手柄を横取りした、と全部ばれている。
 
「とはいえ、あんなスゲェ召喚魔法師がまだいるもんなんだなあ」
「ああ、あんなやつ初めて見たぜ」
「なんかすごいのかい?」
「ああ、めちゃくちゃスゲェよ! あの兄ちゃんが使ったのは召喚魔法じゃなくて、魔法なんだ! 魔法は召喚魔しか使えねぇ」
「つまりあの兄ちゃん、召喚魔が使える魔法を使えるんだ。俺たちが使う身体強化魔法とは、比べ物にならないほど難しいんだぜ」
「へぇー」
 
 ノインがジンを見上げると、ものすごい勢いでコクコクと頷かれた。
 やはり相当すごいことらしい。
 
「異界の言語を一から勉強しなきゃいけないんだよ」
「「ウワァ……」」
 
 もうその一言で難易度が理解できる。
 それは召喚魔を召喚し、召喚魔に魔法を使ってもらった方が楽なのわかる。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

私だけが赤の他人

有沢真尋
恋愛
 私は母の不倫により、愛人との間に生まれた不義の子だ。  この家で、私だけが赤の他人。そんな私に、家族は優しくしてくれるけれど……。 (他サイトにも公開しています)

嘘をありがとう

七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」 おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。 「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」 妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。 「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

余命1年の侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
余命を宣告されたその日に、主人に離婚を言い渡されました

かつて私のお母様に婚約破棄を突き付けた国王陛下が倅と婚約して後ろ盾になれと脅してきました

お好み焼き
恋愛
私のお母様は学生時代に婚約破棄されました。当時王太子だった現国王陛下にです。その国王陛下が「リザベリーナ嬢。余の倅と婚約して後ろ盾になれ。これは王命である」と私に圧をかけてきました。

愛されない花嫁はいなくなりました。

豆狸
恋愛
私には以前の記憶がありません。 侍女のジータと川遊びに行ったとき、はしゃぎ過ぎて船から落ちてしまい、水に流されているうちに岩で頭を打って記憶を失ってしまったのです。 ……間抜け過ぎて自分が恥ずかしいです。

(完結)私より妹を優先する夫

青空一夏
恋愛
私はキャロル・トゥー。トゥー伯爵との間に3歳の娘がいる。私達は愛し合っていたし、子煩悩の夫とはずっと幸せが続く、そう思っていた。 ところが、夫の妹が離婚して同じく3歳の息子を連れて出戻ってきてから夫は変わってしまった。 ショートショートですが、途中タグの追加や変更がある場合があります。

処理中です...