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4章
ルート 自分で助けたい
しおりを挟む「私に、助けられる?」
「自分で助けたいのか?」
「……だって、私がお世話になっている人たちだから……助けたい!」
「…………」
目を閉じたシドが左手で剣の柄を掴む。
驚いて後退りしかけたが、右手で複数の石を突き出してきた。
それを受け取る。
「リグに会ったな?」
「は、はい」
「お前の力のことも聞いたな?」
「……はい」
「なら自分で助ければいい。お前の魔力だけを僅かに解放する。ただし、力には責任がつきまとう。リグの力の責任は俺が負うと決めているが、お前の面倒まで見るつもりはない。お前の力の責任はお前自身が負え」
「っ――は、はい」
それがどういう意味なのか、よくわからないまま返事をしてしまった。
あれほど、リグが言ってくれていたのに。
「なら、ただ呼びかければいい。応えてくれるはずだ」
「えっと、どれに?」
「どれでも。お前の呼びかけになら誰でも応えてくれるだろう」
「……え、っと」
そう言われると少し困るのだけれど、赤い石を手に取って残りをスカートのポケットに入れた。
リグのように、召喚魔に詳しいわけではないから自信はないが――。
「お、お願い……」
首輪が光る。
首の周りにほんのりとした魔力。
シドが【無銘の魔双剣】で僅かに涼の魔力だけを解除して解放してくれたのだとわかる。
自分の力を知るのが少し怖い。
けれど自分の力でみんなを助けられるのなら、自分の力で助けたい。
「誰か、みんなを……助けて」
『承ろう』
「っ!」
赤い石が光り輝く。
こんなに簡単に、誰かが応えてくれるなんて思わなかった。
光は円を描いて地上、『廃の街』の中心部に落ちる。
崖のギリギリから見下ろすと、挟み撃ちにされていた刃たちと『赤い靴跡』の真上に浮かぶ六本の腕と三つの顔を持つ鬼。
「あ……」
「ま、まさか……」
フィリックスたちごと『赤い靴跡』を倒そうとしていた、召喚警騎士たちが目を見開く。
涼にもあれがただの召喚魔ではないとわかる。
どことなく、似た伝承の存在が涼の世界にも語られていた。
仏教の守護者――阿修羅。
俯いていた三つの顔がすべて怒りの表情になり、それぞれの武器を構えた。
ものすごく、嫌な予感する。
「阿修羅。【鬼仙国シルクアース】の伝承存在……! 召喚できる存在じゃないはずなのに、召喚しやがった。……さすがはリグと同じ[異界の愛し子]か」
「あ、あれ、ま、まずいの……?」
「さあな。いわゆる“神”の一種だから、俺にもなんとも」
「神」
もう一度見下ろすと、雷が降り始めた。
暗雲もなく、涼が守りたいと思った人たち以外の警騎士や召喚警騎士たちを撃ち抜いていく。
「え、あ、あれ、殺してない……ですよね!?」
「助け方を指示しなかったのはお前だろう」
「ええ!? こ、殺さないでください!?」
叫んでみても阿修羅に反応はない。
しかし、気持ち雷の威力は落ちたように感じた。
動画で雷の一撃がどれほど強大なエネルギーを含んでいるのか、見たことがある。
「警騎士は魔力耐性の制服を着ているから、あの程度なら死なねぇんじゃねぇの」
「そ、そうですかね……?」
シドがいかにも「知らんけど」という口ぶりでフォローしてくれたけれど――いや、フォローかどうかわからないが――ここからでは祈ることしかできない。
ハラハラして見ていると、目にも止まらぬ速さで六本の腕が残りの召喚魔や警騎士たちを吹き飛ばす。
もはやなにがどうなっているのかが、わからない。
怯えて逃げていく警騎士すらも、追撃して倒してしまった。
「魔力を止めるぞ」
「あ、は、はい」
「伝承存在の召喚か。まあ、面白いものは見せてもらったが――やりすぎたな。あとは仲間とともになんとかするといい。なんとかなればの話だが」
「え……?」
「リグのことは絶対に口にするなよ」
「……は、はい?」
踵を返したシドが崖を降りていく。
ゆっくりと戻ってきた阿修羅が、涼に手を伸ばした。
仲間のところへ、連れて行ってくれるということらしい。
その手を取り、崖から降りる。
みんなは無事で、安堵したのも束の間だった。
「で、伝承存在の召喚を確認……ま、間違いない……英雄アスカ以来の――[異界の愛し子]だ……!」
「っ!」
通信機を持った召喚警騎士が、涼と阿修羅を撮影しながら叫ぶ。
その男の前には壊れた機械兵。
あの機械兵が相棒の召喚警騎士を守ったのだ。
「まずい……リョウちゃんが[異界の愛し子]だと本部にバレた!」
「ええ!? リョウちゃんって英雄アスカと同じだったの!? なんかすごいやつでしょ!?」
「お前はどうして学校卒業できたの?」
いつもの感じでミルアにツッコミを入れるフィリックス。
しかし、魔力を止められたためなのか阿修羅はゆっくりと光の粒になって消えていく。
同じようにじわじわと不安が広がった。
「あ、あの、私……なにか余計なことをしてしまって……?」
「……そ、それは……」
口籠るフィリックス。
やや興奮気味だったミルアも深刻そうなフィリックスの表情に大人しくなっていく。
「もし英雄アスカと同じならば、召喚警騎士団の方で彼女を保護すべきではありませんの?」
と言い出したのはオリーブ。
ミルアもすぐに「あ、そうだよね」と頷く。
その流れを聞いて、背筋が冷える。
リグの話を聞いたばかりなのに。
「ま、待て……それは……! っ、でも……」
「どうしたんスか? フィリックス先輩」
リグのことは言えない。
言えばきっとリグの言う通りになる。
だが涼は?
少なくとも二十年前に『消失戦争』を起こしたハロルド・エルセイドとなんの関わりもない。
元々召喚事故でこの世界に来たと思われていた。
今まで適性も魔力もないとされ、放置されていた一般人にすぎない。
リグとは同じにならないだろう。
「同じことは、多分できないと思います……」
「そうなの?」
「は、はい」
さっきのはシドの助力があったからできたこと。
しかし、それでも再測定は必要だろうと言うオリーブに、フィリックスは押し黙る。
彼も涼とリグが同じではないことと、自分の所属する組織を完全に疑い切ることができなかったのだろう。
ノインも「まあ、最悪ボクと師匠でユオグレイブの町の召喚警騎士団は潰すから」と笑顔で言う。物騒すぎる。
刃も心配そうだが、ここは従うのが一番安全だろうとミルアたちと召喚警騎士団の本部について行った。
測定のためにと別室に引き離されて、髭のある右目に大きな傷跡を持つ男に引き合わされる。
所長という彼は、涼の首輪を見て即座に王都へ輸送するように指示を出した。
「え? あ、あの、待ってください。私、魔力や属性の測定をされるって聞いて――」
「伝承存在を召喚した映像が届いている。君は間違いなく、[原初の召喚魔法]を使える[異界の愛し子]。英雄アスカと同じ存在は――保護しなければならないんですよ」
「…………っ!」
その顔は、とても人を保護するというものではなかった。
案の定、檻に入れられた涼は視界も自由も奪われて拘束され、真っ暗な部屋に閉じ込められる。
薬のようなものを嗅がされ、しばらくして意識を失い――そのあとのことは――。
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