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4章

強化

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「お待たせ! あ、先に言っておくけど警騎士は五人くらいしか来られそうにないって。倉庫街の暴動が思ったより大きくなってるの!」
「五人か……」
「これでもかなり来てくれる方よ。向こうは召喚警騎士が出たから、倉庫街近くの住民の避難が追いつきませんの。冒険者がダンジョンそっちのけで避難誘導協力してくれていますが……」
「とはいえこっちも後回しにしてたら、間に合わなくなりそうっすよね」
「ああ。夜になる前になんとかしないと。王都へ輸送されたらマジで有耶無耶にされる」
 
 なにやら町の方も大変なことになっているようである。
 ジンと顔を見合わせてみるが、今は一刻も早く行方不明の召喚魔を取り戻す方が先だろう。
 警騎士が来るのはもっとあとになるそうなので、レッドテイルを倒すのと『廃の街』の探索を同時に行った方がいいだろう。
 
「つまり二手に分かれるのね! じゃあレッドテイルはあたしとオリーブ、フィリックスとキィルー、ノイン。ジンくんとリョウちゃんとスエアロくんとガウバスくんとスフレは探索ね! レイオンさんは待ち?」
「ああ、護衛がある」
「私も参加していいんですか?」
「人手足りないし! 嫌かな?」
「い、いいえ! やりたいです!」
 
 まさかリョウも参加させてもらえるとは思わなかった。
 思い切り眉を寄せるジンとフィリックスだが、反対はしないらしい。
 そのくらい、人が足りない。
 
「――で、協力してくださるフェニックスの召喚主さんというのは……」
 
 スフレが焚き火の前に座るリグを見る。
 頭から黒いブランケットを被って、背中を向けている寒がりさん――にしか見えない。
 
「「不審者……?」」
「協力してくださる方に対して失礼ですわよ、ミルア、スフレ」
「えー、だってなんか黒いし……」
「召喚魔法師なんスか?」
「あ、ああ……まあ、その……いわゆる違法召喚魔法師なんだが、独学で召喚魔法を覚えただけで登録はしてないっていう、ぶっちゃけ俺より腕がいい上、魔力も多いし知識負けしてるからもう学校の成績とかこの世には無意味なんだなって改めて思ったっていうか……」
「ど、どうしたの!? なんか心折られてない!?」
「フィリックス先輩、目が死んでるんスけど!? いつも違法召喚魔法師は取り締まるマンなのにどうしたんスか!?」
「複雑なんだよ、色々と! まだ気持ちの整理がつかないんだよ! 違法召喚魔法師だけど……彼は……あぁもう! 自分の無力さを痛感しててもう、もう、作戦に集中させてくれよ!」
「わ、わかったよ!?」
 
 大変なことになっている。
 主にフィリックスの情緒が。
 
「仲良しなんだな」
「え。……あ、そ、そう、ですね?」
 
 リグから見ると第八部隊はそう見えるのか。
 ジンが珍しくきょとんとした。
 
「本当に魔力供給はいらないのか?」
「お前さんがやるとすぐバレる」
「ボクの剣はいいのに?」
「フィリックスが立ち会えばそちらは大丈夫だろう。ノインと相性のいい剣を、【戦界イグディア】から召喚してもらうだけだからな」
「違いがわからないよぅ」
「まあ、やってみりゃわかる」
 
 せっかくオルセドに借りたばかりなので、今日はこちらを使う予定だが、元々三等級以上になれば【戦界イグディア】から相性のいい剣を召喚して契約するのが普通。
 魔力がないノインはどうしても【戦界イグディア】の武具召喚に消極的で、断り続けていた。
 準上位以上の“意識を持つ武具”でなければ、ノインにはすべてただの剣でしかないから。
 意思を持つ武具は、イコールそれ自体が魔力を持つ武具ということだ。
 中位以下の魔力を通すと本来の力を発揮する武器とは、別物。
 銘を持ち、魔力を持ち、意思を持つ。
 当然扱いも桁違いに難しく、召喚魔法師と契約召喚魔のような“相棒”ともいうべき関係性を築かねばならない。
 
「切り札は持っておいた方がいい」
「ほしいって言ったのはボクだから腹は括るけど……」
 
 と、ぶちぶちとまだ文句を言うノイン。
 よほど自信がないらしい。
 それにしても――。
 
「【戦界イグディア】の適性って、ほとんどの人が持ってるんじゃないの?」
 
 リョウがノインに聞いたことがある。
 【戦界イグディア】の召喚適性は魔力を持つ者ならほとんどが持っているのだそうだ。
 それこそ冒険者も【戦界イグディア】属性の魔石で【戦界イグディア】の武具を召喚して使うことさえある。
 八異世界の中で【戦界イグディア】だけは本当に特殊で、召喚魔法師の学校を出ていない者でも召喚が許されているという。
 
「あ、う、うん……でも【戦界イグディア】の適性ってピンキリで……」
「ピンキリ」
「うん。オレも召喚してみたんだけど、小さなナイフだったり欠けた剣だったり、折れた槍だったり、弦が切れた弓だったり、穴の空いた鎧だったり片方だけのアームブーツだったり……」
「え」
「適性が高くないと、まともな武具が召喚されないんだって。冒険者の人の中で武具を召喚できる人もいるんだけど、他人のために召喚するとその人の相性に合わせなきゃいけなくて、やっぱりまともな武具は出てこない。なんかこう、ゲームのガチャみたいな感じなんだよね」
「ガチャ……」
 
 それは、確かにノインも期待ができないだろうなぁ、とリグとノインの方を見る。
 しかし、それならば適性のある[原初の召喚魔法]で[異界の愛し子]が協力したら?
 
「いくぞ」
「う、うん」
「え、なにが始まるの?」
「ノインの武具召喚だ。彼は【戦界イグディア】の適性が高いらしくて」
「へえ、【戦界イグディア】の適性が高い人は珍しいっスね」
「あたしら全員しょぼくて手伝えなかったもんね」
 
 リグがノインに確認すると、魔法陣が焚き火の周りに広がる。
 その焚き火の炎が魔法陣に引火して、周囲を焦がし始めた。
 
「まずくない!?」
「問いに答えろ」
「問い!? ……え?」
 
 絵面が凄すぎてノインが慌て始めるが、白い光が混じり始めるとキョロキョロし始めた。
 
「誰?」
『――――』
「なにって言われると……ボクは人を守る騎士になるんだよ」
 
 ノインは誰と話しているのだろうか。
 首を傾げるリョウ
 いや、それ以前に――ノインが話をするということは……。
 
「その時は仲間に助けてもらうよ。一人で守れるのは限界があると思う。そこまで自惚れてないよ。ボクは魔力がないしね」
 
 ノインが答えると炎が一際高く昇る。
 風を切る音が落下してきて、ノインの目の前に一振りの白い剣が鞘ごと突き刺さった。
 
『我が名は聖剣ガラティーン。若き騎士よ、貴殿の騎士道を照らし切り開く剣となろう』
「せいけ……」
「……。僕はなにもしてないぞ」
「わかった。これはノインが聖剣に認められたってことだな」
「そう」
「「「………………」」」
 
 無実、と言わんばかりにレイオンに対して首を振るリグ。
 シンプルにノインが聖剣に気に入られたという話のようだ。
 
「す、すごいね、ノインくん! これなら剣聖になれるね!」
「イヤ、デモ……チョット……コレハ……想像、シテナクテ……」
「だ、大丈夫?」
「すげーのが出過ぎてキャパオーバーしてるな」
「すごい剣なんですか?」
「意思があるだけでなく、持ち主以外、周囲の人間にも声が聞こえるのは準伝説級なんだよ……」
「わ、わあ」
 
 レイオンとフィリックスまで悟ったような表情。
 ミルアとオリーブとスフレはさっきのフィリックスとレイオンとノインみたいな顔で驚いている。
 
「すすすすすごいじゃない、ノイン! 魔力がなくても聖剣の魔力があれば身体強化魔石道具が強化できるし、固有魔法で戦えるじゃない! もう剣聖じゃん!」
「待って待っていきなり色々情報多すぎて追いつかない! ボク生まれてこのかた魔力使ったことないのに急に聖剣の魔力が使えるって言われても無理無理!」
「それはそうだな。いきなり準伝説級の聖剣で戦闘は無理だ。訓練がいる。ただ、聖剣に認められた以上自由騎士団フリーナイツの本部に報告は必要だし他国にも連絡しなきゃダメだな~。ちと早いけど、最年少剣聖確実だ。おめでとう、ノイン」
「ひいいぃっ」
 
 わあ、おめでとう、と呑気に拍手するのはリョウだけ。
 本当に予想していなかったのか、ノインは剣を地面から引き抜くと胸に抱えてボロボロ泣き出してしまった。
 
「ど、ど、うしよ、ぼ、ボクこんな、こんな、すごい剣……うぇっ」
「どうしたの!?」
「それに、体躯に合わないデカさだな。使えるようになるまでもっと鍛えないとダメだな」
「っ! う、うん」
『我を使えるようになるまで精進するのだぞ』
「う、うん!」
 
 びゃ、と泣いていたノインが剣を本当に大事そうに抱き締める。
 レイオンは「ノインが剣聖になるのが決まっちまったなぁ。もう引退していいかな」とニコニコ。
 いや、弟子が可愛くてデレデレ、だろうか。
 
「すげぇっスね! やっぱり適性が高い人は違うんスねー!」
「さて、武器も揃ったことだし……まあ、まさか召喚しても使えないとは思わなかったが……陽が暮れる前にやっちまうぞ!」
「「おー!」」
 
 フィリックスのかけ声に手を掲げるミルアとスフレ。
 それを聞いて、リグが手を挙げる。
 その手にフェニックスが留まると、魔法陣から直接魔力が流れ込む。
 すると最初に姿を現した時の大きさに戻り、かと思えばそれより大きくなっていく。
 
「え? ちょっと待って。フェニックスってあんなに大きくならなくない? もはや進化してない?」
「どんな魔力量していますの……!? フェニックスを、進化させるほどだなんて!」
「いや、おれもあれは知らない!」
 
 ざわざわし始める第八部隊の面々。
 やはりなにがすごいのかわからないリョウとノインは思わずジンの方を見てしまう。
 表情がもう「なにがすごいの?」とわかりやすく語っている。
 
「え、ええと、普通いくら魔力を持ってても、召喚魔を“進化”させられるほど魔力は持ってないんだ。成長させることはできるけど」
「え? どういうこと? 全然わかんない」
「え、ええと、つまりね。成長は数年かけて召喚主の魔力を受け、体が大きくなること。その成長の最終段階が、上位種への進化なんだ。フェニックスは元々上位存在なのに、そこからさらに進化してしまうっていうのは、異常なんだよね! やりすぎです、リグさん!」
「そうか。ではこのくらいで」
 
 いや、ジンの話からしてすでにやりすぎのようである。
 炎を纏う鳥が、炎が鳥の姿を模ったような姿に変わっていた。
 あまりにも眩い。
 キラキラと煌めく炎が、火の粉を振り撒くのにまるで熱くない。
 高らかに両の翼を広がると、飛び上がる。
 
「獲物はレッドテイルというトカゲだ。食い散らしておいで」
『ピルルルルルルル!』
 
 つまり、リグは魔力量も――破格ということか。
 
「チートすぎません? リグさんの魔力量どうなってるんですかっ」
「魔力量は一度使い切ると増える。僕はほとんど毎日夜に一度空になるまで魔力を魔力を蓄積する魔石に吸わせていたから、普通よりは多少多いかもしれない」
「た、多少……? 多少って言ったか、この人……?」
 
 ついにジンまで顔を引き攣らせ始めた。
 リョウは「チートってなに?」と聞いてみたかったのだが、ジンの様子を見てやめることにした。
 専門用語だろうか?
 
「常識とのズレが凄まじいな。その辺のすり合わせも大変かもしれん。また新たな厄介ごとの予感もするしなぁ!」
「いったい君の魔力を蓄積させた魔石をなにに使ってやがったとか! その辺帰ってきたら聞かせてもらうぞ!」
「? 了解した」
 
 フィリックスが青筋を浮かべながら『廃の街』に向かって走り出す。
 リョウジン、スフレ、スエアロ、ガウバスと囚われている行方不明の召喚魔たちの救出だ。
 リグは居残り。リグの護衛はレイオンが務める。
 迂闊に動いてリグのことを『赤い靴跡』などに勘づかれてはまずいからだ。
 
(よーし、頑張るぞっ)
 
 
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