流星群の落下地点で〜集団転移で私だけ魔力なし判定だったから一般人として生活しようと思っているんですが、もしかして下剋上担当でしたか?〜

古森きり

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4章

無知は時に人を救う

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「……やはりひとまずわしの権限で自由騎士団フリーナイツで匿い、アスカに協力してもらって安全なところを探してもらうしかないな。あとはリョウちゃんとシド・エルセイドか。……シド・エルセイドかぁ」
 
 二回も言った。
 
「……リグ、ちなみに、なんだが」
「なんだろうか」
「リグのお兄ちゃんは話が通じるタイプの人間で間違いないか? 一応、ノインの剣を折った時はノインをダロアログに近づけるべきではない、と説教もらったそうなのだが」
「シドが剣を折ったのか? 新しい剣が必要か?」
「なんか迂闊に『ほしいです』って言ったら大変なものが出てきそうだから大丈夫だよ!」
 
 さすがはノイン。
 適応能力が高い。
 
「シドはこだわりが強いけれど、自分より弱いものを虐げることはない。暴力を振りかざす者には暴力で返すけれど、力ない者が傷つけられることは好まない。僕のことになると少し狭量な気もするけれど、それは僕と同じなので仕方ないような気がする」
「なるほど」
「そういえばオレもダロアログに突き飛ばされた時、受け止めて助けてもらった」
「私も」
 
 リョウジンはダロアログに突き飛ばされて、時間稼ぎに使われたことがある。
 今思い出しても「マジアイツ」というやり方だ。
 それを言うとスエアロも「オイラも!」と手を挙げてくる。
 
「シドのアニキはダンナさんのこと捜しにくるんだ。で、たまにダロアログと遭遇すると殺し合いになるの。オイラいつも捕まってシドのアニキの方に突き飛ばされて時間稼ぎに使われるんだ!」
「通りでなんか手慣れてる感じがしたわけだ……!」
 
 常套手段だったわけだ。
 
「昔はダロアログのやつの方が強かった」
「あ! ガウバス! もう大丈夫なの?」
「ああ。お手間をかけました、ダンナさん」
「僕は魔力を与えただけで、治したのはこちらの治化狸ちばけたぬきだ」
「ポコー!」
「そうか。ありがとうよ」
 
 首をぼき、と鳴らしてリグの後ろに片膝をつく。
 ジロ、とフィリックスを睨むが、一度負けた相手にまた挑むつもりはないらしい。
 
「昔は――ってのはシド・エルセイドとダロアログの話かい?」
「そうだ。今は間違いなくシドの旦那の方が強ぇよ。実力が反転する頃に対策としてダンナさんにその暗示をかけたんだ」
「シドのアニキはメチャクチャ恐いんだ……。オイラはガウバスがダロアログと喧嘩した時の人質にしかならないから、シドの兄貴がダロアログと喧嘩した時の人質はダンナさんなんだよ」
「ダンナさんにヤツが持って来た食い物しか受けつけないよう、呪いを使われちまってからは、シドの旦那もヤツを本気で殺るに殺れなくなっちまったのさ。ダンナさんを逃がさないためでもあるが、一番はシドの旦那対策だな」
「なるほど、そういう意味もあったのか……」
「どちらにしても姑息ですね」
 
 ムッとしてつい、口を挟んでしまった。
 リョウが明確に相手を詰るのを、ジンは初めて見たのでちょっぴり驚いている。
 だがすぐに「そうだね」と完全に同意した。
 ジンも一応、未遂だが被害を受けたことがあるので。
 
「よし、予定を立てておこう」
 
 手を叩いて、まるで自分の気分を切り替えるかのように口に出したのはフィリックス。
 さっきまでの死にそうな表情ではなく、いつもの召喚警騎士のフィリックスだ。
 話はだいぶまとまった……かもしれないので、リョウは木製のスープ皿を持ち上げて木製のおたまで鍋の中身を取り分ける。
 
「まず、やはり人手は足りない。ミルアとオリーブ、スフレを連れてくる。リグは、悪いが苗字は伏せて“協力者”という形でフェニックスを貸してくれないか?」
「構わない。しかし三人増えたところでなんとかなるものなのか?」
「なんとかするよ」
 
 リグのこともあり、貴族の召喚警騎士は呼べない。
 バレれば台無しになる。
 万が一バレても、ミルアとオリーブとスフレなら協力してくれるはずだ。
 本当は相談できたらいいのだろうが、フィリックスにはまだその覚悟ができていない。
 
「そのあと、レイオンさんにそのままリグを保護してもらうということで大丈夫ですか?」
「ああ。とはいえ、どこにまず匿っておくべきかね~。カーベルトには置いて置けないし」
「リータさんも話せば協力してくれるんじゃないでしょうか? ダロアログに――えっと、悪い人に追われてるっていえば」
 
 と、提案したのはリョウだ。
 リータを巻き込みたいわけではないけれど、リョウもあまり知り合いが多いわけではない。
 頼れるのはリータと、民宿カーベルトくらいなもの。
 
「そうだね。ボクしばらく外出禁止だし」
 
 と、指を鳴らすノイン。
 なにが来てもだいたいなんとかしてしまいそうである。
 もうすでに頼もしい。
 
「それなら、オレもカーベルトに下宿させてもらえないだろうか。リョウちゃんのこともリグさんのことも守りたい。……元の世界に帰るには、二人の協力が必要なんでしょう?」
「ジンくん……いいの?」
「うん」
「そうだな。おれの部屋も真後ろにあるし。……あんまり帰れないけど」
 
 それからフィリックスは寝起きがアレすぎる。
 それを知っているのは、リョウとノインだけなので思わず目線を合わせてしまったけれど。
 
「あ、リグ、これがお粥。食べられる、かな?」
「液状……?」
「お米をくたくたになるまで煮込んだものなの。今回はちょっと時短したけれど」
「熱そう~」
「ちょっとだけ甘い匂いがするね~」
 
 獣人の子どもたちがクンクンする中、木皿と木匙を手渡す。
 水は飲めると言っていたので、要は固形か固形ではないか、だと思うのだ。
 興味深そうに眺めてから、パクリと口に入れるリグ。
 そのままゴクン、と嚥下した。
 
「食べられた!」
「おお!」
「ほとんど液状なので、スープと認識したのだと思う。なるほど、これで食べられるものが増えるのか」
「やった! 任せて! 私お粥以外にもおじやとか雑炊とかも作れるから!」
「お姉ちゃんすごい!」
「ダンナさんこれならご飯食べられるね」
 
 ホッと胸を撫で下ろす。
 これらが食べられるだけでも、かなり違うはずだ。
 
「……やっぱりカーベルトが一番いいかもね。リョウお姉さんの作る料理なら、リグお兄さんはご飯が食べられる」
「だな」
「呪いを解く方法と、リョウちゃんたちの世界の人間、そして今回召喚された人たちを元の世界に帰すためにも――シド・エルセイドには接触して話を聞かなければならない……のか……」
「「「…………」」」
 
 フィリックスたちがドッと疲れたような表情になる。
 先日の戦いでシドの強さはリョウも見た。
 フィリックスとノインは、町で築いてきたこれまでのプライドまでへし折られている。
 
「――そうだ」
「ま、まだなにかあるのか?」
 
 今思い出した、とばかりに木匙を口から離したリグにレイオンがビクビクしながら声をかける。
 実際こちらは十分お腹いっぱいだ。
 精神的な意味で。
 
「リョウは僕が召喚したと言っただろう」
「い、言ってたな」
「だからリョウも[原初の召喚魔法]が使える[異界の愛し子]だと思う。魔力を封じているから適性はわからないけれど、僕に近い量の魔力と適性を持っているはずだ。まあ、[異界の愛し子]に魔力量はあまり関係ないのだが……」
「「「…………」」」
「え?」
 
 顔を上げるリョウ
 ある意味虚無に苛まれたような表情になるフィリックスとノインとレイオン。
 
(わ、私が[原初の召喚魔法]を使える、[異界の愛し子]? それって、リグと同じ……? ええ?)
 
 散々三人が頭を抱えていたのはリグが[原初の召喚魔法]を使える[異界の愛し子]だからだ。
 それと同じということは、リョウもまた同じ問題に巻き込まれているということ。
 正直とても知りたくなかった。
 
「あとシドと戦うのなら、シドの身体強化魔法には特に気をつけた方がいいと思う。【鬼仙国シルクアース】の鬼神剣鬼きしんけんき直伝だから、憑依召喚を使っても多分勝つのは難しい。【無銘むめい魔双剣まそうけん】は召喚魔法自体も無効化するし、充電式なので戦いが長引くと手がつけられなくなる。まあ、シドが魔双剣を使ったらの話だけれど」
「ま――っ、き、【鬼仙国シルクアース】の“鬼神剣鬼”って、伝説存在だと思うんですがっ!?」
「シドが剣を教わりたい、と言っていたから、頼んだら来た」
「ウァァァァァァァァァァァ」
 
 フィリックスが何度目かわからない、地面を殴って沈む。
 
「……なんでもありすぎる……」
「伝説存在ってそんなにすごいの?」
「基本的に伝説存在って存在が伝えられているだけとか、集団召喚儀式で一度だけ召喚に成功した存在――って習った」
「え」
 
 それをしれっと呼び出すのが[原初の召喚魔法]であり、[異界の愛し子]。
 ただ、[異界の愛し子]にも適性があるはずなのだ。
 
「リ、リグお兄さんは適性いくつ持ってるの? なんかもう今の時点で三つはあるよね?」
 
 最初に【獣人国パルテ】からフェニックスを呼び出しているし、魔剣を作る時に【神鉱国ミスリル】から伝説のドワーフ鍛治師を呼び出している。
 そして今、【鬼仙国シルクアース】からも伝説存在を呼び出したという。
 この時点で三つ。
 
「八異世界全部だな」
「なんて?」
「八属性だ」
「えーと」
「だから多分リョウも八属性だと思う」
「…………」
 
 シドは「無知は時に罪だが、時には身を守る」と言っていたが、この瞬間ほど「知らない方がよかった」とあの時の言葉を実感することになるとは思わなかった。
 
 
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