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2章

ドキドキ初冒険 2

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「なんかドキドキしちゃう。ほ、本当に武器とかなくても大丈夫なのかな」
「おあげとおかきがいるから、平気だと思うけど……あ、でも果物を採集する時にナイフとかはあった方がいいかもね」
「そっか!」
 
 というわけで、ナイフも購入。
 革のホルダーをベルトにつけられるようにして完成である。
 
「じゃあ、そろそろ門の方に行こうか」
「う、うん」
「『甘露の森』は一応ダンジョンだから、出入りは森の入り口のところで管理されるんだ。もし帰ってこない人がいたりしたら、捜索隊を出さなきゃいけないし届けも出さずに勝手に入って魔獣や果物を乱獲されても困るから。でもそのルールさえ守れば冒険者証のない一般人も護衛ありで入れるし、遭難したら捜索隊に助けてもらえるよ」
「なるほど~」
「ちなみに、ダンジョンのものを売るのは冒険者証が必要。代理販売は不可。違法になるよ。ダンジョンのものを直接ダンジョンから仕入れて売るには冒険者証の他に町の身分証と販売許可証が必要なんだ。『甘露の森』にも毒のある植物や魔獣がいるから。今回はリータさんがダンジョンの素材を“調理”するから、冒険者協会になにを採集してきたのか報告すればオッケー。三つとも必要ないよ」
 
 ノインの説明を聞きながら門に向かうと、門番の人が手を挙げて「よう、ノイン」と声をかけてきた。
 南門はダンジョンから一番近いため、冒険者の出入りも激しい。
 しかしその冒険者たちさえノインの顔を見ると嬉しそうに「よお」と声をかけてくるのだ。
 改めて、ノインはこの幼さで人望がある。
 
「お、女の子じゃねぇか。しかも黒髪で可愛い!」
「なんだなんだ、今日はどこかのご令嬢の護衛任務か?」
「うん、まあそんなところー。ねぇねぇ、ジンくん見なかった? 一緒に森に行くんだけど」
「ああ、例の女の子たちにどこ行ったのか聞かれたら、『戦士の墓の丘』に行ったって言ってくれって頼まれてるぜ」
「あ、了解~。先に森に行ったのね。……可哀想だな」
「まあ、女の子に追い回されるなんて男からしたら一度は夢に見るシチュエーションだが、実際目の当たりにすると引くよな……」
「「「わかる」」」
 
 冒険者だけでなく門番も深く頷いている。
 リョウが知らないだけで、ジンは冒険者にも知り合いがいたのか。
 ぼんやりと見ていると、彼らのジンへの同情が半端ない。
 元の世界では同性に嫉妬されて苦労していたようだったが、この世界では優しい年上に囲まれているようだ。
 
「というか、あの世界の女の子、怖くないか?」
「あの人たちがヤバいんじゃないかなぁ。リョウさんも召喚されてきた人だけど、あの人たちが標準ではない――と、思いたいんだけど……違うよね?」
「え? な、なにが?」
 
 振り返った冒険者たちと門番、そしてノイン。
 驚くほど真剣な眼差しにどう答えればいいのか。
 
「姉ちゃんもあの人たちと同じ世界から来たのか? な、なあ、あの惚れた男に四六時中くっついているのとか、恋人でもないのに行動を管理しようとしたり人間関係に口出ししたり、討伐依頼に無理やりついていった挙句魔獣と戦闘になったら守ろうとしないだけで責められたりとか、あれ、普通なのか?」
「なんですか? それ。ええと、そもそも元の世界には魔獣がいないので、わからないです。でも、恋人でもないのに行動を管理しようとしたり人間関係に口を出すというのは、恋人だったとしてもするべきではないと思います。相手の人生ですし」
「「「「お、おお……」」」」
 
 少なくともリョウの両親はそういうタイプの人間たちだった。
 口を出すというより無関心だったけれど。
 
(恋人だったら相手を自由にしていい、なんてことは、少なくとも相手が許容してくれたらの話だと思うし)
 
 そこで思い浮かぶのはリグ。
 リョウの召喚主。
 彼は些か許容範囲が広く、深すぎる気がする。
 誘拐されて、多分あのままあの塔に軟禁されているのだろう。
 移動だけでなく、食事の自由まで奪われて。
 思い出すだけであのダロアログという男の卑劣さには怒りで震えてしまいそうになるけれど、本人があの状況を受け入れている様子だったのがまたなんとも。
 それにしても彼のことだけは自分のことのように腹が立つ。
 これは召喚主と召喚者の特別な繋がり――関係ゆえなのか。
 
「やっぱあの女の子たちがちょっとおかしいのか」
「だよなぁ」
「あれじゃ完全に“依存”って感じだったもんな」
「見知らぬ世界に召喚されて環境が激変して戸惑っているのもわからないでもないけど、それはジンくんも同じだもんね」
「あの四人の女とジンを引き離せるように、関係者に相談してやった方がいいんじゃないか?」
「うーん、そうだね。ジンくんに聞いてみるよ。じゃあね」
「おう、気をつけてな」
「嬢ちゃんも」
「は、はい。ありがとうございます」
 
 ノインを追いかけて、森への道を歩き出す。
 前にも別の新人冒険者が森の方へ歩いているのが見えた。
 結構人が歩いているのだな、と道の左右を見る。
 枯草が草原になっており、数十メートル先に巨大な猪のようなものが群れを成して歩いている。

「ノ、ノインくん、あれはなに……?」
「ああ、草原ボアだね。近づかなければ襲ってこないよ。子育て中だから危ないけどね」
「やっぱり魔獣、なの?」
「うん。えーと、魔石の魔力があるのが魔獣で魔力を持たないのが獣なんだけど、魔獣は総じて[身体強化]を使っているから体が大きいんだ。ネズミでも一メートルくらいある」
「いっ、一メートルのネズミ!?」

 なにそれ、怖すぎる。
 考えただけで鳥肌物で、おあげを胸に抱えてしまった。
もふもふで癒されないと鳥肌が収まりそうにない。

「ちなみに魔獣は冒険者協会で魔石を抜いて、皮と内臓を取ったあと毒抜きと浄化をして肉が市場に出回るようになるんだよ」
「えええ!? ね、ネズミも!?」
「うん。だから冒険者証の他に町の身分証と販売許可証が必要なんだよね」

説得力が増す。
それはしっかりと身元が保証されている人からでないと、とてもではないが恐ろしくて食べられない。
そうして五分ほど歩いてきたら、森の入り口にたどり着いた。
最初は「ただの森では?」と思ったが、列に並んで進むと森の異質さが感じ取れるようになってきた。
この入口以外からも入れそうだが、ノインが言っていた通り入り口から入ることに意味があるのだ。

「お、ノイン。久しぶりだな、森に入るの。今日は護衛か?」
「うん、まあね。ねえ、ジンくん来てる?」
「あー、来たけど~」
「例の四人の女の子の一人も森に来てな……一応先に入ってはいるけど、ノインに伝言預かってる。『無理に捜さなくていい』って……」
「ジ、ジンくん可哀想……」

森の入り口にいた二人の兵が、同情を滲ませて伝えてくれる。
門の時といい、一緒に召喚されてきた女性たちはいったいどうなってしまったのだろう?
気怠さとアッシュ、ダロアログの非道っぷりで記憶があいまいなのだが、仮装した少女とОL風の女性二人、そしてカップルとサラリーマンが二人、ジンのクラスメイトの少女がリョウと一緒に召喚されていたはず。
その中でジンにつき纏う女の子――というと、仮装した少女とジンのクラスメイト。
そして、ОLのお姉さんたちだろうか。

「でも、どうしてジンくんがそんなに執着されるの?」
「ボクに聞かれてもわかんないよ~。本人もわかってないみたいだったし」
「まあ、頼れる親類縁者もない異世界でエリートが約束された【竜公国ドラゴニクセル】適性のある美少年……しかもお人好しがいたら縋っちまいたくなるのかもな~」
「逃げ回るから追いかけたくなっちまうのかもしれねぇしな」
「ハハッ、野生動物かよ!」
「「……」」
「……は……」

冗談のつもりで言ったのだろう。
兵の一人の言葉に、もう一人の兵もノインも一切笑わない。
リョウもなにが面白かったのかよくわからず、愛想笑いもできなかった。
おかげで場の空気の、なんと冷え切ったことか。

「で、どうする? リョウさん。ジンくんのこと、森の中で捜しみる? ボクはあんまりお勧めしないんだけれど……」
「え、ど、どうして?」
「ジンくんはリョウさんのこと、自分の女性トラブルに巻き込みたくないと思うから。だからあえて『無理に捜さなくていい』って言ったんだと思うし……運命的な遭遇に期待してみた方がいいと思うな」
「え、えーと……」



 ◆◇◆◇◆


ジンを捜す ▶︎ 
ジンを無理に捜さない ▶︎ 
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