流星群の落下地点で〜集団転移で私だけ魔力なし判定だったから一般人として生活しようと思っているんですが、もしかして下剋上担当でしたか?〜

古森きり

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2章

ドキドキ初冒険 1

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 召喚主であるリグ・エルセイドに出会ってから一週間が経つ。
 そう、いい加減リョウも気づいている。
 
(ああは言ったけど、どうやって他の召喚者の人たちと会えばいいのかな?)
 
 腕を組んで頭を傾けながら、うんうん考えてみるがいい案は出てこない。
 やはりノインに相談するしかないだろう。
 明日の朝、ノインが出かける前に間に合えば聞いてみようと決めて、就寝。
 
 翌朝、食堂に出てみるとカウンターにぐったり項垂れるノインと、その背中を撫でるレイオンが起きていた。
 相変わらず朝が早い師弟である。
 
「おはようございます。ノインくん、どうしたんですか?」
「ああ、昨日町の中で『赤い靴跡』のアッシュとドンパチかまして疲れ果ててるんだ。さすが億超えは厄介すぎるようでな」
「ええっ!? まだこの町にいたんですか!?」
「ああ、ケチな窃盗じゃあなく、北のスラムのガキのギャングどもを焚きつけて、貴族の屋敷から金目の物を根こそぎ強盗させていたんだ。裏帳簿から裏金まで出てきて強盗された貴族は被害届も出してねぇ。コイツやミルアたちが『赤い靴跡』と戦っても被害届が出てねぇから強盗の件で立件はできねぇときた。まったく最悪だよ」
「え、えええ……? なんで被害届を出さないんですか?」
「裏帳簿や裏金の存在を表に出したくないのさ。お貴族様ってのは意味がわからん」
「あ、あぁ……」
 
 なるほど、とも言えない。
 本当になんて面倒な。
 そりゃあノインもぐったりしてしまうわけだ。
 
「気晴らしに今日は休むように言ってるんだが……嬢ちゃん、どこかに出かける用事とかないかい?」
「え? ええとー……出かける用事というか……私と同じように召喚されてきた人たちは、最近どうしてるんだろうなー……みたいなことは、考えちゃう、かなぁ?」
 
 こんなに疲れていそうなノインに、彼らに会いに行きたいから連れて行ってほしいとは言えない。
 彼らは今頃貴族街にある、召喚魔法師学校に通っているはずだから。
 貴族籍ということは、あのベッキィのような人種がたくさんいるところなのだろう。
 行くと考えただけで気持ちが疲れてしまう。
 とは言え、手紙では全員に正しく説明できるかどうか自信がない。
 この世界の人たちには日本語を読むことはできないだろうから、ありと言えばありなのだろうけれど。
 
「あー、確かにジンくんはリョウさんのことすごく心配してたなー。元気? ってこと会うたびに聞かれる~」
真堂シンドウくんが」
 
 そういえばジンは入院していた頃もほぼ毎日、リョウのお見舞いに来てくれた。
 幼馴染であるリョウのことを、本当にずいぶん心配してくれていたようだ。
 ノインからもよく「ジンくん、今日もリョウさんのこと心配してたよ」と聞く。
 
「学校通うようになってからは、ミサさんとセアラさんにまとわりつかれて大変そうだよ。マキさんとヒナコさんも、ジンくんのことずいぶん頼りにしていたし。あれがハーレムってやつなんだねぇ~」
「ハーレムになってるんだ」
「うん。でもジンくんの本命はリョウさんでしょ?」
「え? なんで? 幼馴染ではあるけど……ああ、うん、真堂シンドウくんは家族仲がいいから、私のことも家族かなにかだと思ってくれてるのかも」
「え」
 
 幼い頃はよく一緒に遊んだが、小中高と疎遠になっている。
 時折顔を見ることはあっても、話すことはあまりない。
 挨拶だけはちゃんとしていたけれど。
 元々真面目で正義感の強い男の子だったから、リョウに対しても身内特有の庇護欲のようなものが発動しているのだろう。
 とはいえ、ハロウィンの夜に見たジンは女の子に絡まれて少し困っているようだった。
 顔もいいし、剣道も長くやっていて頼り甲斐もあるから小学校の頃から女の子によくモテていたのであの手の積極的な女子は苦手だったはず。
 もしあの時の少女が本気でジンを好きなのだとしたら、逆効果だ。
 教えてあげた方がいいのかもしれないが、初対面から嫌われているようだったし、なによりあの手の女の子はリョウの言うことを絶対信じてくれない。
 どうやら、リョウジンを取られまいと嘘を言っているように聞こえてしまうらしいのだ。
 取るもなにも、ジンは誰のものでもないと思うのだが。
 
「そっかぁ。まあ、それなら仕方ないよね」
「うん?」
「でも、そうだなぁ。ねえねえ、それならリョウさん、ジンくんを呼んでくるから、ボクとジンくんとリョウさんの三人とおあげとおかきで『甘露の森』に行ってみない? ジンくんも『行ってみたい』って言ってたから、『じゃあ、いつか休みの日に行こうねー』って話してたんだぁ」
「え、あの、え? 『甘露の森』って、ダンジョンなんだよね? でも私、冒険者とかじゃないし……」
「えー、平気だよぉ~。冒険者証とかなくても、あの森は元々町の収入源だったらしいしぃ。冒険者証は冒険者協会に採集した果物や、魔獣の素材を売る時に必要なんだよ。自分で食べる時は要らないの。それに、冒険者を護衛にして果物を採集しに行く料理人も結構いるよ」
「そ、そうなの?」
 
 だとしたら、少しだけ興味はある。
 なにしろ季節関係なく、様々な果物が実る不思議な森なのだと聞いているから。
 食堂で働くようになってから改めて思うのだが、果物は基本的に高い。
 元の世界でもそうだが、この世界でもそうだ。
 一瞬でソワソワし始めてしまった。
 
「あら、いいじゃないか」
「あ、リータさん」
「リョウが『甘露の森』からたくさん果物を採ってきてくれたら、フルーツ盛りを原価ゼロで提供できるってことよ? ちょうど裏の畑の柵が壊れて直したかったし、行ってきてくれると助かるね」
「あ、ああ……そういえばボロボロでしたね……」
 
 厨房の外は、低い崖がある。
 その崖の下は日当たりがよく、食堂で出す野菜が栽培されていた。
 きちんと柵で囲われているのだが、木製の杭が腐って傾いているのだ。
 北の浮浪者が時々野菜を盗みに来ることもあるので、ボロボロのままだと心許ないと愚痴っていたのを聞いた覚えがある。
 
「じゃあボク、ジンくんに南門に来るように伝えるね! リョウさんも出かける準備しておいて!」
「え! え? あの、え? 出かける準備って、ダンジョンに? な、なにを持っていけば!?」
「ノインが一緒なら収納宝具だけ持っていきゃいいさ。魔獣が出ても全部ノインが倒すだろうしな」
 
 と、ケタケタ笑うレイオン。
 弟子への信頼度の高さが窺えるのだが、それはそれでどうなのだろうか。
 
「ああ、リョウちゃんはノインの実力をまだ見たことがないのか」
「え、あ、は、はい。そうです、ね。話に聞くことは、多いですけど……」
「なら、一度直に見てみればいい。あの子は天才だよ。生まれながらの騎士だ。それなりに生きてるが、あの子は最初からアスカよりも強い。だからこそあの歳で酷な人生を送っているとも言えるが……」
「……魔力がないから、ですか?」
「いや。あの子に魔力の有無は関係ないよ。ま、【戦界イグディア】の武具がなくとも、あの子は剣聖になる。その器なんた。見ればわかるから、見ておいで」
「は、はあ……」
 
 レイオンにそう言われて、リータから大きめの収納宝具を借りる。
 武器もなにも持っていかなくていい、と言われて、不安ではあるものの通信を終わらせて戻ってきたノインとともにカーベルトをあとにした。
 南門に行く前に、「本当に普段通りの格好で大丈夫?」と聞くとノインに「不安なら武具屋さんに寄ってく?」と聞かれる。
 興味はあるが、寄って、そして買ったところで今後も使うかどうかはわからない。
 悩んでいると「それなら動きやすい服を買ったら?」と提案された。
 確かにワンピースよりは、ズボンなどの方が動きやすくて逃げやすいかもしれない。
 
「南には防御力の高い服や、魔法効果が付与されている服もあるからジンくんが来るまで買い物していようよ」
「え、でも待たせちゃったりしない?」
「大丈夫、ジンくんが時間通りに一人で現れたことないから!」
「え?」
 
 それはいったいどういうことなのだろうか。
 リョウが困惑していると、半目になったノインが「ジンくんといつも一緒にいたい女の子が四人もいるから、撒いてくるのに時間がかかるんだって」と言う。
 
「失敗すると四人のうちの誰かがついてくるよ~。他の三人を出し抜きたいらしくて、他の女の子には教えないんだよね。女の人って怖いな~って思っちゃうよ。ああいうの見るとジンくんにちょっと同情しちゃう」
「うわ……そ、そうなんだぁ。そういえばジンくん、元の世界でも女の子にすごくモテるから大変そうだったもんな」
「! ……ふーん」
「あ」
 
 南門の近くの商店街まで来た時、ノインが少し驚いた顔をした。
 その意味を一瞬理解できなかったけれど、リョウジンを「真堂シンドウくん」ではなく「ジンくん」と呼んだためだとわかる。
 しかし、今更訂正するのも気まずい。
 
「ノインくんの呼び方が移っちゃった」
「あはは、いいと思うよ。幼馴染なんでしょ?」
「うん、そうだね。小学校高学年になる前は、そう呼んでたっけなぁ……」
 
 なんとなく懐かしくなってしまう。
 そう思いながら、ノインのオススメの服屋さんに入る。
 ショートパンツと素早さ向上効果の付与されたタイツ。
 上は裾の長いチェニックと、七分袖のインナーを購入。
 どちらも防御力向上と回避効果付与付き。
 そして、防御力の高いニーハイブーツ。
 一式揃えただけだが、なかなかのお値段。
 お給料を貯めていたおかげで問題なく揃えられたが、たったこれだけで少しドキドキとしてしまう。
 これから、冒険に行くのだ。
 
 
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