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初恋の人が自罰的だったので溺愛することにした
言葉のちから
しおりを挟む(やっちまった、カッコ悪ぅ……)
翌朝、燦々と照りつける朝日を背に受けながら顔を覆った。
絶賛自己嫌悪中である。
(まあ、でも一回で終わらせられたのは偉い。と、いうことで、セーフ……ということにはならんだろうか)
治したとはいえ怪我人。
そんな相手にしっかりずっぽりと挿れて楽しんでしまった。
本人の許可を得ているとはいえ、だ。
「あ、リグ、大丈夫か?」
「だいじょうぶ……」
隣でもぞ、と動いたのを見て声をかける。
目許が赤い。
あまり大丈夫には見えないのだが。
「む、無理させてごめんな」
「お腹いっぱいぽかぽかするからだいじょうぶ……」
「あ、ああ、魔力か」
のそり、と上半身を起こすリグ。
顔は泣き腫らしてやや浮腫み気味。
心底申し訳がなくて、項垂れながら「本当ごめんな」と謝る。
それに対して不思議そうな表情をされた。
「大丈夫。知らない感覚で、怖かっただけだから」
「あ、ああ、けど……結局それもなんでだったのかは、わからなかったじゃないか」
「う、うん。お尻の中でずっと絶頂していた。今もまだ肌がピリピリする」
「ほ、本当に大丈夫か? 今日も寝てた方が……」
「大丈夫。シドにも会いたいし」
シドにか、と浮かぶのはリグの実兄の顔。
確かにあのブラコンはたとえ殺されないとわかっていても、怪我をした弟のことは案じていたように思う。
だが、ベッドから出ようとしたリグがいきなりガクッと前のめりになって倒れ込む。
「リグ!?」
「んっ、ひっ」
驚いて腰に腕を回し抱き上げる。
だが、それがまずかったのか、リグの体が大きく跳ねて痙攣し始めた。
(え、ええー?)
ベッドに戻し、顔を覗き込むと顔を真っ赤にしてプルプルと震えている。
恐る恐る「大丈夫?」と聞くと「イッちゃった……」と半泣き。
「マジ? ……今日はやっぱり休め。いくらなんでもおかしいだろ」
「う、うー……」
リグ自身も驚いたのか、おとなしくベッドに横たわる。
けれど、すぐに「端末を取ってほしい……」とテーブルの方を指差す。
「調べ物?」
「この現象がなんなのか、調べる。端末はまだ使いなれないけれど、本で調べるのは難しそうだか……」
「あ、ああ……」
実はリグ、通信端末を持ったのがつい最近。
【機雷国シドレス】の召喚魔について構造にも詳しく、ユオグレイブの町にいた頃は【機雷国シドレス】の住人の修理まで行っていたらしい。
フィリックスが持っているものよりも二回りほど大きいそれを、スイスイと使いこなす姿に――。
(天才すぎるだろ。支給されたの二ヶ月前だろ? おれより使いこなしてるじゃん……)
本当にすさまじい。
目許がまだぼんやりとしているのに、手つきに迷いがない。
「あ……これだろうか」
「どれ」
と、リグが見つけてくれた記事を覗き込む。
そこには『中イキ』と書いてある。
(リグがえっちな記事を読んでいる……)
と、いうだけで衝撃。
しかし、その記事の内容もなかなかの衝撃。
男同士の行為でドライオーガニズムという現象がある。
全身をたっぷり愛撫して、射精せずに前立腺や結腸などへの刺激で絶頂すること。
しかもその絶頂は女性のように連続でできる。
へぇ、と読み進めるが、リグ曰くこれじゃないらしい。
その下にある『中イキ』。
体への愛撫――主に耳や乳首や性器などへの刺激をせず、前立腺や結腸など中への刺激だけで絶頂に達することをいう。
「昨日、あまりフィーに体の方へは触れられてなかったから……こっちだと思う」
「あ、ああ……愛撫もろくにしてなかったのか、おれ……本当にごめん……」
「え、あ、いや……そ、それはあの、また今度で……」
今度!? と、言われて顔を上げる。
正直愛想を尽かされても仕方ないような行為をしてしまったと思ったのだが、また抱かせてくれるらしい。
「えっと……それで、この中イキというのは……パートナーに全身を開発されて、特に前立腺と直腸、結腸への刺激で絶頂することに慣れたあとに受け入れる側がパートナーとの信頼関係のもと、無意識に刺激への耐性を解除して開いた状態で到達するもの。と、ある」
「…………」
「ドライオーガニズムの一種であり、その中でも難易度が高く到達すると行為後も一時間から数時間の間、連続絶頂状態が続く。脳に薬物を摂取した時などに出る物質が分泌されてしまい、二度と元の体には戻れない。……なんだか怖いことが書いてある……」
「そ……そう、だな……」
本当にとんでもないことが書いてある。
そして、ベッドに寝かせたはずなのに、フィリックスにピットリとくっついて端末を見せてくる、この距離感。
さらに記事の内容。
(うおおおおおおい! 待って! しししし信頼関係って! パートナーとの信頼関係のもとって! そ、それって、リグが、おれを……!)
それどころではない。色々。
記事の内容が本当であれ、と心底強く思う。
「信頼……」
「っ」
リグが呟く。
リグも同じことを思ってくれたのだろうか。
ドキドキと早鐘のような心音。
恐る恐る、隣のリグを見下ろすと、ぼんやりと赤い顔で見上げられた。
世界一可愛いと思う。
「僕がフィーを、好き……ということ……だろうか?」
顔が熱くなる。
心臓が痛い。
息も上手くできないほどに、自分が動揺しているのがわかる。
「っ……でも、これは、その……記事だから……た、ただの」
「え、でも」
「信頼と、好意、愛情は……別、だと思う。えっと……リグがおれに、そういう気持ちを持ってくれたら、それはもう、嬉しいけど……リグ自身がまだ、自分の気持ちはをわからないんだろう?」
そう聞くと、黙り込む。
俯いて、指を唇に当てがい考え込んでしまう。
両思いになれたら、そんな嬉しいことはない。
むしろ両思いになりたいから、今まで頑張ってきたと思う。
それでも、彼自身が自分の気持ちをちゃんと理解していないと意味はない。
「フィーの好きと、僕の気持ちは、別?」
「どうかな……どうだろう……? 同じだと嬉しいね」
「言って」
「え?」
ぐい、と服を引っ張られる。
相変わらず、とろりとした艶やかな表情。
気を抜けば押し倒して、存分にキスをして蕩け溶かしたくなる。
ごくん、と生唾を飲み込んだ。
「なにを――」
「フィーが僕を、どう思っているのか……教えて、ほしい」
「そんなの」
何度も何度も言っている。
九歳の時に、初めて会った時からずっとなに一つ変わらない。
「好きだよ、きみが」
頰に触れると、ピクリと目許が揺れた。
ジッとこちらを見つめた美しい紫の瞳。
ただ、さすがにフィリックスも気づく。
無表情だったリグの、今の表情。
頰が染まり、瞳は揺れ、唇は震えている。
甘い感情が滲んだ、恋の――。
「も……もっと」
「え?」
「もっと……言って……」
「……好きだ」
「もっと」
目を細める。
両頬を包み込んで、絶対に逃さないようにしてからその可愛い顔を覗き込む。
「きみが好き。リグが好きだ。世界一可愛い。めっちゃ好き。大好き」
「も……もっと」
「うん。リグは可愛いよ。大好きだ。おれの初恋。今もずっとおれはきみに恋してる。もっときみのことを知りたいし、おれを好きになってほしい。そんくらい、スッゲー好きだ」
「……もっと」
「好きだ。好きだ。リグ、好きだよ。好きだ。……守れなくてごめん。守れるように強くなる。リグが安心して頼っていいって思えるくらい。今度は絶対、リグに怪我させない。守れる男になる。ずっと、一生リグはおれが守るよ。離れない。……どこにもいかない。側にいて守る」
頰に添えていた手を、リグの手が重ねて握る。
ゆっくり外されて、リグの体がフィリックスの体にポスッと傾いてきた。
胸に顔を埋めて、スリ、と擦り寄る。
その威力たるや。
理性が吹き飛ぶかと思った。
「僕も好き……だと思う……多分……」
「っ」
「だって僕も…………フィーに、好きって、言いたくなった。僕も、フィーのこと、好きって……」
今度はリグがフィリックスの頰に両手を添えて包む。
見上げる紫の瞳の、なんて美しいことか。
「好き」
そんなふうに言われたら。
そんなふうに見上げられたら。
抱き締めて、ベッドにまた押し倒して、唇を合わせて――全部を……。
「フィリックスさーん、リグさん起きたー? リョウちゃんが作ってくれたお粥持ってきたんだけどー!」
「ッッッッ!」
コンコン、というドアをノックする音とノインの声に、ガバリと起き上がる。
そうだ、リグは怪我を治したばかり。
昨日は無理をさせたと思うし、朝食もまだである。
「いま――」
今開ける、と答えようとしたのに、首に腕を回されて引き戻される。
見下ろすとリグが拗ねたように見上げていた。
(は? 可愛い)
顔が近づく。
「リグ、朝ご飯が……」
「食べたら、今日は一日ずっと一緒に寝てくれる?」
「……え、でも……」
怖いんじゃ、と聞いたら唇を舐められた。
「怖くなくなるくらい中イキに慣れるまで、いっぱいシて」
「……………………」
そのあとのことは、理性が飛んで覚えていない。
終
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