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初恋の人が自罰的だったので溺愛することにした

たくさんシて

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「ん、うん、ッン、んん……ふぁ……ふぃー……ベッドで、もっと……フィーの好きにしてほしい……」
「リグは、どんなことされたいとかある?」
「……えっと……キス、たくさんして……抱っこ、たくさんしてほしい……」
「ん、いいよ」
 
 背中に腕を回して、唇を合わせる。
 どのくらいキスをしていたかわからない。
 唾液が混じり合って、口の端から溢れた。
 見た目あってまたキスをする。
 髪を撫でて、耳にかけた。
 リグが首元に顔を埋めてくる。
 だいぶ呼吸も落ち着いてきたので、手を引いて風呂場から出た。
 恍惚とした、期待に満ちた表情。
 
(おれの好きに、していいのか)
 
 キスも、抱き締めるのも。
 ごくり、と生唾を飲み込んで、服も着ることなくベッドに向かう。
 手を絡めてベッドに押し倒して、唇を合わせる。
 リグの希望通りにキスをたっぷりして、熱った体に手を這わす。
 まずは普通に正常位。
 手を繋いだまま、ゆっくり挿入して揺さぶった。
 スライムの残した滑りがたっぷり残っていて、しかし感触は先ほどよりも生々しい。
 イキそうになったところで引き抜いて、後ろを向いてもらってあぐらをかいたフィリックスの上に座ってもらう。
 後ろからがっしりと抱き締めるようにして、また「挿入れるね」と声をかけて中に自分のモノを挿入れていく。
 正面からと違って、挿入ったことのない奥の方まで入ってしまい、リグの声色が甘みを増した。
 
「うぁぁ……っ! か、硬いの、奥まできてる、うんんんぅ……!」
「苦しい? 大丈夫?」
「ん、んっ……だ、いじょ、ぶ……ぅ……お、奥……そこ、ダロアログ、がっ、入れてたところ……フィーので、上書きしてほしっ……!」
 
 なんて言われたら、理性なんて吹き飛ぶに決まっている。
 よりにもよってあの男の名前が出た。
 あの男が、この人を穢した一番奥のところに到達したと言われたのだ。
 そんなの上書きする以外に選択肢などないだろう。
 胸を揉みながら、腰を打ちつける。
 好きだ、好きだと何度も耳元で告げ、見上げてきたリグの唇を貪るように口づけた。
 わざともっと奥――なんなら、あの男が到達してない奥まで入っていきたいと少し乱暴にピストンを繰り返す。
 泣き声のようになる喘ぎ声が可愛くて、気がつくと中に射精していた。
 断りもなく。
 ハッとして引き抜いて、「ごめん、中に……」というと、息も絶え絶えで「い、いい……」と許してもらえた。
 
「せなか、ぴったりくっつくの……後ろから抱き締めてもらえるのも……気持ち、よかった……から」
「っう……」
 
 かわいい。
 もう本当に。
 あまりにも堪らなくなって、髪に触れて、撫でる。
 目を細めて気持ちよさそうにするリグは、体を捻ってフィリックスを見上げた。
 
「それに――魔力……美味しい……」
「……!」
 
 元々今は魔力を回復中。
 リグとリョウの規格外の魔力量は、フィリックスと違って一晩眠れば回復する、なんて量ではない。
 一ヶ月をたっぷり用いてようやく全回復する量だ。
 そして、魔力は血に混じって体を循環している。
 血から作られる体液にも魔力は宿るので、唾液からも多少魔力を得られるという。
 同じく血から作られる精液も――。
 うっとりとした笑顔のリグの表情は不足していた栄養に悦ぶものだろう。
 キスを多く求められるのも、もしかしたら不足している魔力を補う意味が大きかったのかもしれない。
 
(ま、まあ……いいか)
 
 少し残念な気持ちもあるけれど、リグが喜んでくれるのなら――とも思う。
 上半身を起こして顔を寄せてくるリグに、キスで応える。
 おそらく半分程度は回復していると思うが、その回復の役に立てるのならそれはそれでいいのかもしれない。
 
「気持ちいい……」
「うん。もう一回、してもイイ?」
「フィーの好きにしてほしい。……いっぱい、フィーに、その、シてほしい……。フィーに触られたところは熱くて、気持ちがよくて、触れられたところが痺れるみたいになって……えっと……多分……嬉しい……みたいな、感じ……」
「……っ」
「だから、フィーにいっぱい触ってほしい。僕は性行為、痛くて苦しい、早く終わってほしいモノなのだと思っていた。お腹の中に異物が入ってきて、内臓を押し潰されて、吐きそうなほど気持ちが悪いものなのだと。でも、フィーとの性行為は本当に気持ちがいい。ダロアログの魔力は足しにも感じなかったのに、フィーの魔力はとても美味しいと感じる。もっともっとほしい……と」
 
 明確に差のあるモノだと、リグ自身確信と実感があっての言葉だ。
 頰を両手で挟まれ、覗き込まれながらそんなふうに言われたら先程少しだけがっかりした気持ちが綺麗さっぱり吹き飛んでしまう。
 
「フィーはダロアログと全然違うので、フィーがダロアログのように満足しているのか僕はよくわからない。もしかしたら僕ばかり気持ちよくて美味しいと思っているのかもしれない。だからフィーの好きにしてほしい。フィーの好きに触れて、フィーがしたいようにしてほしい」
「……あ……、……っ、おれもすごく気持ちよかったよ。さっきの風呂場のはスライムにも全身触れられて、あっという間にイッてしまった。今のもすごく気持ちよかった。ダロアログに触れたところよりも、深いところにおれは触れられた? もうあんな男を思い出さないかな? おれで上書きできている?」
「あ――ああ、とても、その……違うから……。ダロアログのものはすごく奥までくるけれど、とても苦しかった。フィーのはとても、とても気持ちよかったから……その……こんなに奥まで入れられても……気持ちがよく感じるものなのだと、驚いて……ええと……」
「――そう」
 
 リグにその都度確認するのを、心がけていたけれど――どうやらこれからはそれだけでは足りないらしい。
 フィリックス自身もどう感じているのかを伝えないと、リグは心配になってしまうようだ。
 なにが正しいのかわからないから、リグも手探り。
 ちゃんとお互いに言葉にして伝え合って、コミニケーションを取る。
 
(そうだよな……セックスも一種のコミニケーションだもんな……)
 
 気持ちの共有。感覚の共有。
 性行為がただの暴力だったリグに、そうではないのだと知っていってもらう。
 そのためには、フィリックスからもちゃんと気持ちを述べて理解してもらわなければならなかった。
 リグのことばかり知っても、それは一方通行のままだった。
 そこは深く、反省する。
 
「リグに、ダロアログよりも気持ちいいと言ってもらえて嬉しい。嫌な記憶が多いだろうけれど、リグにセックスをするのを許してもらえて、気持ちいいと言ってもらえて安心した。おれも、その……童貞で、昨日初めてで自信がなかったから……リグに褒めてもらえて安心したし、もっとしたいと言ってもらえて少し自信が出てきた。リグのことをもっと気持ちよくできたら、もっと自信がつくと思う。だから、リグにはどこが気持ちいいのかとか、どこに触れてほしくないとか、そういうことをもっと教えてもらいたい」
「い、言えばいいの、か?」
「うん。教えて」
 
 十分、言っている、と少しだけ唇を尖らせて言われた。
 確かにフィリックスが聞くと素直に教えてくれる。
 けれど、もっと。もっと。
 もっと知りたい。
 
「リグ」
 
 頰を両手で挟む。
 彼の気持ちはまだ、未発達。
 そんなことはわかった上で、やはり伝えたい。
 心の底から真剣に。
 
(父さんも母さんも死んだあの日、おれは世界に独りぼっちになったと思って自棄になっていた。そこにきみは現れて、未来を指し示してくれた。あの日からずっときみはおれの光そのもの)
 
 子どもだった。
 その子どもの世界に両親は絶対的な存在。
 それが急に奪われて、足下がなにもかもなくなった時に現れたのがリグだった。
 今こうして、目の前に、また――。
 
「好きだ、きみが」
 
 何度目かわからない告白をした。
 今まで本当に、まったく理解ができない、という表情をしていたリグの紫色の瞳が光を得て揺らいだように見えた。
 動揺したような、やはり不可解であるかのような?
 けれど、その意味を理解したようでもある。
 
「……答えがほしいわけじゃない。おれがきみに伝えたかっただけだから。困らせてごめん」
「い、いや……」
 
 本当に、今までで一番困り果てているような表情が居た堪れなくて、抱き締めてごまかす。
 彼が理解できなのなら仕方ないけれど、本質的ななにかは伝わったような気がした。
 フィリックスが彼に向けていた感情。
 好意。恋情のようなものの、その断片。
 彼がスエアロのような者たちから向けられてきた好意とは違う。
 欲と憧れと感謝が入り混じった、フィリックスの感情。
 
「――!」
 
 おずおずとフィリックスの背中に回された手が、その感情のささやかな答のように思えた。
 
 
 
 翌朝。
 目を覚ますとほんの少し汗の匂いと、甘い匂い。
 横向きで寝ていたので半身が痛いのだが、それとはまた違う意味で腕が痛い。
 よく見るとリグが腕の中に収まって眠っていた。
 あのあと三回ほど行為をして、後処理をスライムに任せて寝てしまったのだが、自分の腕の中に収まったまま眠ってくれるとは。
 愛おしくて愛おしくて、身じろぎして頭を撫でようとしたらふと、紫色の瞳が開く。
 
「おは、よう」
「おはよう……大丈夫か?」
「だい……けほ……」
「だ、だよね。今水持ってくる」
 
 声がガラガラ。
 無理もない。合計五回だ。
 痺れる半身を叱咤して、起きあがろうとすると見たことのない表情で見上げられた。
 なんだか、子どものような――。
 
「あ……いや……大丈夫……僕も、起きる、から」
「そう? か?」
 
 すぐに困ったような表情。
 最近リグは困った顔ばかりしている気がする。
 眉を寄せて、眉尻は下げて。
 起き上がって適当に下着と上着を着て、コップに水を汲んでくる。
 手渡すと「ありがとう」と素直に受け取られた。
 
「お腹があたたかい……」
「え?」
「フィーの魔力、昨日たくさん、注いでもらったから……」
「ンンン」
 
 性行為は魔力の供給になり得る。
 唾液や血より精液の方が魔力の媒体として大量に摂取できるので、優秀らしい。
 ただ、性行為は準備と処理が大変。
 唾液の交換――キスが一般的、との弁はシドである。
 裏社会では、そのキスひとつ我慢して行うことで命が助かる場合もあるのだから知識として持っていて損はない、そうだ。
 
「……そうか……昔は……ダロアログが魔力を注いでも黒魔石ですぐ吸い取られていたからか……。腹に精液を注がれると、本来はこんな感じなのだな」
「………………」
 
 本当に、反応に困ることを。
 
「体は? 今日は休むか?」
「大丈夫だ。フィーがずっと、気遣いながらシてくれたから。胸も、お腹も、なんだかずっとあたたかいんだ。不思議な感覚で、けれど嫌ではない」
「いや、でも……」
 
 さすがに空が明るくなるのを見てしまったので、リグにはしっかりと休んでほしい、と手を握る。
 それを言うとフィリックスもかなり眠くはあるのだが、ミルアたちの様子も気になる。
 明日は三合目まで降りる予定なので、早めに寝ればいいだろう。
 午後から休みということにしよう、と考えて、朝食を作り始めた。
 
「でも、腹の中の、その精液を取らないとお腹壊すんじゃなかったか?」
「ああ、炎症を起こして下痢になる。ウォータースライムで膜は作っていたけれど……」
 
 と言いながらずるり、と尻から透明な袋を出す。
 魔力は吸収したが、精液はスライムの膜で溜めていたらしい。
 
「こんなにたくさん出してくれたんだな……」
「は、早く捨ててくれ」
 
 持ち上げて、まじまじと見つめるようなものではない。
 それなのにリグは、膜の袋を傾けて舌に載せようとする。
 
「まだ魔力が残っているからもったいない」
「捨ててください!」
 
 視覚の暴力すぎる。


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