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初恋の人が自罰的だったので溺愛することにした
悩みごと(2)
しおりを挟むヒヤヒヤとしながら二人と別れて自分の部屋に向かう。
一度自室に戻ってラフな格好になってから、シドとリグがフィリックスの部屋に訪れた。
出迎えてお茶とお菓子を出す。
シドは甘いものがあまり得意な方ではないらしく、クッキーを全部リグの方に差し出した。
若干ブラコンが発動しているように見えなくもない。
「ええと、それで……非常に気まずいんだが……リグはシドに、なにを相談したんだ?」
「え……ええと……その……」
怖いので早く問題を解決してシドにはご退出いただきたい。
と、いう気持ちを半分。
リグが悩んでいることを知りたいという気持ち半分。
「もしかして、なにかリグが嫌なことをしてしまっただろうか?」
だとしたら改善しなければ。
どれが嫌なことだったのだろう?
一応一つ一つ、確認はしていたつもりだが。
「い、いや……別に……嫌なことは……」
「そうなのか? ええと、でも……?」
「こんな感じで要領を得ないんだが、多分、お前が抱き締めてくる時に自分もお前のことを抱き締め返してもいいのだろうか、とか、そういう感じっぽい」
「は――は?」
「ウキィ?」
思わず聞き返してしまった。
フィリックスの声にキィルーまで聞き返してしまった。
フィリックスがリグを抱き締める時、確かにリグはフィリックスを抱き締め返すことはない。
一方的に、フィリックスがリグを抱き締めている。
しかし、リグはそれに応えたいと言ってくれているということだろうか?
だとしたら、踊り出しそうなほど嬉しいことなのだが、なぜふわふわとした疑問系なのか。
シドが通訳するほどに確信がないというのは、なんというか。
「え、ええと……リグが抱き締め返してくれるのだとしたら、おれはとても嬉しいけれど……」
「……そう、なのか? …………」
と、首を傾げてからまた考え込むように俯いてしまった。
彼自身の自主性というか、人間らしく自分の望みを言ったり行ったりが今だに拙いので時折こういう擦り合わせがどうしても必要になる。
お茶を一口飲んでから、リグが考えをまとめるのを待つ。
けれど、フィリックスとしてはリグにされて嫌なことは多分ない。
「他にもしたくなることがあるんだろう?」
「したくなる、のかどうか、よく、わからない……けれど……その……」
「う、うん」
シドに促されて、リグが言葉を選びながら辿々しく「キスを、したい」と呟いた。
死ぬかと思った。
リグがあまりにも可愛すぎるのと、リグの隣のシドにチラリと見られた瞬間。
別の意味で――いや、多分逆の意味で。
「リグから、おれにキスしてくれるのか?」
しかしそこは殺気も感じないのでリグの意思の尊重を優先する。
彼が自主的になにかを希望することはまだまだ稀だ。
周囲の望むことを優先しがちなので、もしかしたらフィリックスが望んでいるから“道具として”そう思っているのかもしれない。
だとしたら、それはあまりいいことではないので観察と確認が必要だろう。
「え……ええと……その、少し……多分、違う」
「あ、ち、違うのか」
否定されるとそれはそれでダメージがある。
しょんぼりとしたが、まだ言葉を選びつつ……。
「フィーが、僕にしてくれている時に……真似をしたい、という感じというか……よくわからない……」
「え?」
「あ、わかった」
フィリックスには相変わらずわからないのだが、そこは実兄、シドが指を鳴らす。
「応えたいんだな?」
「こたえたい?」
「それはやった方がいい」
「そうなのか?」
「当たり前だろう、キスもセックスも基本的にお互い確認し合う作業みたいなもんなんだから、本来一方的なものじゃねぇんだよ。魔力供給用のモンは話が別だが、あのクソは自分の欲だけ発散できればそれでよかったからお前の意思もなにも確認するつもりがなかっただけだ。それが普通だったんだろうけど、それは普通じゃねえってのは知ってんな? 普通はそういうモンなんだよ」
「そう、なのか」
シドの説明にリグが少しだけ安堵したかのような表情をした。
フィリックスは若干置いてけぼりである。
「ええと……じゃあ……僕からも、舌を絡ませたり、唇を合わせにいったりしても、いいのか……?」
「え? え!? え、あ、う、うん!?」
今なんかすごいことを言われなかっただろうか?
思いも寄らなくて顔面が一気に赤くなった気がする。
もちろんウェルカムである。
「で、次は? なんかもう一個あるんだろう? 言いたいこと」
「え……ええと……フィーに触られるのが、気持ちいい。最初は知らない感覚もあって、とても驚いたけれど……フィーが、僕に上半身しか触れないのは、やはり……その……嫌だからなのか……どうしてなのか、よくわからなくて……いや、わからないけれど……フィーの望むままにしてくれていいのだが……」
「え? え?」
またよくわからないことになってきた。
思わず通訳をシドに求めてしまう。
「俺にはお前がセックスしたいと言っているようにしか聞こえない」
「そ……そんなことは……」
「下半身見たら現実見て猿騎士が萎えるかもしれないのが怖い、って思ってるようにも聞こえるから『そんなことない』のも本当なんだろうけれど、お前がコイツとセックスしたくて期待しているっていう話」
シドの通訳が精度高すぎてすごい、と息を呑む。
リグは困惑しっぱなし。
オロオロとしている。
自分の形容し難い感情や戸惑いを、シドが的確に形容していくので自分で自分の気持ちが呑み込みきれていないのだろう。
だが、期待されている。
リグに、自分とのセックスを。
そう言われると、胸が喜びやらなんやらでキュンキュンと苦しくなる。
「で……でも、その、怖いというのは……」
「「…………?」」
「フィーに触れられると知らない感覚もあるから、それは……確かに……怖い……かも、しれない……」
「ふーーーん?」
男同士、同じモノがついている。
それを見て“男同士”の現実にフィリックスが萎えるかもしれない、ということへの恐怖。
それ以外に、フィリックスに触れられると知らない感覚になる、という恐怖。
シドもこれには眉を寄せている。
確かに感覚の話は当人にしかわからない。
「その辺はわからんけど、とりあえず同じ男でも食えるのなら食えば?」
「い、言い方ァ……」
実兄に相談に乗ってもらっている時点で申し訳がないけれど、他に言い方はないものか。
いや、どう考えても弟の恋路相談に巻き込まれている時点でシドの心境も複雑の極みだろうけれど。
「期待しているのは間違いないんだし、今夜あたり魔力供給も兼ねて中出しでもしてやれば? じゃ、俺はもう休む。ほぼ一週間護衛と移動だったから、さすがに神経すり減ってるし」
「あ、う……そ、そうだよな。ごめん、ありがとう」
「別に。っていうかマジでこれ以上この話題は勘弁しろよ……」
「それは本当にごめん」
心底げっそりとして立ち上がり、部屋を出ていくシドにフィリックスも心の底から謝罪した。
実の弟の情事の話につき合わせるというのは、本当に申し訳ない。
しかも、流入召喚魔を奴隷扱いしている帝国からここまで護送するという神経をすり減らす系の任務を一週間の長期で行ってきた直後に。
「えーと……それじゃあ、その……今夜は……最後まで……し、シても、いいか?」
「え……あ、う……あ……あ、ああ」
シドが出て行ってから、少しの沈黙のあと意を決してリグに聞いてみる。
すると、目を泳がせながらリグも頷いてくれた。
「じゃあ……その……今から準備してくる」
「準備!? じゅ、準備って、ど、どんなことをするんだ……!?」
「え? ええと……【神林国ハルフレム】のスライムを召喚して……挿入れるところを、拡張して洗浄しておく。ダロアログにはまず先にスライムで犯されていたけれど」
「スライムで……?」
「ああ、洗浄と拡張、両方同時にできる上【神林国ハルフレム】のスライムは催淫効果もあるから便利なんだ。ダロアログは、スライムに僕を犯させるのを観て楽しむところがあったから」
もう、どこから突っ込めばいいのか。
口許がヒクつく。
ここにまだシドがいたら「やっぱり何度でも殺してぇ」と満面の笑顔で言うだろう。
「でもフィーに触れられると、催淫効果も与えられていないのに……気持ちよくなる。だから不思議で、シドの言う通り、怖い、のだと思う……。こんな感覚は、初めてで……」
「っ……そ、そうなのか」
「ああ。ダロアログのスライムに犯されている時は体がどんどん熱くなって苦しいのに、フィーに触れられている時は感じたことのない感覚になる。これはなんなのだろう? とても怖い」
「……触れない方がいいか?」
シドに指摘されたからなのか、明確に「怖い」と口にするリグ。
そう言われたら、申し訳ない気持ちになってしまう。
ならば今宵、最後まで、と言っていたがやめた方がいいのだろうか。
フィリックスの申し出に、リグは首を横に振る。
「怖いけれど、多分、シドの言う通り……僕は……最後までフィーに……抱かれてみたいのだと、思う。あの知らない感覚は怖いけれど、嫌なわけではないんだ――と、思う。それに、ダロアログのスライムに犯されている時のことも思い出してきて、フィーが上半身だけ触って帰っていくと困る感じがするというか……」
「そ、それは……」
意識せずに焦らしてしまったということだろうか。
それはそれで申し訳がなかった。
しかし、思っていた以上にダロアログの性癖は最悪だったらしい。
発情スライムの話は聞いていたが、まさか視姦の癖まであったとは。
「その……他にどんなことをされたとか、聞いてもいいか? されてほしくないこととか」
先に進むのなら、リグがされたくないこともちゃんと頭に入れておきたい。
理性が飛んでも、知っておけばブレーキにはなる。……と思う。
「首を絞めるとかは苦しいからやめてほしい」
「わかった、絶対にしない」
シドではないがフィリックスも何度目かのダロアログを殺したいな、と思った。
もう死んでいるのが残念でならない。
「えっと、その、俺からも、いいかな」
「なんだろうか?」
「スライムは、できれば使わないでほしい。というか、催淫効果で苦しくなるようなら、催淫スライムは使わないでほしいというか……そんなものを使わないで、おれがきみを気持ちよくしたいというか」
催淫スライムが悪いとは言わない。
あのスライムだって、【神林国ハルフレム】では繁殖に興味のないエルフの繁殖に協力する形でそのように進化したのだと習った。
けれど、できればそういうものに頼らずリグを気持ちよくしたい。
なんて、童貞の身で恐れ多い挑戦かもしれないが。
「そうなのか、わかった。けれど洗浄と拡張はスライムを使った方が楽なので、催淫効果のないスライムを使ってもいいだろうか」
「え、あ、う、うん。わかった」
その辺はお任せしよう。
なにもリグを傷つけたいわけではない。
リグが望む方法を取りたいと思う。
童貞は色々知識が足りないので、なにを準備せるべきかもわからない。
「ちなみにおれはなにを用意した方がいいんだろうか?」
「別に、なにも」
「え、な、なにもないのか?」
「スライムは僕の方で召喚して用意できるし……中に出してもスライムで処理ができるし……ローションのようなものもスライムから抽出できるし……」
セックスに便利すぎるだろう、スライム。
「知らなかった。スライムってそんなことできたのか」
「僕もダロアログがそう使っていたので学んだ」
本当にろくでもない男である。
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