50 / 51
勇者たる者
しおりを挟むしかし——。
「助けます! 泣いてる人、困ってる人を放っておくなんてできない!」
「っ!」
フリードリヒ。
元々、六人の中ではもっとも【勇者】適性が高いとは、思っていた。
己の身を省みずに人を救おうとする姿勢。
当たり前のことが当たり前にできる、しかし、その当たり前のことを当たり前にする究極が勇者だ。
だが今のフリードリヒたちでは、秒速で強くなる魔力竜巻の壁を破ることはできない。
やはりリズが御さなければ。
(でも、こんな魔力どうやって消費したら……)
拡散させるのは無理だ。
拡散させた途端にまた集められる。
ならば魔法として消費するのがもっとも適切。
だが、ここまで集まった魔力を消費するほどの魔法となると、攻撃魔法か結界魔法、空間魔法……現在進行形で増える魔力量も考えると、その都度魔法陣の情報を再構築し続けねばならない。
不可能ではないが、そこまでして使う魔法となると限られる。
王都の真上に空飛ぶ城でも作ってやろうかと思ったところに、ヘルベルトたちの声が響いた。
「管理人殿! この会場と周辺にいた者は全員避難させた!」
「なにが起きてるんですの!?」
「ワタシたちにできることはありますか!?」
「なんでも言ってください! 僕たちだって、なにかできる!」
「フリードリヒがんばるんよ! 怪我したらその瞬間から、うちが治すから! 突っ込めーーー!」
「おう!」
「キ、キミたち……」
気がつけば会場の中には『勇者特科』の生徒とリズたち以外誰もいない。
彼らは迅速にダンスホールを含めた、建物内のすべての人や、その周辺の人々まで遠くへ避難させていたのだ。
リズが指示したのではなく、おそらく指示を出したのはエリザベートとヘルベルトだろう。
ロベルトの[思念]の魔法で近くにいない者にも伝え、マルレーネが四大侯爵家の名でごねる者も動かしたのだと彼らの魔力残滓から読み取れた。
(この子たち……自分で……)
かつて、お金の使い方も自分がなすべきこともわかっていなかった彼らが……。
リズと生活し、冒険者として実戦を積み重ね、緊急事態であっても冷静な対処ができるようになっている。
「うっわ!」
「フリードリヒ!」
だが、それでもフリードリヒの腕が魔力竜巻に弾かれ、吹き飛ぶ。
これは急がねば。
魔力収集範囲は広がり続け、学園の魔道具による灯りはすべて消えた。
他の魔道具も魔力切れで効果を失っていることだろう。
「管理人さん! おれたちにできることを、教えてくれ!」
「っ」
フリードリヒが叫ぶ。
その後ろのヘルベルトも、ロベルトも、エリザベートも、マルレーネも、モナも。
(……立派な勇者の顔になってる)
ずっと昔。
アーファリーズがアーファリーズに生まれる前の人生で、関わったあの男と同じ眼差し。
(勇者……)
彼らは【勇者】になりえる才能がある。
でもリズはだからこそ彼らには青春を謳歌してほしい。
こんな狭い場所ではなく、もっと広い世界を見るべきだ。
それなのに、彼らは彼らなりに世界の広さを感じ取り、その上で守るべきものを見出し、そのために戦おうとする。
これだから【勇者】は、と腹が立ってきた。
「…………」
目を閉じる。
そうして一拍の間、[演算]にてこの状況を打破する策を算出。
やはり最適解は一つ。
「アリア、この国にいられなくなっても、キミと父さん母さんはボクが守るからね」
「アーファ……」
「ロベルト、モナはボクの魔力制御を補助! エリザベートは[鑑定]でボクの[演算]を補助して! マルレーネは[演算]で導き出された距離を[超長距離狙撃]のスキルで微調整! ヘルベルトは会場周辺に集まる騎士団と冒険者協会の冒険者全員を王都住民の避難にあてて! その辺りの指揮能力はキミが一番高い! フリードリヒはボクとアリアの手を握れ!」
「はい! …………え?」
え?
みんなが首を傾げるなり、目を見開くなりした。
でも、きっとこの役目は今のフリードリヒにしかできない。
「いくよ、アリア」
「な、なにをするの、アーファ……」
「空の黒点を封印し直す。大丈夫、封印が解け切れてないあの状態の黒点なら、ボクとキミと【勇者】が一人いれば成せるよ。ってわけで【勇者】フリードリヒ、手を貸してもらう! 【勇者】固有の称号スキル[聖浄化]で黒点から溢れる瘴気を浄化するんだ。今のキミになら間違いなくできる!」
「よ、よくわかりませんけど、やってみます!」
「それでいい! では行くよ! 魔法陣生成でこの魔力竜巻を消す! 全員で魔王復活を完全に潰えさせるから、その瞬間補助に回って! 外の露払いは頼んだよヘルベルト!」
「了解した! 王子たちに邪魔はさせない! 心置きなく世界を救ってください!」
頼もしい。
そしてさすが、わかってらっしゃる。
そうなのだ、それなのだ。
本当に、あのアホ王子やその婚約者の横槍が一番困る。
四侯爵家の子息であり、最近は冒険者からも信頼厚いヘルベルトなら心置きなくこちらに集中させてくれるだろう。
0
お気に入りに追加
150
あなたにおすすめの小説
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

職業賢者、魔法はまだない ~サバイバルから始まる異世界生活~
渡琉兎
ファンタジー
日本の高校に通っていた天川賢斗(あまかわけんと)は、突如振り出した豪雨にさらされると落雷を浴びてしまい即死してしまう。
意識だけの存在になった賢斗に女神と名乗るアステアから異世界転生をさせる代わりに、世界を救ってほしいとお願いされる。
ゲーム大好き人間だった賢斗は即答で了承すると、転生時の職業を【賢者】にしてくれると約束してくれた。
──だが、その約束は大きな間違いを伴っていた。
確かに職業は【賢者】だった。きっともの凄い魔法が使えるのだろう。だけど、だけどさあ…………レベル1だから超強い魔法が魔力不足で使えないんですけど!?
魔法欄には現代魔法の最高峰やら、忘れ去られたであろう古代魔法やらがずらりと並んでいるのだが、レベル1で魔力5しかない賢斗には全く、何も使えなかった!
これは、レベル1の最弱賢者がレベリングに躍起になる、そんなお話。
……あれ、世界を救うとかなんとかって、どうなった?
※カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜
シュガーコクーン
ファンタジー
女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。
その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!
「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。
素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯
旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」
現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

未知なる世界で新たな冒険(スローライフ)を始めませんか?
そらまめ
ファンタジー
中年男の真田蓮司と自称一万年に一人の美少女スーパーアイドル、リィーナはVRMMORPGで遊んでいると突然のブラックアウトに見舞われる。
蓮司の視界が戻り薄暗い闇の中で自分の体が水面に浮いているような状況。水面から天に向かい真っ直ぐに登る無数の光球の輝きに目を奪われ、また、揺籠に揺られているような心地良さを感じていると目の前に選択肢が現れる。
[未知なる世界で新たな冒険(スローライフ)を始めませんか? ちなみに今なら豪華特典プレゼント!]
と、文字が並び、下にはYES/NOの選択肢があった。
ゲームの新しいイベントと思い迷わずYESを選択した蓮司。
ちよっとお人好しの中年男とウザかわいい少女が織りなす異世界スローライフ?が今、幕を上げる‼︎
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる