36 / 51
教員試験
しおりを挟む『大地の季節・烈火の週・雷の日』。
教員免許、試験日として連絡が来たので、王立学園の事務局に来てみたらこれである。
「おーっほほほほほ! なにを突っ立っておりますの? さっさとお帰りなさい! 本日この会場はわたくしたちが貸し切っておりますのよ」
「いやー……」
そこで笑っていたのはゼジルの婚約者、ラステラ・ファーロゥ。
なんか年始に見かけた時より全体的に丸くなっていないだろうか?
……体の意味で。
そして、そんなラステラは今、試験会場の教室をフローラルな生花で埋め尽くし、ちょっと目に痛いギンガムのテーブルクロスと天井付近まで積まれたケーキ、一目で高級とわかるティーセットと、おそらく伯爵家以上のご令嬢集団——およそ三十人——とお茶会を行っていた。
(すごいなー、嫌がらせのためにここまでやる? ここまで金使う? アホだな~……)
もう、いっそ感心しちゃう。
「ど、どうする?」
「四大侯爵家のご令嬢だろう? とりあえず局長が来るまで待ってみるか?」
後ろではリズと同じく試験を受けに来た若者たちが顔を見合わせて、困惑する。
そりゃそうだ。
教員志望者は下級貴族が多い。
家に力がなく、しかし成績優秀であれば上級の貴族の子どもに勉強を教えて生活していくことができる。
しかも男女関係なく職にありつけるので、教職は人気だ。
資格があるだけで信用度も違う。
とはいえ、あくまでも下級貴族。
教員資格を取る前に、これから商売相手になるであろう上級貴族に喧嘩を売りたい者は皆無。
しかも完全にリズへの嫌がらせのとばっちり。
これは本当に可哀想だな、と思う。
それにしても——。
「ちょっと! いつまでそこに突っ立ってますの!」
「っ!」
リズに向かって投げつけられたティーカップ。
絶対お高いやつ。
それがリズに届く前に宙の上で停止する。
「うぇっ!?」
「うーん、まあ、ボクが優しくしすぎたのもあると思うんだけどー……ボク、【賢者】なんだよ雑魚」
「はっ!? ざ、な、なんですって!?」
お嬢様には聞き慣れない、知らない言葉だろう。
でもとりあえず罵られているのはわかるらしい。
額より数センチ手前で止まって浮いているティーカップを手に取り、もう一度浮かす。
「君が思っているよりも、ボクはすごーっく強いんだよね。ボク一人でこの国の戦力ぜーんぶ削り取ることもできるくらい」
「は? はあ? そんなことできるはずもありませんわ。強がるのもたいがいに……」
「まあ、どっちにしても邪魔だからちょっと外で待っててくれる? お茶したいならしてていいよ」
「え?」
パチン、とリズが指を鳴らすと、彼女たちは花瓶や花束にされて飾られていた生花や、椅子やテーブルごとその場から消える。
その代わりに外から、「キィャアアアアアァ!」という甲高い悲鳴。
凹の形の事務局の、真ん中の広場の空中に彼女らはいた。
令嬢たちは抱きしめ合い、地上十メートルはあろう空中で泣き叫ぶ。
「ちゃんと透明な床をつけてあげてるんだから、そんなに泣くことないのにねー。さ、試験を始めよう」
「で、でも試験官とかまだ来てないですよ?」
「ふん」
もう一度パチン、と指を鳴らす。
どさぁ、と局長の男が落下して来た。
局長はなにが起きたかわからず、キョトンとしている。
「え?」
「え? じゃ、ないよ。試験。始めて、早く」
「……えっ、あ、あれ」
「あれ、もしかして四大侯爵家の人たちに怒られたい? ボクは別にどっちでもいいけど。それとも【賢者】を怒らせたい? いいよ、ボクが本気で魔法を使ったら王都なんて秒で焦土にできるけど……」
「ひっ……」
【賢者】称号スキル[威圧]。
自分より弱い者を威圧し、行動不能にする。
ついでに[恐怖付与]も使ってやった。
この男には春先から煮湯を飲まされてきたのだ。
このくらいの仕返し、可愛いものだろう。
「ひ、ひっ……す、すぐに……すぐに試験を始めまーーーっす!」
「ふん」
別人のようにカタカタと震えて試験の問題用紙を配る局長。
席に着いた受験生たちは、問題と向き合い始める。
(楽勝……)
これで無駄な妨害さえ入らなければ、リズは『教員免許』を手にできるわけだが——。
「し、試験の結果は後日、『大地の季節』『疾風の週』『烈火の日』にお伝えさせていただきます」
「とりあえず今年中に結果は出るのね」
「は、はい」
ガタガタと脂汗まで流して頷く局長。
[恐怖付与]がずっと発動していたからだろう。
「…………【賢者】って称号、マジかよ」
「あんな子どもが?」
「嘘だろ……?」
「そういえばあのご令嬢たちは……?」
パチン、と指を鳴らすと、試験会場は最初と同じく飾り立てたお茶会会場に戻る。
数人がしがみついて泣きじゃくる令嬢たちが、元に戻ったことでハッと顔を上げた。
「あ、も、戻っ……」
「なにしてくれてるんですの! わたくしたちを空の上に放置したのはあなたの仕業ですわね! アーファリーズ!」
ラステラが叫ぶ。
涙でぐしゃぐしゃになった顔のまま、強気で指差してきたあたりさすがだ。
だが、リズが[威圧]と[恐怖付与]の効果範囲をラステラのところまで広げると——。
「ひぐっ」
「魔物の巣窟に投げ込むこともできたけど、やらなかったよ。それで感謝してほしいなぁ」
「な、なっ……」
「まあ、いいよ。許してあげる。そろそろキミたち、ボクに手出しできなくなると思うしね。ふふ」
「っ——!」
0
お気に入りに追加
150
あなたにおすすめの小説
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

職業賢者、魔法はまだない ~サバイバルから始まる異世界生活~
渡琉兎
ファンタジー
日本の高校に通っていた天川賢斗(あまかわけんと)は、突如振り出した豪雨にさらされると落雷を浴びてしまい即死してしまう。
意識だけの存在になった賢斗に女神と名乗るアステアから異世界転生をさせる代わりに、世界を救ってほしいとお願いされる。
ゲーム大好き人間だった賢斗は即答で了承すると、転生時の職業を【賢者】にしてくれると約束してくれた。
──だが、その約束は大きな間違いを伴っていた。
確かに職業は【賢者】だった。きっともの凄い魔法が使えるのだろう。だけど、だけどさあ…………レベル1だから超強い魔法が魔力不足で使えないんですけど!?
魔法欄には現代魔法の最高峰やら、忘れ去られたであろう古代魔法やらがずらりと並んでいるのだが、レベル1で魔力5しかない賢斗には全く、何も使えなかった!
これは、レベル1の最弱賢者がレベリングに躍起になる、そんなお話。
……あれ、世界を救うとかなんとかって、どうなった?
※カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。
神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜
シュガーコクーン
ファンタジー
女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。
その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!
「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。
素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯
旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」
現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!

俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー
コーヒー微糖派
ファンタジー
勇者と魔王の戦いの舞台となっていた、"ルクガイア王国"
その戦いは多くの犠牲を払った激戦の末に勇者達、人類の勝利となった。
そんなところに現れた一人の中年男性。
記憶もなく、魔力もゼロ。
自分の名前も分からないおっさんとその仲間たちが織り成すファンタジー……っぽい物語。
記憶喪失だが、腕っぷしだけは強い中年主人公。同じく魔力ゼロとなってしまった元魔法使い。時々訪れる恋模様。やたらと癖の強い盗賊団を始めとする人々と紡がれる絆。
その先に待っているのは"失われた過去"か、"新たなる未来"か。
◆◆◆
元々は私が昔に自作ゲームのシナリオとして考えていたものを文章に起こしたものです。
小説完全初心者ですが、よろしくお願いします。
※なお、この物語に出てくる格闘用語についてはあくまでフィクションです。
表紙画像は草食動物様に作成していただきました。この場を借りて感謝いたします。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる