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お嬢様たち
しおりを挟む翌日、女子寮で食事をしていたエリザベートとマルレーネをとっ捕まえて、硬貨について説明をしてみた。
案の定目を丸くして聞いている二人。
「お、お金……これがお金、ですの」
「初めて見ました……。さ、触ってみてもいいですか?」
「わ、わたくしも……よろしいかしら?」
「は、はい」
マルレーネが話しかけたのはモナである。
貴族に話しかけられるのはやはり緊張するのか、モナは縮こまりながらも頷く。
しかし、あの部屋の中で三角形を作っていた女子寮食堂の生徒の距離が今は一つのテーブルで事足りていると思うと、なかなかの進展なのではないだろうか。
「まあ……これが“お金”なのね……」
「硬貨の種類や価値も、初めて知りました。こんなものがあることも……。でも、施設の外ではこれが普通に流通しているんですね」
「は、はい。買い物は、うちもまだしてねぇんですけんども……」
「買い物って、自分でできるものなのですの?」
「普通の人は自分の必要なものは自分で買うんだぞ」
令嬢二人の顔が驚愕で固まる。
その様子に、軽い頭痛を覚えた。
貴族ならば自分で買い物はしない……いや、するに決まっている。
貴族であっても買い物は絶対にできるはずだ。
たとえば、貴族令嬢ならば刺繍など嗜みとして行う者も多い。
想いを込めて刺繍を施したネクタイやハンカチを婚約者に贈ると、刺した花の種類や色によって魔除けや浮気防止になる、というおまじないがある。
リズは詳しくないが、姉のアリアリリィはそういうものに詳しくて、時折雑談の中で聞いた……ハズ。
と、いう思い出話を少しすると、エリザベートが立ち上がる。
「その刺繍、どうすればできますの?」
「え? ごめんね? 今言った通りボクはやったことないの。姉に聞かないと」
「聞いてくださいまし。いえ、ご招待してご教授願えませんか? お給金ならお支払いいたしますわ」
「え?」
それなら呼び出してみようかな、とリズは日給を頭の中で計算し始めた。
しかし、このおまじないは恋愛関係が多いと聞く。
実際リズが口にしたのは、姉が婚約者のできた友人やその姉妹に贈ったものだと聞いていた。
自分でやらないと意味がないんじゃないかと思ったが、このおまじないは魔力ある者が少量の魔力を意図に通して行わなければならないらしい。
まだ八歳程度の友人や、その姉たち全員に魔力があるかというとそうではないだろう。
この国では魔力がない人間も多い。
魔力がある人間が珍しいわけではないが、貴族の中でもピンキリだ。
特になぜか女性は有無の落差が激しく、魔力を持つ者は男よりも膨大な者が多く、持たない者はまったく持たない。
貴族令嬢であれば魔力はなくとも問題視されることはないが、魔力の高い令嬢は嫁の貰い手に苦労する。
女の魔力が高いと、子どもが産まれにくいのだ。
同じ量の魔力保有者ならばそんなことはないらしいのだが、リズの姉はリズよりも魔力量が多い。
あれは婿探しに苦労するだろうなぁ、と他人事のように思い出して……そしてエリザベートとマルレーネはプラス、こんなところに放り込まれてもっと大変だなぁ、と渇いた笑いが溢れた。
おまじないにも縋りたい、ということなのかもしれない。
「では、そのあたり頼んでおくよ。ボクは男子たちにも今の話してくるから」
「ええ、よろしくお願いしますわ」
女子でこれなのでは、男子たちも同じだろう。
男子寮に移動して食堂に行ってみると、男子たちは男子たちで絶妙な距離感で食事をしていた。
女子たちより座っている距離は近いが、相変わらずフリードリヒがずっと一人で喋っている。
話している内容は昨日の討伐経験。
ヘルベルトとロベルトはあまり興味がなさそうだが、相槌を打っている。
「フリードリヒ」
「あ! 管理人さんおはよっす!」
「おはよう。二人にお金の価値とか教えたか?」
「…………ぁ」
そんなことだろうと思っていた。
ので、不思議そうにするヘルベルトとロベルトに女子寮食堂で行った硬貨の種類や価値について解説を行う。
貴族であるヘルベルトたちも、存外これは意外だったらしく真剣に聞いてくれた。
男の貴族ならば、買い物は婚約者へのプレゼント……主にドレスや装飾品だろうか。
そういうものについても軽くつけ加えて説明すると、意外にも食いついたのはヘルベルトだ。
「なるほど……外の者は女性へプレゼントを買うのにこれを使うのか」
「マルレーネへドレスを買って贈ってみてはどうですか? ヘルベルトさん」
「うっ! ……し、しかし、着る機会がないからと断られたりしないだろうか? 装飾品の類も鍛錬の邪魔になるかもしれない」
「ステータス数値強化アイテムの中には装飾品の類もあると、以前商人が言っていましたし……その手で攻めてみては」
「そーだぜ、ヘルベルト兄ちゃん! イケるイケる!」
「な、なるほど……強化アイテムとしてなら……」
「…………」
待て。
待ってほしい。
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