転生した幼女賢者は勇者特科寮管理人になりまして

古森きり

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勇者候補たち【前編】

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 やっとこの三人以外が口を開く。
 一番やる気がなさそうな弓矢使いの娘だ。
 そんな彼女の怪訝な表情も、アーファリーズは鼻で笑う。

「ボクを誰だと思って……って、知らないんだったな。言っておくけどキミらみたいな半端者勇者が何人集まろうとボク一人で蹴散らせる程度には、ボクは強いんだよ」
「!? なんですって?」
「まあ、見てな」

 そう言ってアーファリーズは魔法陣を複数描き上げる。
 魔力量、魔力の通し方、本来なら制御すら難しい数に、六人全員が目を剥き口をあんぐり開く。

「まずは清掃」

 エリアを指定し、[清浄]の魔法を施設と庭、水、校庭、校舎、寮すべてとここ、共同通路、地下施設にもかける。
 家具、食器、衣類を中心に、掃き掃除や拭き掃除、洗濯で取れる埃や汚れの類をすべて綺麗にした。

「次に食糧管理と献立製作、調理を行うキッチンゴーレムの生成」

 個数の把握や、在庫のある食材で作れるレシピの登録、調理を行うゴーレムを六体生成する。
 これらは主に食堂と調理場、それに関連する施設や器具の清掃管理を行い、うち一体は調理専門。
 一年で読み尽くした図書館にあった料理レシピをインストール。
 男子寮に三体、女子寮に三体設置完了!

「次に医療室を担当する、医療ゴーレムの生成」

 同じく図書館で読み漁った応急処置から流行病、その治療法、特効薬の作り方など医療関係の知識をすべてインストール。
 男子寮に一体、女子寮に一体、校舎に一体、地下施設に一体配置。——完了。

「施設内清掃用、警備用ゴーレムを三十体生成」

 清掃用を十五体、警備巡回用を十五体、指定のルートを回るように設定して生成し、配置。——完了。

「庭の管理、草木の世話、風呂の湯沸かしなどの雑務を行うゴーレムを五体生成。それらの統括個体を一体生成。加えて全ゴーレム総括個体を一体生成」

 庭の知識、動植物の知識、日常生活を送る上で必要と思う行動を学習する機能もつけたゴーレムを五体。
 その五体の学習を、一体の統括個体に情報共有し、そこから他個体への共有を行うよう設定。
 そして、これまで作ったすべてのゴーレムを総括する個体を一体生成する。
 総括個体以外は配置——完了。

「よし、まあこんなものだろう。これで日常生活は問題ないな」
「…………」

 当の彼らは空いた口が塞がらなくなっている。
 アーファリーズからすれば、この施設を元々運用するために使われていた、地脈からの魔力を用いてゴーレムを生成した。
 特に疲れていなければ、これからも疲れることはない。
 大したことは、していないのだ。

「というわけで今日からこの施設の管理はこの天才魔法使い、アーファリーズ・エーヴェルインに任せてもらおう。キミたちは自らを高めるのに集中してもらって構わない! あ、なんならボクのことは気軽に『リズ』と呼ばせてあげよう。『アーファ』は家族にしか呼ばせてないからダメね」
「お、おお……」
「リズ? 君女の子だったの!?」
「生物学上は女だが?」

 それがなんだ、と口を挟んできた槍使いの少年を睨む。
 それにあたふたする少年。
 口調も見た目も女らしくないのは自覚しているし、別に他人からどう見られようと興味もないアーファリーズ、改めリズ。
 性別にこだわるのは世継ぎに関わる真っ当な貴族だけでいいだろう。
 少なくともエーヴェルイン伯爵家はリズの双子の姉が家を継ぐ。はず。
 自分は好きなように、好きなことをして生きる。
 家を守りたいとは思わないが、家族は守りたい。
 だから稼ぐし、必要なら女らしく振る舞うことも辞さない。
 ただ、今はその必要がないだけだ。

「で? ボクはちゃんと自己紹介と仕事したんだからそろそろキミたちも名乗ったらどうなの? 仮にも勇者候補が礼を尽くさないのはどうかと思うよ。それともこれからその辺教えないとダメな人たち?」

 ふんす。
 再び腕を組んで見上げながら見下すリズ。
 勇者候補たちは顔を見合わせると、大剣を持つ男が顔つきをキリッとしたものに変える。

「君の実力とここにいる理由は分かったが、本当に管理人になったという証拠は? 書類などは持っていないのかね?」
「頭の固い男だなぁ。書類とかはあとから届くよ、多分。少なくともこっちのサインはあっちに置いてきたもの。ボクだって別にここに来たくてきたんじゃないよ。魔法騎士団の魔法騎士を志望してたのに、第三王子ゼジルが年下なのに飛び級で卒業してしまうほどのボクの天才っぷりに嫉妬して嫌がらせでここの管理人を押しつけてきたんだもの」

 スラスラと事情もついでにつけ加えると、大剣の男はまた表情を「ええ……」というドン引きしたものに崩した。
 第三王子との確執。
 これは別にリズが望んだものではない。
 性格の相性も相俟って、そうなってしまっただけだ。
 どうせあの第三王子は卒業後、適当に公爵だか大公だかの地位を与えられて放逐される。
 あの我が儘王子には、誰も期待していない。
 だからせめて四大侯爵家のラステラ・ファーロゥ侯爵令嬢と婚約し、ファーロゥ家が後ろ盾となったのだ。
 没落寸前の伯爵令嬢と対立してもこの程度の嫌がらせしかできない時点で、お察しである。
 勇者候補たちは改めて顔を見合わせ、大剣を持っていた男は剣を鞘へ収めた。
 それを見て、女の方も剣を鞘に戻す。
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