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7章 魔力なし騎士、対峙する
一歩進む
しおりを挟む「おい、騒がしいけどフェリツェ起きたのか?」
「マリク」
「フェリツェ! マジで目が覚めたのか!」
左腕を吊ったマリクがテントの入り口を潜る。
フェリツェが目覚めていると気づくと、心底安堵したように眉尻を下げた。
「よかった。マジで死んだと思った。お前無茶しすぎなんだよ。エリウスもだけれどな」
「お前やっぱり無茶したんか」
「そ、そりゃ多少は……。でもまだ反動も来ていないし、相手は超大型魔物なんだから無茶くらいするよ」
「「まあ、それは」」
無茶をしなければ勝てない相手だろう。
少し呆れたようなマリクも「まあ、でも奇跡的に死人が出てないから」とフェリツェに教えてくれた。
死者は出ていないが、森は六割があの紫の光線に焼かれ、八割が大地汚染されたという。
森の汚染は『浄化の聖女』に依頼するしかないが、長い時でも一週間以上かけて倒す超大型を一日で、死者も出さずに倒せたのは本当に奇跡に等しい。
倒したのはアウモではあるものの、アウモはフェリツェを守ろうとしただけで、倒したのは騎士団といことにすればいい、と言い放つ。
「お前、特に怪我がひどいから先に王都に帰れって団長から指示出てたぞ」
「え? 俺? いや、でも……マリクだって」
「お前より重傷なやついねぇーし、歩けないやつはお前だけだから」
「ぐう……」
「ってわけで反動がいつ来るかわからんエリウス、お前も先に帰郷して体調が問題ないなら王城に報告しろってさ。つまりまあ、お前ら一緒に帰れ」
「「えっ」」
団長の判断だとはいうが、また上半身を起こしそうになるのをアウモに押さえつけられる。
そんなことを言われた俺とエリウスは、顔を見合わせてしまう。
俺たちの反応にマリクは少し面白くなさそうに「疑うならあとで団長に来てもらうか?」と言い出す。
いやいやいやいやいや!
わざわざ後始末で忙しい団長にわざわざ来てもらうなんて、ヤバすぎでしょ。
それになによりマリクを疑うなんてことない。
「でも、その……いいのか?」
「いても役に立たないだろ。むしろお前らの世話まで手ぇ回らんって」
「ぐっ……」
「エリウスなんて反動でどんな不調が起こるかわからないし」
「ううっ!」
マリクのど正論に俺とエリウスは押し黙る。
腕を吊るマリクは幸い利き腕ではないし、体力があるので数日後には治癒魔法で完治するだろう。
他の騎士たちも似たようなもの。
例外はエリウスと俺……ってわけだ。
納得せざるを得ない。
「馬車はディックが用意しておいてくれるから、とりあえず帰るってことだけ把握しておけよ。準備は研究者たちがやるって話だから。多分午後には終わるだろう。夜は危ないから、明日の朝にはここを発って王都に帰れ。いいな?」
「わかった。ごめん、ありがとう」
「いいよ。お前のおかげで、俺もこの程度の怪我で済んだんだ。……ありがとうな、フェリツェ」
マリクがそう言って俺の肩に軽く触れる。
そして小さな声で「お前はやっぱり立派な騎士だよ」とまで言ってくれた。
魔力もなく、剣の腕もやはり才能のある者に比べたら努力でも補いきれない程度。
それでも俺だけにあるもの……魔寄せの体質が、仲間や民を守るのに役立ったのなら――騎士として、こんなに嬉しいことはない。
「へへ……」
「よかったね、フェリツェ」
「ああ。俺、ちゃんと……騎士として役に立てたんだな」
「そりゃあ、フェリツェはいつでも騎士だよね」
エリウスに言われるのはどうにもこいつの欲目含みで聞こえるけれど、エリウス以外の騎士にそう言われると信憑性があって嬉しい。
って、素直に言うと落ち込まれそうだから言わないけらど。
「……あのさ、エリウス」
「うん?」
「俺もエリウスのこと、好きだよ。恋愛の意味で」
「ほ……へ、は……え?」
なんだその反応は。
ちょっとムッとして睨み上げると、見たこともないほど間抜けな顔をしていた。
その顔がずっと昔……エリウスが孤児院を出ていく時の顔に似ている気がする。
懐かしくてつい、笑ってしまった。
「ほ、本当に? 本当に?」
「本当。でもそれと結婚は話が別って思ってる」
「ちょっ……! 上げて落とすのやめてよ!」
「だって仕方ないだろう? 俺は孤児で平民でなんの後ろ盾もなくて、お前は王家の血を引く公爵家のご子息なんだぜ? 身分差がありすぎるだろう。お前と結婚するってことは……貴族に輿入れするってこと。アウモは無事に記憶を取り戻したけれど……アウモが我が国に協力をしてくれるという話ではないしな?」
「そうだな」
うん、とアウモが頷く。
妖精竜は『生きているだけでいい』生き物らしいが、『癒しの力』の加護を与えることができるのなら、やはり特別な“神”であることに違いはない。
俺が頼めば、って思われているかもしれないが、俺はアウモを操作するための人質になるつもりはない。
アウモには、アウモのやりたいことや、やらなければならないことがあるだろうし。
「我は父の味方であり、国の味方になることはないな」
「アウモ……」
「父がエリウスと番いたいというのなら、我は反対せぬ。想いが同じであるのなら、番えばよいのでは?」
「アウモ……」
父と呼び続けてくれるのは嬉しい。
でも、父として複雑だよ……。
「そうか。うん、わかった。結婚については……俺も慎重に考えた方がいいと思うから」
「うん……まあ、でも、その……」
「うん、えっと……じゃあ、その……まzはおつき合いから、ということで……」
「うん、よろしく」
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