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7章 魔力なし騎士、対峙する
魔寄せは囮
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「フェリツェ! フェリツェ、しっかりしろ! フェリツェ!」
「マリク……、無事なら……本隊に……」
「ディック!」
「………………」
なんだ? なにが起こった? 俺はどうした……?
マリクの声が途切れ途切れに聞こえてくる。
景色も滲んでいるし、なにが、どうなったんだ?
「ぱうう」
アウモの声? アウモ、無事だったのか?
あれ、上手く声が出ない? なんで?
俺、どうしたんだっけ?
確か――アウモを探すのと、ゾンビドラゴンの周りに沸いた魔物を寄せつける囮の役割で、第二、第九部隊とともにゾンビドラゴンの左側に回り込もうとしていた。
だが、第二、第九部隊と合流した時に紫色の光がドーム状に広がりはじめたのだ。
隊長たちは警戒し、同行していた魔術師に防護壁を展開させたが、直後光線が放たれて……そして……。
「アウモ……っ」
「ぱう!」
「痛っ……!! う……あ、う……?」
腕と、脚が強烈に痛い。
上半身を無理やり起こして周囲の確認を行うと、焼け野原。
黒く焦げ上がった大地に、小さな炎がちろちろと燃え残っている。
見渡す限りがそんな調子で、数十メートル先に緑色の饐えた臭いを放つ巨大なドラゴンが穴の空いた翼を広げ、立ち上がった。
あれがゾンビドラゴン。
それがこちらを見ている。
「フェリツェ、生きてたのか……!」
「マ、マリク……アウモの声が」
「ああ、でもそれどころじゃねぇよ! っ、ゲホゲホッ」
「っ……ううっ」
マリクだけが煤のついた顔で駆け寄ってきた。
なにかを避けるような動きに、俺の近くには人がたくさん倒れているのに気がつく。
全員五体満足だが、小さな炎に焼かれて鎧やマントが焦げている。
なにが、どうなっているんだ?
「息が……」
しづらい。なんだこれは?
「ゾンビドラゴンの臭気と、はあ……燃えて、熱気で、息がしづらいんだ。俺は少し、[空気清浄]が使えるから……この辺を包んでるけど……俺程度の魔力じゃ……ごめん」
「いや、大丈夫……ありがとう」
とは言ったが、これだけの人数のいる場所を一人で清浄し続けるのは、騎士の魔力では無理だ。
現にマリクは今にも意識を失いそうになっている。
おそらく魔術師でやっとであろう、超大型魔物ゾンビドラゴンの臭気はすべてを清浄化できずに全身に纏わりつく。
ひどい匂いだ。
息を上手くできなくするくらい。
鼻から劈くような匂いで涙が出てくる。
手袋で拭いつつ振動に顔を上げると、またアウモの声が聞こえた気がした。
「……アウモ……!」
「え?」
その声の場所を探す。
アウモの声は上から聞こえてきたように思えた。
またも振動。
凄まじい轟音と光線や熱が、ゾンビドラゴンに直撃した衝撃波から来るものだった。
これは、騎士団と魔術師たちの合同魔法か?
本隊は動いているのだろうか?
魔術師たちの魔法と、多分、エリウスの魔法剣技スキル……。
ゾンビドラゴンは火炎に弱いと記録にあったが、ダメージがあるようには見えない。
真っ直ぐに、こっちに――俺たちに向かって歩いていないか?
「なあ……あいつ、真っ直ぐこっちに来てないか?」
「マリクもそう思うか?」
「ど、どうしてだよ。こっちはもう、壊滅状態になってるのに……。なぁ、ディック……お前だけでも起きろよ。俺一人じゃ無理だよ……! なあ!」
「……っ」
なんで、なんて。
そんなの……。
「マリク、俺だ」
「っ!?」
「多分、俺が引き寄せている」
まさかゾンビドラゴンにまで効果があるなんて思わなかった。
俺の体質、こんなに強力だったんだな。
匂いはきついが、時間が経ったおかげか脚の痛みがだいぶ減った。
見た感じ怪我もないし、飛ばされた衝撃で一時的に痛みが長引いていた……ってことにしよう。
折れてはいないみたいだし、俺がゾンビドラゴンを引き寄せているのなら俺がマリクたちから離れればいい。
「ぱぁう」
どこからともなくまた、アウモの声。
左の上の方から声が聴こえるような?
立ち上がって見上げると、そこには銀緑の妖精竜が浮いていた。
二本に分かれた角。
五本の指を持つ手。
銀緑の鱗と長い尾を垂らした、蝶のような形の妖精翼。
銀の鱗粉のような光を纏い、小さく「ぱぁう」と鳴く。
俺の方を振り返ると、強い眼孔で俺を見下ろし、ゆっくり方向を変えて森の奥に戻るように移動していった。
まるでついてきて、と言っているみたいだ。
「おい、嘘だろフェリツェ! さすがに無理だ!」
「アウモがいる。ついてこいって……。大丈夫な気がする」
「アウモ……? どこに……!」
マリクにはまさか見えていないのか?
もう一度空を見上げると、確かにそこに、銀緑の竜が浮かんでいるのだが。
「俺が見えているから、大丈夫」
不思議なんだけれど、アウモを見上げているとあの強烈な悪臭が気にならなくなる。
空も蒼天。
立ち上る煙は見えるが、アウモのいるところだけ綺麗な空がぽっかりと青く輝いているのだ。
これも俺だけにしか見えないのだろうか?
一歩、歩き出す。
アウモを見上げながら、導かれるように歩き続ける。
ゾンビドラゴンの足音が俺を追ってくるけれど、このまま俺についてくればいい。
マリクたちから離れれば、あいつらが助かる可能性が高くなっていく。
アウモ、どこに行くんだろう?
まるで川の上を流れているように、ふわふわと飛び続ける竜の姿のアウモ。
これ、俺、幻でも見ているのだろうか?
――ドシン!
凄まじい振動で、足が絡まりそうになる。
振り返ると、目の前にゾンビドラゴンの開いた口が見えた。
あ、これは――死ぬな。
「マリク……、無事なら……本隊に……」
「ディック!」
「………………」
なんだ? なにが起こった? 俺はどうした……?
マリクの声が途切れ途切れに聞こえてくる。
景色も滲んでいるし、なにが、どうなったんだ?
「ぱうう」
アウモの声? アウモ、無事だったのか?
あれ、上手く声が出ない? なんで?
俺、どうしたんだっけ?
確か――アウモを探すのと、ゾンビドラゴンの周りに沸いた魔物を寄せつける囮の役割で、第二、第九部隊とともにゾンビドラゴンの左側に回り込もうとしていた。
だが、第二、第九部隊と合流した時に紫色の光がドーム状に広がりはじめたのだ。
隊長たちは警戒し、同行していた魔術師に防護壁を展開させたが、直後光線が放たれて……そして……。
「アウモ……っ」
「ぱう!」
「痛っ……!! う……あ、う……?」
腕と、脚が強烈に痛い。
上半身を無理やり起こして周囲の確認を行うと、焼け野原。
黒く焦げ上がった大地に、小さな炎がちろちろと燃え残っている。
見渡す限りがそんな調子で、数十メートル先に緑色の饐えた臭いを放つ巨大なドラゴンが穴の空いた翼を広げ、立ち上がった。
あれがゾンビドラゴン。
それがこちらを見ている。
「フェリツェ、生きてたのか……!」
「マ、マリク……アウモの声が」
「ああ、でもそれどころじゃねぇよ! っ、ゲホゲホッ」
「っ……ううっ」
マリクだけが煤のついた顔で駆け寄ってきた。
なにかを避けるような動きに、俺の近くには人がたくさん倒れているのに気がつく。
全員五体満足だが、小さな炎に焼かれて鎧やマントが焦げている。
なにが、どうなっているんだ?
「息が……」
しづらい。なんだこれは?
「ゾンビドラゴンの臭気と、はあ……燃えて、熱気で、息がしづらいんだ。俺は少し、[空気清浄]が使えるから……この辺を包んでるけど……俺程度の魔力じゃ……ごめん」
「いや、大丈夫……ありがとう」
とは言ったが、これだけの人数のいる場所を一人で清浄し続けるのは、騎士の魔力では無理だ。
現にマリクは今にも意識を失いそうになっている。
おそらく魔術師でやっとであろう、超大型魔物ゾンビドラゴンの臭気はすべてを清浄化できずに全身に纏わりつく。
ひどい匂いだ。
息を上手くできなくするくらい。
鼻から劈くような匂いで涙が出てくる。
手袋で拭いつつ振動に顔を上げると、またアウモの声が聞こえた気がした。
「……アウモ……!」
「え?」
その声の場所を探す。
アウモの声は上から聞こえてきたように思えた。
またも振動。
凄まじい轟音と光線や熱が、ゾンビドラゴンに直撃した衝撃波から来るものだった。
これは、騎士団と魔術師たちの合同魔法か?
本隊は動いているのだろうか?
魔術師たちの魔法と、多分、エリウスの魔法剣技スキル……。
ゾンビドラゴンは火炎に弱いと記録にあったが、ダメージがあるようには見えない。
真っ直ぐに、こっちに――俺たちに向かって歩いていないか?
「なあ……あいつ、真っ直ぐこっちに来てないか?」
「マリクもそう思うか?」
「ど、どうしてだよ。こっちはもう、壊滅状態になってるのに……。なぁ、ディック……お前だけでも起きろよ。俺一人じゃ無理だよ……! なあ!」
「……っ」
なんで、なんて。
そんなの……。
「マリク、俺だ」
「っ!?」
「多分、俺が引き寄せている」
まさかゾンビドラゴンにまで効果があるなんて思わなかった。
俺の体質、こんなに強力だったんだな。
匂いはきついが、時間が経ったおかげか脚の痛みがだいぶ減った。
見た感じ怪我もないし、飛ばされた衝撃で一時的に痛みが長引いていた……ってことにしよう。
折れてはいないみたいだし、俺がゾンビドラゴンを引き寄せているのなら俺がマリクたちから離れればいい。
「ぱぁう」
どこからともなくまた、アウモの声。
左の上の方から声が聴こえるような?
立ち上がって見上げると、そこには銀緑の妖精竜が浮いていた。
二本に分かれた角。
五本の指を持つ手。
銀緑の鱗と長い尾を垂らした、蝶のような形の妖精翼。
銀の鱗粉のような光を纏い、小さく「ぱぁう」と鳴く。
俺の方を振り返ると、強い眼孔で俺を見下ろし、ゆっくり方向を変えて森の奥に戻るように移動していった。
まるでついてきて、と言っているみたいだ。
「おい、嘘だろフェリツェ! さすがに無理だ!」
「アウモがいる。ついてこいって……。大丈夫な気がする」
「アウモ……? どこに……!」
マリクにはまさか見えていないのか?
もう一度空を見上げると、確かにそこに、銀緑の竜が浮かんでいるのだが。
「俺が見えているから、大丈夫」
不思議なんだけれど、アウモを見上げているとあの強烈な悪臭が気にならなくなる。
空も蒼天。
立ち上る煙は見えるが、アウモのいるところだけ綺麗な空がぽっかりと青く輝いているのだ。
これも俺だけにしか見えないのだろうか?
一歩、歩き出す。
アウモを見上げながら、導かれるように歩き続ける。
ゾンビドラゴンの足音が俺を追ってくるけれど、このまま俺についてくればいい。
マリクたちから離れれば、あいつらが助かる可能性が高くなっていく。
アウモ、どこに行くんだろう?
まるで川の上を流れているように、ふわふわと飛び続ける竜の姿のアウモ。
これ、俺、幻でも見ているのだろうか?
――ドシン!
凄まじい振動で、足が絡まりそうになる。
振り返ると、目の前にゾンビドラゴンの開いた口が見えた。
あ、これは――死ぬな。
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