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6章 王族騎士、遠征で活躍する
ゾンビドラゴン対応に変更
しおりを挟むそうは言ったけれど、やはり心配だ。
マリクとディックに守ってもらうしかないが、俺はゾンビドラゴンに集中しないと。
報告によるとゾンビドラゴンは人の歩く速度で森の木々をなぎ倒しながら、非常にゆっくりと王都方面に向かって進行している。
想像よりも遅くて研究者たちが「思ってたのと違うな」という空気。
他の部隊とともに森に入ると、強烈な饐えた匂いが漂ってくる。
森の入口でこんな強烈な臭いがするということは……ゾンビドラゴン本体はもっと臭いということなのか?
い、いやだなあ!
「くせぇ……なんだこれ」
「ゾンビドラゴンが発する匂いなのか?」
「超大型魔物は大地を腐らせると聞いたことがあるが、これもそうなのかもしれないな」
「きっちい~! 目に染みてきたぞ」
部隊の誰もが匂いに文句を言う。
先行部隊の一人が道案内役として同行してくれる。
実物を見た先行部隊の人曰く、[空気清浄]の魔法を魔術師にかけ続けてもらわなくてはならない。
同行した魔術師に依頼して、[空気清浄]の魔法を前線部隊全体にかけてもらう。
「なんだ、あれは……!?」
「え!?」
ゾンビドラゴンの方から紫色の光が球状に広がる。
木々の高さを越えて大きくなっていくおどろおどろしい紫色の光は、ゆっくりと収縮して上空に宝石のような球になった。
なんだ、あれは? 嫌な予感がする。
「防護癖魔法展開!」
「盟友の生命を守り給え! [防護壁]展開!」
つい勝手に指示を出してしまう。
だが同行した魔術師も危険を感じたのか、指示に従って防護壁を展開してくれた。
直後、極太の光線が複数光玉から放たれる。
そのうちの一本の光線が防護壁の上を通過していく。
他の光線が通った方を見ると、木々が薙ぎ倒されるどころか、一瞬で消し炭になっている。
土は赤く焦げ、わずかな炎がチリチリと燃え残っていた。
言葉が出ない。
俺だけではなく、他の騎士たちも。
防護壁を展開していなければ、俺たちが焼き尽くされていた。
「な……にっ……」
「あ、危ねー……」
「お、おい! 怪我人は……被害報告!」
「第四部隊、被害ありません!」
「第五部隊! 第六部隊! 第七部隊! 報告しろ! ヴェリ、ゼラード、アイオン! 応答しろ! ヴェリ! ゼラード! アイオン! 応答しろ!! ……くっそ……! 本部に報告! 第五、第六、第七部隊応答がない! 部隊の再編成を急ぐように!」
「は、はい!」
「っ」
まさか、あれが直撃したのか?
だとしても全滅はおそらくあり得ない。
左右に展開していた第五、第七部隊に応答がないのは不安だ。
というか……あの攻撃、全方位の接近する敵に対する攻撃だとしたら――フェリツェたちは?
「っ……」
かなりの長距離も狙い撃っていた。
フェリツェたちにも攻撃がいっていたとしたら……っい、いや、大丈夫。
きっと大丈夫だ。
むしろ――。
「アルクス部隊長、俺がゾンビドラゴンを倒します! 想像以上に危険な存在だと、理解しました」
「なに? いや、しかし……」
情報を取ろうというのもわかる。
だが、俺は仲間が傷つけられる前に倒すと決めていた。
それなのに、まさか姿を見る前に先制攻撃を受けるとは思わなかった。
しかも、これほど強力な。
仲間を傷つけたのなら、俺はもう容赦しない。
フェリツェになにかある前に、ゾンビドラゴンを倒す!
ゾンビドラゴンをさっさと倒して――フェリツェを、迎えに行く!
「自然魔力回復装置、始動」
本隊に俺の意思――ゾンビドラゴンを倒してしまうことを報告してもらい、魔法陣を展開。
俺が一番得意な武器に魔法を付与する。
魔力をよく通す、オリハルコン製の剣を引き抜いて掲げた。
「四体の竜の加護を宿し、剣よ……武の神アケレウスの技を借り受け、我が敵を撃ち砕く絶対勝利の力を与え賜え!」
地水火風の属性魔力を付与。
ゾンビドラゴンは火に弱いと記録にあったので、俺が特攻したあと合同魔法[エクスプロージョン]で焼き払い、トドメを指してもらう。
事前にそういう作戦だったので、部隊長にこくりと頷いて見せると、すぐさま同行していた魔術師たちに指示が飛ぶ。
同行していた魔術師たちは五人なので、正直少し、威力に不安は残る。
だがそれならば、[エクスプロージョン]のあとに俺がもう一度自然魔力回復装置を使ってそれと同等の火魔法を付与した剣でゾンビドラゴンを叩き切ればいい!
魔術師たちが杖を掲げて交差させ、詠唱を開始する。
五人でも魔力を溜め続ければかなりの威力を期待できるから、そのまま溜めてもらおう。
「隊長! 先程の紫の光が!」
「エリウス!」
「いつでもいけます!」
「頼む!」
「はい!」
ドーム状の紫の光が膨らみ続ける。
あれをまた撃たれるわけにはいかない!
身体強化。助走をつけて、木の幹を蹴り近くの木に跳び、また蹴って上空へ跳び上がる。
剣を掲げ、ゾンビドラゴンの全貌が見えるほど高くにたどり着いた瞬間ゾッとした。
穴の空いた、腐敗した体。
立ち上る邪悪な穢れた魔力。
緑色の濁った目が、俺を見上げる。
紫色の光玉が完成する直前で、俺は魔力を込めて振りかぶった剣を全力で振り下ろした。
「四聖翔破砕剣!」
これで、ぶっ倒れろ! ゾンビドラゴン――!
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