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6章 王族騎士、遠征で活躍する

父として、騎士としての矜持

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 フェリツェが俺の腕から飛び出そうとするので一旦止める。
 落ち着いて、と声をかける前に自分で深呼吸をするあたり、騎士として冷静さを保つ術を身につけているらしい。
 さすが、俺よりも騎士歴が長いだけはある。
 こういう時は実力云々よりも騎士としての経験の差を感じるな。

「本隊と一度合流して、団長や部隊長に報告しよう。指示を仰いで必要であればゾンビドラゴンの討伐の任を最優先にして、アウモの捜索は俺だけでもやらせてもらえるように頼む」
「わかった」
「まあ、それしかないよな。でも、あれはお前のせいじゃないぜ。空を飛ばれたらどうしようもない」
「……ありがとう、マリク」

 マリクがフェリツェの背中をトントンと叩く。
 じっとりとした澱んだ気配が、アパティールの森から漂ってくる。
 ゆっくりと濃藍色が夕暮れの色に混じっていく。
 そんな状況で、小さな子どものアウモを捜し出すのは難しい。
 すぐに本隊の駐屯地に合流し、到着とほぼ同時にアウモが飛び去ったことを団長と副団長に報告した。
 本陣のテント内に連れていかれ、俺たちの報告を聞き終えたあと団長たちは顔を見合わせてから深刻な表情で、しかし即座に「ゾンビドラゴンのところに向かったということだな?」と最終確認のように聞いてくる。
 フェリツェはこくりと頷く。
 そしてすぐに「お許しがあれば、保護者として俺が自分でアウモを連れ戻しに行きます」と進言。
 それには俺も同行したいと発言。
 フェリツェには驚かれたが当然だろう?
 俺だってそれなりにアウモと一緒に生活している。
 俺も父親……とまではいかないかもしれないけれど、孤児院にいた頃の“きょうだい”みたいな存在のように思っているんだから。

「どちらにしてもゾンビドラゴンは他の戦力の到着を待つ予定だった。が――エリウス、お前が“もしも”の時は倒せる、と言っていたな?」
「はい。父にも無理をすれば俺一人で討伐可能だろうとお墨付きをいただいています」
「え?」
「わかった。では各部隊、配置についたらゾンビドラゴンへの攻撃を開始する。エリウス、お前は最前線だ。フェリツェ、お前はマリク、ディックとともにアウモ捜索を最優先にしろ。ゾンビドラゴンの周りには魔物も多い。絶対に無理をするな。それでなくともお前は魔物を寄せつけやすいのだから。ただ、三時間だけだ。三時間後、配置が完了してからゾンビドラゴンより三時の方角に待機して、魔物を寄せつけ、第四から第七部隊と雑魚処理を行ってもらう。同行した魔術師団もフェリツェとともに雑魚処理に協力してもらう。その他の魔術師団は明日以降に到着予定であったから、我々はある程度足止めするだけでいい。明日、陽が昇ってから総攻撃を行う」
「「「了解!」」」

 団長の指示に隊長たちが敬礼してテントから出ていく。
 ゾンビドラゴンは調査に留め、討伐は情報を吸い出せるだけ吸い出してから――と予定していたが動き出したのであれば即討伐に移行しても仕方ない。
 俺も当初、アウモの食糧調達以外にゾンビドラゴンの討伐が入ればそちらを優先する予定だったし。
 けれど、このタイミングでフェリツェと離れるのは……不安だな。
 本陣テントから出ると、フェリツェは深刻そうな表情のまま、真っ直ぐテントに戻ろうとしていた。
 さすが――騎士。

「フェリツェ」
「大丈夫。いつもの遠征と同じだろう」
「……うん……でも……」

 そこにいたのは凛々しい騎士だ。
 だが、内心気が気ではないだろう。
 こんな時こそ側にいたいのに、最悪、俺はゾンビドラゴンにつきっきりになってしまう。
 マリクとディックは優秀な騎士だけれど、魔力のないフェリツェはなぜか魔寄せの体質。
 だからこそ“囮役”として最適。
 団長がゾンビドラゴンの周囲に湧き出した魔物の処理を、第四部隊から第七部隊に任せると指示をしていた。
 フェリツェはその魔物を誘き寄せる役割。
 フェリツェは囮役の役割をちゃんと理解して、準備をすべくテントに向かうのだ。

「お前も準備しろよ。……あと、忘れるなよ、帰ったら――答え、言うから」
「え? あ……」

 フェリツェに、俺の気持ちに対する答えを考えてもらっている。
 その答え……その、答えを――!

「あっ、お、う、うん」
「だから……ちゃんと答えるために絶対、俺も死なないから。お前も、無理せず、死なずに王都に戻るんだぞ。……その、なんか無理すればとか言ってたけど」
「え? あ、あー……あれね」

 ギロリと睨み上げられて、心臓がギュッとなる。
 いかん、これはなにか勘違いされているっぽい。
 周りに人がいないのかをなぜか気にして見回してしまう。
 ぽつりぽつりと松明に陽が灯され始め、一部は夕飯の準備、一部は馬を用意し装備を整え森の方へ駆けていく。
 慌ただしく、夕飯準備班は悠々とした正反対の空気。
 俺もこのまま最前線に向かうが、フェリツェはマリクとディックに合流してゾンビドラゴンから離れた場所から雑魚寄せ討伐。
 そういう意味では安心なんだが、先程の騎士団長との会話で「無理すれば」と言ってしまったから心配されてしまったんだろう。

「えっと、大丈夫。父上に『魔力回復装置』をもらっているんだ。それを使えば大掛かりな魔法を連発できる。ゾンビドラゴンも俺一人で倒せるだろうって」
「は? お前一人で!?」
「俺の『先祖返りスキル』を強化する魔導具だからね。……ただ、使ったあとに反動が少し、あるんだ。周辺の魔力にも少し影響が出るし。でも、数日で元に戻るよ」

 腕に巻かれた腕輪を見せるとフェリツェにはそれはそれは変な顔をされた。
 俺の言っていることはわかるけれど、ちょっと想像が難しいんだろうな。
 フェリツェは魔力がどんなものなのか、わからないだろうから。

「そう……か。まあ、でも……気をつけろよ」
「うん。フェリツェも」
「ん」

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