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5章 魔力なし騎士、考える

遠征前日説明会

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「ひとまずアウモをどこかベッドに寝かせる?」
「うーーーん、遠征準備も手伝いたいし、とりあえず背負って作業してくるか」
「わかったよ。じゃあ、俺は団長に進捗を聞いてくるね」
「ああ、うん。わかった。よろしく」
 
 寝てしまったアウモを手早く畳んだマントを抱っこ紐にして背負う。
 俺がマントを抱っこ紐にしたのはマリクには相当驚くべきことだったらしく、変な顔をされた。
 孤児院じゃあ、こんなの日常なんだけど。
 いや、孤児院から出て久しいが体が覚えているのは自分でも驚いたけれど。
 
「俺ってなにか手伝えることある?」
「積み込みはほとんど終わってるんだよ。残りは入荷待ちの食糧と水、酒、非常食。遠征出発後に王都守護担当分が追加で入荷する予定だけど、その辺りの在庫管理は帰国後にやるってことで……」
「じゃあやることほとんどないのか」
「自分の荷物の整理くらいじゃないか? 俺も自分の個人的な荷物はほとんど入れ終わってるし」
 
 マジか。
 そんなに遠征の準備捗っちゃってるんだ?
 マリクには肩を叩かれて「お前の日々の管理の賜物だよ」と褒められる。
 いやあ、俺なんて魔力もないし、そのくらいしかできないから、なんだけど。
 
「午後一に騎士団長直々に今回の遠征の討伐目標が告知されるらしいから、それまではとりあえず……この訓練所の片づけ、一緒にやらねぇ?」
「あ……」
 
 
 ◇◆◇◆◇
 
 
 その日の午後、正門の裏手の広場に集められる。
 隊列を組み、全員が騎士団長の登場を待つ。
 俺は未だに眠るアウモを背負ったまま俺もいつもの場所に待機しようとしたら、第五部隊の体調に慌てて「お前は俺たちの横にいなさい。アウモ様が目を覚まして空腹を訴えたらすぐに魔術師に頼むから」と腕を引っ張ってきたので指示に従った。
 間もなく檀上してきた騎士団長。
 
「聞け! カニュアス王国の騎士たちよ! 明日、我らは再びあの地に赴かねばならない!」
 
 という出だしから始まり、前回遠征した地にゾンビドラゴンが出たこと。
 そのゾンビドラゴンは超大型。
 やはり危険度は一級。
 森に滞在し、地面と冥界の狭間の――人が転生する時に捨て去る記憶と穢れの泥を吸い上げ続けているらしい。
 
「我らの目的はゾンビドラゴンの討伐だが、今回のゾンビドラゴンは通例とは行動が違う。長時間同じ場所に滞在することはいままでなかった。なにか原因があるのかもしれん」
 
 魔法で拡張された声は隊列の隅まで聞こえて、後ろの方からも困惑の声が漏れ聞こえてくる。
 俺も見習い騎士の時代に超大型の魔物の勉強はした。
 だがどの超大型は基本的に徘徊してより多くの“泥”を吸い上げてより巨大化し、強力に成長する。
 超大型は数百年単位で一体か二体産まれるが、目的は不明。
 通常の魔物のように知性はなく、暴れることと自身が強くなることを目的にしているようだ、と記録が残っている。
 一説には魔物の生産が追いつかず溜まりすぎた“泥”を一気に処理すべく生まれてくるのではないか、と言われているそうだ。
 だが一ヵ所にずっと動かずにいる、っていうのはその“泥”の処理は当てはまらないような……?
 
「今回の遠征は他に、フェリツェが拾ってきた卵から孵った妖精竜の幼体、アウモの食糧調達も目的の一つ。こちらに関してはフェリツェに一任する」
「ッ……!?」
 
 い、一任!?
 驚きすぎて声出しそうになったが、それでも平の平である俺が名指しで一任って……それってまるで……!

「四、五人の騎士を指名して小部隊を結成して、アウモ様の食糧集めに努めなさい」
「い、いいのですか?」
「うむ。アウモ様が満足できる食事はあまりにも……その……周囲に影響が大きすぎるからな」
「う……まあ、確かに」

 隣にいた第五部隊の隊長に言われて納得してしまう。
 実際訓練所はしばらく改修で立ち入り禁止になったしなぁ。

「ぱあああああ……」
「あ、アウモ。起きた――」

 背中ですやすや眠っていたアウモがもぞもぞ動き、振り返ると目を覚ましたところ。
 声をかけた途端、アウモのお腹が大きくグウゥ、と鳴った。
 ずいぶん寝たな、と思っていたが、起きて即お腹が鳴るとかそんなことある?
 いや、まあ、あるんだけど。現在進行形で。

「ぱううー」
「お、お腹空いたのか? ……えーと……」
「魔術師団に声をかけてこよう。見張り塔の近くの草原でまた合同魔法を使ってもらえば満腹にはなるのだったな?」
「は、はい。ありがとうございます。見張り塔の近くで待っていればいいんですよね?」
「ああ。それと、遠征先に到着するまでに小部隊メンバー……アウモ様の食糧を集めるのに必要なメンバーを集めなさい。各部隊から一人ずつならば影響は最小限にできる。エリウスは主力として十分な実力ではあるが、ゾンビドラゴンとの戦いの時以外なら好きにしなさい」
「え……あ……」

 まさか部隊長にまでそんなふうに言われるとは。
 エリウスってそんなに俺のこと好きって周知されてるの?
 あんまり意識してなかった俺が鈍い?
 鈍いっていうか、鈍すぎた?

「わかりました。失礼します」

 頭を下げて、アウモを背中から前に抱え直して見張り塔に向かう。
 エリウス、俺が気づいていなかっただけで結構わかりやすくアピールしてくれていたのか。
 今思えばってことも、多いかも?
 見習い期間は懐かしい弟との再会に浮かれて、貴族という別世界に行ってしまった弟の成長と実力に呆気に取られて。
 正騎士になってからは貴族の立場と俺にない豊富な魔力、騎士としての優秀さに嫉妬したり昔のように接することができないな、なんて思っていたり。
 でも、同時に――


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