上 下
27 / 45
5章 魔力なし騎士、考える

遠征まで残り二日

しおりを挟む

「はあ……」

 翌朝、体を起こすと隣にアウモはすやすやと眠っていた。
 エリウスは――ソファーで寝ている。
 魔力の回復のためにもしっかり睡眠をとってほしかったから、ベッドに寝て、って言ったのに『アウモが不安定になる方が怖いでしょ』と言われてしまった。
 それは……確かに。
 アウモが暴れる理由――空腹も眠っている間は治るらしく、それがなんだか孤児院にいた頃の自分のようでちょっとだけ切ない。
 そうだよなぁ、お腹空いてても、寝ていれば気にならなくなるもんなぁ。
 こうしてすやすやと穏やかに眠っている方が、アウモのためのような気がするけれど、ずっと眠っているわけもないだろう。
 というか、目を覚まさなければそれはそれで心配で、不安で、俺はまたエリウスに弱音を吐いてしまうだろうな。
 本当に、育て甲斐のある子だなぁ。
 突然人の姿になるし、大食いになるし、かと思えば子どもらしく俺には甘えてくれる。
 日に日に可愛くなって、振り回されることさえ困ったなぁ、と思うくらい。
 でも、昨夜エリウスに俺とアウモが置かれた状況を王侯貴族の視点から聞かされたら呑気にもしていられないと知った。
 俺は確かに平民で、しかも孤児。
 誤字の中でも特別役に立たない魔力なし。
 そりゃあ簡単に切り捨ててもいいだろうさ。
 こんな俺が、と悩むのはもう終わらせた。
 アウモの父は俺!
 って、ことで吹っ切ったつもりだったけれど、やはりなんの後ろ盾も功績もない平民騎士には『アウモの親』っていう価値しかないんだな。
 アウモが国にとって益になるか、災いになるか。
 普通に考えれば確保しておきたいはずだが、これほど大食いで、空腹による癇癪でものを破壊するようなら……国としては“災い”だよな。
 アウモを守るためにエリウスの提案は、とても重要なものだとわかる。
 けれど、エリウスはアウモのこと以外で――俺に好意を抱いている――と。

「………………っ」
「パォゥ……?」
「っ! ア、アウモ……! 起きたのか?」
「ぱぁあーうぉ」

 安心したような、朝の大食いが始まるのか、という恐怖心が一緒にきた。
 起き抜けで手を伸ばしてくるアウモを抱き寄せると、嬉しそうにすりすり頬擦りしてくる。
 うぉー、可愛い~!
 うちの子可愛い~。

「ふふふ、ほっぺぷにっぷに。柔らか~」
「ぷぁーう」
「お顔を洗って、朝ご飯にしようか。お腹、やっぱり空いてる?」

 と覗き込むとまるで答えるかのようにアウモの腹がグウウウウウ、と鳴り始めた。
 いや、腹も目覚めた? って感じか?
 うーん、全然治ってないなこれ。
 管理人室にある食糧もほとんど昨日の朝に食べさせてしまったから、騎士団の食堂で朝飯食うしかないな。
 そう予定立てながらアウモを洗面所に連れて行き、顔を洗う。
 竜型の時は濡れタオルで顔全体を拭いてあげていたけれど、人型になったので俺を真似して顔を洗おうとし始めた。
 その間もお腹は鳴り続けている。
 これはすぐにエリウスの出番になりそうだなぁ。
 根本的な解決にならないのがなんとも申し訳がない。

「ぱぁーぉうん」
「うんうん……顔を洗ったらエリウスを一緒に起こそう」
「ぱぉう!」

 頭を撫でると嬉しそうに返事を返してくれる。
 この調子なら言葉も早く覚えそうだけど、相変わらず「ぱうぱう」言ってるのが不思議だ。
 顔をしっかり拭いて、俺のシャツもお着替え。
 余裕があればアウモ用の子ども服を買ってあげたいけれど、今のアウモを留守番させて町に出かけるわけにはいかないからなぁ。
 遠征準備が終わるまで、あと二日。
 あ、俺も遠征用の着替えとか準備しておかなきゃ。

「ぱーうぱーーーぁう!」

 櫛で髪も整えて、オッケーを出すとアウモは飛び上がってからソファーに走り出した。
 身支度が完了する前にエリウスが起きるかな、と思っていたがそんなこともない。
 よほど魔力を吸われたのだろうな、と申し訳ない気持ちになった。
 アウモがエリウスに跨りゆさゆさと体を前後させる。
 容赦なさすぎない?

「う、うう……い、いたい」
「ぱおうーー! ぱうぱぁう!」
「いたたたた。……っあ? アウモ……? あれ? もう、朝?」
「エリウス、大丈夫か?」

 一応簡易キッチンの食糧を確認するが、やはりなにもない。
 溜息を吐いて戸棚を閉める。
 声をかけるとエリウスはあくびをしながら上半身を起こした。

「やっぱりソファーじゃ疲れが取れなかったんじゃないか? 今からでもベッドで寝た方がいいんじゃ……」
「大丈夫大丈夫。魔力はほとんど回復しているよ。アウモ、朝ご飯、俺の風魔法でいいかな?」
「ぱぉうぱおぅ!」
「じゃあおいで」

 上に跨っていたアウモは、エリウスが上半身を起こしたと同時に隣に座り直していた。
 だが朝ご飯、と聞いて両手を掲げてエリウスの膝の上へと移動する。
 可愛い。

「はい」
「ぱぁーう」
「俺らの飯、食堂でいい?」
「あ、そうか。昨日の朝、ほとんど全部アウモにあげちゃったもんね。うん、いいよ」
「うん、ありがとう」

 いつも通りに会話できることに安堵する。
 けれど、ちゃんと考えるっていったんだから、考えなきゃ。
 エリウスと結婚する。
 エリウスの迷惑になるんじゃないか?
 でも、エリウスは俺を……好き、と言った。
 感情の問題、なのだと。
 俺も、考える、なんて返事をしておきながら心が簡単に『嬉しい』と答えを出している。
 それなのになんで返事を保留にしたのか。
 それはまあ、もちろん……アウモのことがあるから。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

音楽の神と呼ばれた俺。なんか殺されて気づいたら転生してたんだけど⁉(完)

柿の妖精
BL
俺、牧原甲はもうすぐ二年生になる予定の大学一年生。牧原家は代々超音楽家系で、小さいころからずっと音楽をさせられ、今まで音楽の道を進んできた。そのおかげで楽器でも歌でも音楽に関することは何でもできるようになり、まわりからは、音楽の神と呼ばれていた。そんなある日、大学の友達からバンドのスケットを頼まれてライブハウスへとつながる階段を下りていたら後ろから背中を思いっきり押されて死んでしまった。そして気づいたら代々超芸術家系のメローディア公爵家のリトモに転生していた!?まぁ音楽が出来るなら別にいっか! そんな音楽の神リトモと呪いにかけられた第二王子クオレの恋のお話。 完全処女作です。温かく見守っていただけると嬉しいです。<(_ _)>

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

やめて抱っこしないで!過保護なメンズに囲まれる!?〜異世界転生した俺は死にそうな最弱プリンスだけど最強冒険者〜

ゆきぶた
BL
異世界転生したからハーレムだ!と、思ったら男のハーレムが出来上がるBLです。主人公総受ですがエロなしのギャグ寄りです。 短編用に登場人物紹介を追加します。 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎ あらすじ 前世を思い出した第5王子のイルレイン(通称イル)はある日、謎の呪いで倒れてしまう。 20歳までに死ぬと言われたイルは禁呪に手を出し、呪いを解く素材を集めるため、セイと名乗り冒険者になる。 そして気がつけば、最強の冒険者の一人になっていた。 普段は病弱ながらも執事(スライム)に甘やかされ、冒険者として仲間達に甘やかされ、たまに兄達にも甘やかされる。 そして思ったハーレムとは違うハーレムを作りつつも、最強冒険者なのにいつも抱っこされてしまうイルは、自分の呪いを解くことが出来るのか?? ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎ お相手は人外(人型スライム)、冒険者(鍛冶屋)、錬金術師、兄王子達など。なにより皆、過保護です。 前半はギャグ多め、後半は恋愛思考が始まりラストはシリアスになります。 文章能力が低いので読みにくかったらすみません。 ※一瞬でもhotランキング10位まで行けたのは皆様のおかげでございます。お気に入り1000嬉しいです。ありがとうございました! 本編は完結しましたが、暫く不定期ですがオマケを更新します!

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている

香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。 異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。 途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。 「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!

無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~

紫鶴
BL
早く退職させられたい!! 俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない! はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!! なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。 「ベルちゃん、大好き」 「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」 でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。 ーーー ムーンライトノベルズでも連載中。

処理中です...