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4章 王族騎士、一緒に成長を誓う

アウモの変化(4)

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 そこからは怒涛の展開――とでも言えばいいのか。
 マロネスさんが持ってきた城の研究室の風の魔石をぺろりと平らげ、そこから魔術師団が風魔法を提供。
 まさか魔法をも喰らうとは思わなかった。
 風魔法も食べる、とわかったのは魔術師団の訓練所に飛び込み、風魔法を手当たり次第に食っていったからだ。
 マロネスさんはヒャッホー! と叫んで他の研究者とともに調べに行ったが、問題はそのあと。
 風魔術師たちが魔力切れになるまで食い続けたのだ。
 その間に王都中にあった風の魔石をかき集めてきたものの、それも夕飯としてぺろり。
 明日の朝の朝食分がどう考えても足りない。
 午前中の時点で冒険者協会にも風の魔石を注文したが、さすがに一般的に販売されている分まで奪うわけにはいかないから、明日の朝は俺が風魔法を食べさせることにした。
 というか、風魔法までもを食べさせても、アウモの空腹は止まるところを知らない。
 さらに、騎士団の訓練所に戻ると今度は別の問題が発覚する。
 なんと、いつも通りに同僚たちと遊んでもらおうとしたアウモ、訓練用の鉄剣を真っ二つに割った。
 その瞬間、俺たちの時間は間違いなく、止まったと思う。
 そのまま鉄剣を素手でくしゃくしゃに握り、ぽい、と口に入れたのには腰が抜けるかと思った。
 なんならフェリツェは本当に腰を抜かしたし。

「これは……魔力を使えるようになっている」
「え!?」

 相変わらず魔力を感じないのだが、ある程度の魔力を食事という形で得たことで、身体強化魔法を使えるようになった様子だ。
 しかもし、その身体強化の解除ができていない。
 というか、鉄剣だったものを咀嚼しながら首を傾げ、今度は訓練所の床のタイルに手を突き立てて持ち上げ、それを口に入れようとした。
 慌てて引き留めるが、不思議そうな顔を向けられる。

「お腹すいてるんだよね? でも、地面はダメだよ。食べ物じゃない」
「ぱぅーう」

 俺が首を振って教えるが、頰を膨らませるアウモ。
 まあな、それを言ったら風の魔石もさっき食べさせた風魔法も大まかに言えば食べ物じゃないけれど。
 っていうか――この細腕、俺が身体強化魔法を使ってもビクともしない……だと……!?

「ぱぉううう、ぱうーう」
「え……!?」

 立ち上がったアウモの、重心が重い、とでも言えばいいのか?
 咄嗟に掴んでいた腕を離さなければ、巻き込まれていたかもしれない。
 アウモが立ち上がると、訓練所の床が陥没した。

「ひえええ……!?」
「なんだこれ!?」
「身体強化の重ねがけ……!? いや、それでも地面に沈むってなに!?」
「身体強化の重ねがけしたまま勢いよく踏み込んで立ち上がったからじゃない?」

 そのことを知った時のフェリツェの顔面蒼白具合は可哀想だった。
 人間の身体強化の重ねがけでも、ここまでのものはそうそうお目にかかれない。
 というか、身体強化魔法を使っているというか、これはもう竜として体が作り変わりつつあるからでは?
 セラフなんて「わあ、すごいねぇ」とのほほんとしてやがるぞ。

「ぱううぅーん……」

 が、鳴き声は切なげ。
 そしてお腹からまたグウウウウウ……という音。
 なんでお腹が空いているのにこんなに身体強化の重ねがけをしているんだ……?

「なんの騒ぎだ――なぁ……!?」
「だ、団長!」

 さすがに訓練所の床が大破したら、騒ぎも大きくなる。
 その騒ぎを聞きつけたテュレア・オークス騎士団長が走ってきた。
 訓練所の有様に愕然としていたが、大きく砕けた石タイルの中心にお腹を鳴らしているアウモを見てすぐになにかを察した顔。

「これは……まさか空腹による癇癪かんしゃく……なのか? こ、これほどの力を持つとは……」
「いえ、おそらくまだ、こんなものではないはずですよ」
「マ、マロネス研究員」

 片眼鏡をクイ、と持ち上げながらオークス騎士団長の隣に立ったのはマロネスさん。
 マロネスさん曰く、アウモはまだまだ空腹・・
 この空腹が満たされない限り癇癪は悪化していくだろうし、風の魔石や風の魔法を喰らえば喰らうほどにアウモは妖精竜として成長していくだろう――という予想。
 成長がどれほど続くかは未知数であり、空腹の癇癪は成長し続けるごとに激しくなる。
 今日だけの成長だけでこれほどとなれば、明日また同じように風の魔石なり風の魔法なりを摂取し続ければ倍以上の力を有することになるはず。

「そ……それって……アウモは今より強くなるということですか?」
「ある意味では、当然のことではあるだろうね。なにしろ相手は神。風を司る妖精竜だ」
「そんな……」

 腰を抜かしたままだったフェリツェが、顔を真っ青にさせて俯いてしまう。
 魔力のないフェリツェにとって、これほど膨大な魔力を得て制御もできないアウモを育て続けるなんて……とても……。

「っ……」

 フェリツェが親として覚悟を持ったばかりなのに、フェリツェが育てていける状態ではなくなった。
 どうしよう、俺は……フェリツェのためになにがしてあげられるだろうか?
 孤児院にいた時のように、アウモを養子に出すべきなのでは?
 それがフェリツェにとって一番いい決断なんじゃ?

「ぷぅ……ぱぅ……うー! ぱぁうー」
「あ! アウモ!」

 落ち込んでいた俺の足下から立ち上がり、今度は妖精翼を出して飛び上がる。
 そのままフェリツェに突進して行った。
 まずい!

「フェリツェ!」

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