上 下
21 / 33
4章 王族騎士、一緒に成長を誓う

アウモの変化(1)

しおりを挟む
 父には反対されない。
 むしろ推奨、という感じだ。
 降って湧いたような俺の存在は、父にとっても最悪切り捨てても仕方ないってことなのかもしれない。
 いや、体調のよくないセアリア夫人を最優先にするのは当たり前か。
 
「よし! 明日、フェリツェに話そう。うーん……なんて言えばわかってもらえるだろう……」
 
 あの人、俺に迷惑をかけたくない、とか言い出しそう。
 なんとか丸め込めるように……じゃなくて、説得できるように……。
 うーん、うーん……。
 
 ――と、悩んでいたが頭が働かなくなるので、しっかり睡眠はとって、翌日。
 騎士団長と副団長にも話は通したし、あとはフェリツェの了解を得るのみ。
 まだどのように切り出すか、上手い話し方が思い浮かばないが……とにかくあまり時間はない。
 父にも「早ければ早いほどいいが、来月には間違いなく王族への婚姻の話が彼の耳に入る。今は私が止めているけれど、研究者たちの中にも狙っている者が多い。彼らはマロネスから止めてもらっているが、抜け駆けする者もいるかもしれない」とか言われていたし!
 見張り塔の玄関は施錠されておらず、普通に中に入って管理人室の扉をノックする。
 さすがに管理人室は鍵がかかっているので、フェリツェが起きていなければ開いていない。
 だが、すぐに「おはよー」と返事が聞こえてきた。
 その声だけで安堵する。
 ガチャ、と鍵の開く音と共に、扉が開く。

「おはよう、エリウス! よかった!」
「え?」

 少し焦ったような、笑顔の歪んだフェリツェ。
 すぐに俺の腕を掴まれて「見て!」と部屋に引き摺り込まれる。
 どうしたんだ? またなにかアウモに変化が?
 困惑しながら一歩、部屋に入ると――

「あうーぽーぉうあ!」
「……え!? え!?」
「アウモが! アウモが朝起きたら……!」
「ぱーーわぅぉあ!」

 両手。五本の指の、ツルツルの肌の……。
 薄い緑色の毛先の銀髪、新緑のキラキラした瞳、大きめのシャツをワンピースのように纏った五歳児くらいの人間の子ども? が椅子から立ち上がり、走ってフェリツェの腰に抱きつく。

「あうぱぁーぁぁ」
「なっ……なっ……なっ……ど、っえ……!?」
「朝起きたら、人間の子どもの姿になっていたんだよ……」
「え、ええええええー!?」
 
 満面の笑顔で俺を見上げるこの髪の長い少年が、アウモ!?
 なんでこんなことに!? というか、こんなことに、なるの!?

「し、進化したってこと? 成長したって? ええ? こんなことになるの?」
「俺にもわからないんだよ。とりあえず風の魔石を与えたらガブガブ食べたから、アウモであることに間違いはなさそうなんだけど……」
「フェリツェや、騎士団で育てていたから人の姿を真似た……のかも? 言葉は通じるの?」
「ああ、うん……一応? さすがに真っ裸で出歩かせるわけにもいかないから、俺のシャツを着せたんだけど……これってど、どうしたらいいんだ? 服買ってきた方がいい? 買い物行ったばっかりなのに? いや、そもそもこれ、竜の姿に戻るのか? 相変わらずぱうぱう言っててなに言ってるのかは全然わからないんだけど、もしかしてこれ、人語も話せるようになる? 俺のせいで人型になっちゃった?」
「ちょ、ちょっと落ち着いて」
 
 最初はいつものフェリツェかと思ったら、ちゃんと混乱してた。
 肩を掴んでひとまず椅子に座らせ、「フェリツェ自身は食事はしたの?」と聞くといかにめ「忘れてた!」という表情。
 アウモを優先させて、自分の朝ご飯を忘れていたのか。
 非常にフェリツェらしい。
 簡単なものを作るから、アウモの面倒を見てて、と言って簡易キッチンに魔石で火を入れる。
 フライパンに卵を割って、パンにバターを塗り目玉焼きを載せたものを野菜とともに木皿に盛って出す。
 スープは昨日の残りがあったので、それも温め直して出した。
 お土産のグレーイプの実を洗ってカットし、デザートという形で出す。
 
「グレーイプの実じゃないか……! お高いやつ!」
「昨日父が帰ってきてお土産でくれたんだ。たくさんあるから気にしないで食べて」
「えー! でも、これ……風邪引いた時たまーに食べられたやつ……えー、なんか嬉しい。ありがとう、エリウス」
「っ」

 孤児院は貧乏だった。
 父が俺を引き取ったあとは、公爵家から援助が出るようになったけれどその前は食べるものもみんなで分け合い、果物を食べられるのは病気になった時だけ。
 特に栄養の高い黄色いナババの実や、柑橘系最大級のグレーイブの実は病で気持ちの弱った時に食べられる、最高のご馳走。
 最悪、そのままそれが最期の晩餐になり得る子どもにとっては――。
 それを思い出して笑顔を向けるフェリツェ。
 いやーーー……世界一可愛い。
 やばい、俺、今日は一段とフェリツェが、好き、って思う。
 
「ぱぅーぁ!」
「アウモはさっき風の魔石を食べただろう? 俺のご飯も食べてみたいのか?」
「あぱぅ!」
「ふーん? じゃあパン、食べてみる? ほら、アーン」
「アーーーーー」

 あれ? フェリツェのために作ったのに、アウモの口に入るの?
 座ろうと思ったが、それならと「じゃああと二つ目玉焼き焼くね」と伝えて作業に戻る。
 だが、アウモが本当に人間の食事を本当に食べられるのかどうか、俺もつい、窺い見てしまう。

「あむー!」
「「食べた!」」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません

柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。 父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。 あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない? 前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。 そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。 「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」 今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。 「おはようミーシャ、今日も元気だね」 あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない? 義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け 9/2以降不定期更新

家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている

香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。 異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。 途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。 「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!

異世界に召喚されて失明したけど幸せです。

るて
BL
僕はシノ。 なんでか異世界に召喚されたみたいです! でも、声は聴こえるのに目の前が真っ暗なんだろう あ、失明したらしいっす うん。まー、別にいーや。 なんかチヤホヤしてもらえて嬉しい! あと、めっちゃ耳が良くなってたよ( ˘꒳˘) 目が見えなくても僕は戦えます(`✧ω✧´)

ゆい
BL
涙が落ちる。 涙は彼に届くことはない。 彼を想うことは、これでやめよう。 何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。 僕は、その場から音を立てずに立ち去った。 僕はアシェル=オルスト。 侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。 彼には、他に愛する人がいた。 世界観は、【夜空と暁と】と同じです。 アルサス達がでます。 【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。 随時更新です。

なぜか第三王子と結婚することになりました

鳳来 悠
BL
第三王子が婚約破棄したらしい。そしておれに急に婚約話がやってきた。……そこまではいい。しかし何でその相手が王子なの!?会ったことなんて数えるほどしか───って、え、おれもよく知ってるやつ?身分偽ってたぁ!? こうして結婚せざるを得ない状況になりました…………。 金髪碧眼王子様×黒髪無自覚美人です ハッピーエンドにするつもり 長編とありますが、あまり長くはならないようにする予定です

主人公は俺狙い?!

suzu
BL
生まれた時から前世の記憶が朧げにある公爵令息、アイオライト=オブシディアン。 容姿は美麗、頭脳も完璧、気遣いもできる、ただ人への態度が冷たい冷血なイメージだったため彼は「細雪な貴公子」そう呼ばれた。氷のように硬いイメージはないが水のように優しいイメージもない。 だが、アイオライトはそんなイメージとは反対に単純で鈍かったり焦ってきつい言葉を言ってしまう。 朧げであるがために時間が経つと記憶はほとんど無くなっていた。 15歳になると学園に通うのがこの世界の義務。 学園で「インカローズ」を見た時、主人公(?!)と直感で感じた。 彼は、白銀の髪に淡いピンク色の瞳を持つ愛らしい容姿をしており、BLゲームとかの主人公みたいだと、そう考える他なかった。 そして自分も攻略対象や悪役なのではないかと考えた。地位も高いし、色々凄いところがあるし、見た目も黒髪と青紫の瞳を持っていて整っているし、 面倒事、それもBL(多分)とか無理!! そう考え近づかないようにしていた。 そんなアイオライトだったがインカローズや絶対攻略対象だろっ、という人と嫌でも鉢合わせしてしまう。 ハプニングだらけの学園生活! BL作品中の可愛い主人公×ハチャメチャ悪役令息 ※文章うるさいです ※背後注意

侯爵令息は婚約者の王太子を弟に奪われました。

克全
BL
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

気づいたら周りの皆が僕を溺愛していた。

しののめ
BL
クーレル侯爵家に末っ子として生まれたノエルがなんだかんだあって、兄達や学園の友達etc…に溺愛される??? 家庭環境複雑でハチャメチャな毎日に奮闘するノエル・クーレルの物語です。 若干のR表現の際には※をつけさせて頂きます。 現在文章の大工事中です。複数表現を改める、大きくシーンの描写を改める箇所があると思います。当時は時間が取れず以降の投稿が出来ませんでしたが、改稿が終わり次第、完結までの展開を書き始める可能性があります。長い目で見ていただけると幸いです。 2024/11/12 (第1章の改稿が完了しました。2024/11/17)

処理中です...