14 / 45
3章 魔力なし騎士、寄りかかる
お買い物(2)
しおりを挟む「えっと……まずは小物から買った方がいいよな」
「いや、店が準備もしなきゃいけないだろうし、荷馬車に載せるのは大量の魔石になるだろうからベッドからの方がいいよ」
「え、でも……」
大きなものを収納魔法で運ぶのは、魔力を大量に消費する。
だから躊躇したのに、アリウスはあっさりと「え? 大丈夫だよ?」と余裕の笑顔すら浮かべて言い放った。
あ……ああ……そう……そうね、お前の『先祖返りスキル』はハイエルフの『高純度魔力』と『全属性魔力』が使えるんだもんね。
じゃあ、と家具屋にベッドを見に行く。
「うひゃあ……」
「これはこれは、リンファドーレのエリウス様。本日はなにをお探しですか?」
「ベッドを。大きさは――うーん、セミダブルで。普段使いようだが、騎士団所有の建物内で使用するものなので、頑丈で長持ち、そして万が一の時は王族も寝られるようなものがいいのだが……」
「かしこまりました。……でしたら――こちらのベッドはいかがでしょうか?」
店に入るなり店主らしい初老の紳士がわざわざ対応に出てきた。
なんならエリウスの顔と名前までしっかり知っていたのも驚く。
こ、これが貴族街の店舗の対応……!
自分の寝るベッドのことなのだが、どこ産の木をどんな魔物の牙や爪で骨組みをどうこうしたとか、マットレスにはどんな鳥型の魔物の羽毛を使っているとか、なんか頭ぐるぐるしてきて、他の商品を見に来ている紳士や婦人もみんな着飾った貴族。
俺は騎士の装いだから、一目で騎士団関係者とわかるだろう。
だが、これほど居心地悪いなんて……。
「――んん……?」
居心地の悪さに視線を落としたところ、不可解な色の物体が商品のベッドフレームの下をウゴウゴと動いているように見えた。
しゃがんで覗き込むと、魔物――スライム……!!
咄嗟に腰のナイフの柄に手をかけてしまった。
だが、なんだが動きが鈍い。
それに、普通のスライムよりかなり小さいな。
よく見るとスライム核に傷が入っている。
討伐されかけたが、なんとか逃げ延びたって感じか。
フレーム下の暗がりから掴んで取り出すと――こいつ、町の中を掃除する王都所有の公共魔物じゃないか。
スライムは取り込んだものを融解して自身の活動魔力に変える、核を潰すとアイテムも残さず消滅する最弱の魔物。
それを捕えて魔術研究所で王都内の清掃を担当するよう術を施したのが、公共魔物である。
なにをどうして核に傷を負ってしまったのか。
縮んで動きも鈍いのは核にある傷のせいだろうけれど……。
「おいで」
別に見捨ててもよかったと思うし、むしろ苦しい時間を長引かせるのだから、核を潰してやった方がいいのかもしれない。
でも、魔術で改造されて王都からも出られないようにされ、ただただ核がなくなるまで王都の人間が出すごみを食い続ける人生が哀れに感じてしまったのだ。
王都の外に出ることこそできないが、余生を穏やかに暮らせる場所に連れて行ってやるくらい別にいいだろう。
「フェリツェ?」
「ああ、なんでもない。今行くよ」
公共魔物のスライムを腰のポシェットに入れ、エリウスの方に歩き出す。
もうほとんど選び終わっていたらしく、エリウスに「これがいいと思うんだけれど。値段的にも」と紹介されたのは非常に重厚感のあるダークブラウンの枠に、低反発のマットレス。
南部で討伐されたビッグスワンの羽毛をふんだんに使って作った羽毛布団とシーツ。
クッションも同じ素材で、手触りも最高。
値段も中級貴族が背伸びして買えるレベルで、騎士団の施設に置くのに問題ない派手さはないがベッドフレームに彫り込まれた蔦の柄。
「値段っていくら……?」
「これくらい」
「おお……」
これなら平民としての良心も痛まない。
頷くと、エリウスが店主に頷いて「これで」と伝えてくれた。
そのあとは支払いや持ち帰りの相談。
俺はシーツや羽毛布団、クッションカバーの数を指定して、ベッドフレームとマットレス、毛布とシーツなど購入したものをエリウスの収納魔法に依頼した。
支払いは騎士団の名義で頼み、俺自身の懐はまったく痛くもなければ選ぶのもエリウスにやってもらって存在意義すら怪しい。
俺、いなくてもよかったのでは……?
「サクッと決まっちゃったな」
「そうだね。えっと、早めに買い物終わりそうだし、風の魔石を買う前にどこかで軽くなにか食べておく? 貴族街だからおしゃれで美味しいお店とかあるし」
「いやいや、騎士団の制服着てるんだからダメに決まっているだろう。ベッドだって一応、俺が借りている備品の扱いだし」
「あ、う……そ、そうだよね。ごめん」
さすがに休日でもないのにカフェでお茶なんて無理。
とはいえ、こんなにシュン……と落ち込まれると俺が悪いみたいな気持ちになる。
仕方ないなぁ。
「えーと、じゃあ、その屋台通りとかあれば、そっちでなにか摘まめるものを買って食べよう」
「ッ!うん!」
言ったあと「貴族街に屋台通りなんてあるのか……?」と首を傾げる。
まあ、最悪平民街の方に移動して――。
「う、ッヒ!?」
「フェリツェ?どうかした?」
「あっ……い、いや!なんでもない!ま、魔石、買いに行くか!」
「そうだね」
「…………っ」
92
お気に入りに追加
153
あなたにおすすめの小説

騎士団で一目惚れをした話
菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公
憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど
野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。
愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。
それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。
ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。
イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?!
□■
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!
完結しました。
応援していただきありがとうございます!
□■
第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m
出戻り聖女はもう泣かない
たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。
男だけど元聖女。
一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。
「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」
出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。
ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。
表紙絵:CK2さま
嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした
ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!!
CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け
相手役は第11話から出てきます。
ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。
役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。
そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!
ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません?
せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」
不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。
実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。
あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね?
なのに周りの反応は正反対!
なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。
勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる