子育て騎士の奮闘記~どんぶらこっこと流れてきた卵を拾ってみた結果~

古森きり

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3章 魔力なし騎士、寄りかかる

お買い物(2)

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「えっと……まずは小物から買った方がいいよな」
「いや、店が準備もしなきゃいけないだろうし、荷馬車に載せるのは大量の魔石になるだろうからベッドからの方がいいよ」
「え、でも……」
 
 大きなものを収納魔法で運ぶのは、魔力を大量に消費する。
 だから躊躇したのに、アリウスはあっさりと「え? 大丈夫だよ?」と余裕の笑顔すら浮かべて言い放った。
 あ……ああ……そう……そうね、お前の『先祖返りスキル』はハイエルフの『高純度魔力』と『全属性魔力』が使えるんだもんね。
 じゃあ、と家具屋にベッドを見に行く。
 
「うひゃあ……」
「これはこれは、リンファドーレのエリウス様。本日はなにをお探しですか?」
「ベッドを。大きさは――うーん、セミダブルで。普段使いようだが、騎士団所有の建物内で使用するものなので、頑丈で長持ち、そして万が一の時は王族も寝られるようなものがいいのだが……」
「かしこまりました。……でしたら――こちらのベッドはいかがでしょうか?」
 
 店に入るなり店主らしい初老の紳士がわざわざ対応に出てきた。
 なんならエリウスの顔と名前までしっかり知っていたのも驚く。
 こ、これが貴族街の店舗の対応……!
 自分の寝るベッドのことなのだが、どこ産の木をどんな魔物の牙や爪で骨組みをどうこうしたとか、マットレスにはどんな鳥型の魔物の羽毛を使っているとか、なんか頭ぐるぐるしてきて、他の商品を見に来ている紳士や婦人もみんな着飾った貴族。
 俺は騎士の装いだから、一目で騎士団関係者とわかるだろう。
 だが、これほど居心地悪いなんて……。
 
「――んん……?」
 
 居心地の悪さに視線を落としたところ、不可解な色の物体が商品のベッドフレームの下をウゴウゴと動いているように見えた。
 しゃがんで覗き込むと、魔物――スライム……!!
 咄嗟に腰のナイフの柄に手をかけてしまった。
 だが、なんだが動きが鈍い。
 それに、普通のスライムよりかなり小さいな。
 よく見るとスライム核に傷が入っている。
 討伐されかけたが、なんとか逃げ延びたって感じか。
 フレーム下の暗がりから掴んで取り出すと――こいつ、町の中を掃除する王都所有の公共魔物じゃないか。
 スライムは取り込んだものを融解して自身の活動魔力に変える、核を潰すとアイテムも残さず消滅する最弱の魔物。
 それを捕えて魔術研究所で王都内の清掃を担当するよう術を施したのが、公共魔物である。
 なにをどうして核に傷を負ってしまったのか。
 縮んで動きも鈍いのは核にある傷のせいだろうけれど……。
 
「おいで」
 
 別に見捨ててもよかったと思うし、むしろ苦しい時間を長引かせるのだから、核を潰してやった方がいいのかもしれない。
 でも、魔術で改造されて王都からも出られないようにされ、ただただ核がなくなるまで王都の人間が出すごみを食い続ける人生が哀れに感じてしまったのだ。
 王都の外に出ることこそできないが、余生を穏やかに暮らせる場所に連れて行ってやるくらい別にいいだろう。
 
「フェリツェ?」
「ああ、なんでもない。今行くよ」
 
 公共魔物のスライムを腰のポシェットに入れ、エリウスの方に歩き出す。
 もうほとんど選び終わっていたらしく、エリウスに「これがいいと思うんだけれど。値段的にも」と紹介されたのは非常に重厚感のあるダークブラウンの枠に、低反発のマットレス。
 南部で討伐されたビッグスワンの羽毛をふんだんに使って作った羽毛布団とシーツ。
 クッションも同じ素材で、手触りも最高。
 値段も中級貴族が背伸びして買えるレベルで、騎士団の施設に置くのに問題ない派手さはないがベッドフレームに彫り込まれた蔦の柄。
 
「値段っていくら……?」
「これくらい」
「おお……」
 
 これなら平民としての良心も痛まない。
 頷くと、エリウスが店主に頷いて「これで」と伝えてくれた。
 そのあとは支払いや持ち帰りの相談。
 俺はシーツや羽毛布団、クッションカバーの数を指定して、ベッドフレームとマットレス、毛布とシーツなど購入したものをエリウスの収納魔法に依頼した。
 支払いは騎士団の名義で頼み、俺自身の懐はまったく痛くもなければ選ぶのもエリウスにやってもらって存在意義すら怪しい。
 俺、いなくてもよかったのでは……?
 
「サクッと決まっちゃったな」
「そうだね。えっと、早めに買い物終わりそうだし、風の魔石を買う前にどこかで軽くなにか食べておく? 貴族街だからおしゃれで美味しいお店とかあるし」
「いやいや、騎士団の制服着てるんだからダメに決まっているだろう。ベッドだって一応、俺が借りている備品の扱いだし」
「あ、う……そ、そうだよね。ごめん」
 
 さすがに休日でもないのにカフェでお茶なんて無理。
 とはいえ、こんなにシュン……と落ち込まれると俺が悪いみたいな気持ちになる。
 仕方ないなぁ。
 
「えーと、じゃあ、その屋台通りとかあれば、そっちでなにか摘まめるものを買って食べよう」
「ッ!うん!」
 
 言ったあと「貴族街に屋台通りなんてあるのか……?」と首を傾げる。
 まあ、最悪平民街の方に移動して――。
 
「う、ッヒ!?」
「フェリツェ?どうかした?」
「あっ……い、いや!なんでもない!ま、魔石、買いに行くか!」
「そうだね」
「…………っ」


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