14 / 33
3章 魔力なし騎士、寄りかかる
お買い物(2)
しおりを挟む「えっと……まずは小物から買った方がいいよな」
「いや、店が準備もしなきゃいけないだろうし、荷馬車に載せるのは大量の魔石になるだろうからベッドからの方がいいよ」
「え、でも……」
大きなものを収納魔法で運ぶのは、魔力を大量に消費する。
だから躊躇したのに、アリウスはあっさりと「え? 大丈夫だよ?」と余裕の笑顔すら浮かべて言い放った。
あ……ああ……そう……そうね、お前の『先祖返りスキル』はハイエルフの『高純度魔力』と『全属性魔力』が使えるんだもんね。
じゃあ、と家具屋にベッドを見に行く。
「うひゃあ……」
「これはこれは、リンファドーレのエリウス様。本日はなにをお探しですか?」
「ベッドを。大きさは――うーん、セミダブルで。普段使いようだが、騎士団所有の建物内で使用するものなので、頑丈で長持ち、そして万が一の時は王族も寝られるようなものがいいのだが……」
「かしこまりました。……でしたら――こちらのベッドはいかがでしょうか?」
店に入るなり店主らしい初老の紳士がわざわざ対応に出てきた。
なんならエリウスの顔と名前までしっかり知っていたのも驚く。
こ、これが貴族街の店舗の対応……!
自分の寝るベッドのことなのだが、どこ産の木をどんな魔物の牙や爪で骨組みをどうこうしたとか、マットレスにはどんな鳥型の魔物の羽毛を使っているとか、なんか頭ぐるぐるしてきて、他の商品を見に来ている紳士や婦人もみんな着飾った貴族。
俺は騎士の装いだから、一目で騎士団関係者とわかるだろう。
だが、これほど居心地悪いなんて……。
「――んん……?」
居心地の悪さに視線を落としたところ、不可解な色の物体が商品のベッドフレームの下をウゴウゴと動いているように見えた。
しゃがんで覗き込むと、魔物――スライム……!!
咄嗟に腰のナイフの柄に手をかけてしまった。
だが、なんだが動きが鈍い。
それに、普通のスライムよりかなり小さいな。
よく見るとスライム核に傷が入っている。
討伐されかけたが、なんとか逃げ延びたって感じか。
フレーム下の暗がりから掴んで取り出すと――こいつ、町の中を掃除する王都所有の公共魔物じゃないか。
スライムは取り込んだものを融解して自身の活動魔力に変える、核を潰すとアイテムも残さず消滅する最弱の魔物。
それを捕えて魔術研究所で王都内の清掃を担当するよう術を施したのが、公共魔物である。
なにをどうして核に傷を負ってしまったのか。
縮んで動きも鈍いのは核にある傷のせいだろうけれど……。
「おいで」
別に見捨ててもよかったと思うし、むしろ苦しい時間を長引かせるのだから、核を潰してやった方がいいのかもしれない。
でも、魔術で改造されて王都からも出られないようにされ、ただただ核がなくなるまで王都の人間が出すごみを食い続ける人生が哀れに感じてしまったのだ。
王都の外に出ることこそできないが、余生を穏やかに暮らせる場所に連れて行ってやるくらい別にいいだろう。
「フェリツェ?」
「ああ、なんでもない。今行くよ」
公共魔物のスライムを腰のポシェットに入れ、エリウスの方に歩き出す。
もうほとんど選び終わっていたらしく、エリウスに「これがいいと思うんだけれど。値段的にも」と紹介されたのは非常に重厚感のあるダークブラウンの枠に、低反発のマットレス。
南部で討伐されたビッグスワンの羽毛をふんだんに使って作った羽毛布団とシーツ。
クッションも同じ素材で、手触りも最高。
値段も中級貴族が背伸びして買えるレベルで、騎士団の施設に置くのに問題ない派手さはないがベッドフレームに彫り込まれた蔦の柄。
「値段っていくら……?」
「これくらい」
「おお……」
これなら平民としての良心も痛まない。
頷くと、エリウスが店主に頷いて「これで」と伝えてくれた。
そのあとは支払いや持ち帰りの相談。
俺はシーツや羽毛布団、クッションカバーの数を指定して、ベッドフレームとマットレス、毛布とシーツなど購入したものをエリウスの収納魔法に依頼した。
支払いは騎士団の名義で頼み、俺自身の懐はまったく痛くもなければ選ぶのもエリウスにやってもらって存在意義すら怪しい。
俺、いなくてもよかったのでは……?
「サクッと決まっちゃったな」
「そうだね。えっと、早めに買い物終わりそうだし、風の魔石を買う前にどこかで軽くなにか食べておく? 貴族街だからおしゃれで美味しいお店とかあるし」
「いやいや、騎士団の制服着てるんだからダメに決まっているだろう。ベッドだって一応、俺が借りている備品の扱いだし」
「あ、う……そ、そうだよね。ごめん」
さすがに休日でもないのにカフェでお茶なんて無理。
とはいえ、こんなにシュン……と落ち込まれると俺が悪いみたいな気持ちになる。
仕方ないなぁ。
「えーと、じゃあ、その屋台通りとかあれば、そっちでなにか摘まめるものを買って食べよう」
「ッ!うん!」
言ったあと「貴族街に屋台通りなんてあるのか……?」と首を傾げる。
まあ、最悪平民街の方に移動して――。
「う、ッヒ!?」
「フェリツェ?どうかした?」
「あっ……い、いや!なんでもない!ま、魔石、買いに行くか!」
「そうだね」
「…………っ」
42
お気に入りに追加
79
あなたにおすすめの小説
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません
柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。
父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。
あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない?
前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。
そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。
「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」
今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。
「おはようミーシャ、今日も元気だね」
あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない?
義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け
9/2以降不定期更新
家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている
香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。
異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。
途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。
「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!
異世界に召喚されて失明したけど幸せです。
るて
BL
僕はシノ。
なんでか異世界に召喚されたみたいです!
でも、声は聴こえるのに目の前が真っ暗なんだろう
あ、失明したらしいっす
うん。まー、別にいーや。
なんかチヤホヤしてもらえて嬉しい!
あと、めっちゃ耳が良くなってたよ( ˘꒳˘)
目が見えなくても僕は戦えます(`✧ω✧´)
なぜか第三王子と結婚することになりました
鳳来 悠
BL
第三王子が婚約破棄したらしい。そしておれに急に婚約話がやってきた。……そこまではいい。しかし何でその相手が王子なの!?会ったことなんて数えるほどしか───って、え、おれもよく知ってるやつ?身分偽ってたぁ!?
こうして結婚せざるを得ない状況になりました…………。
金髪碧眼王子様×黒髪無自覚美人です
ハッピーエンドにするつもり
長編とありますが、あまり長くはならないようにする予定です
主人公は俺狙い?!
suzu
BL
生まれた時から前世の記憶が朧げにある公爵令息、アイオライト=オブシディアン。
容姿は美麗、頭脳も完璧、気遣いもできる、ただ人への態度が冷たい冷血なイメージだったため彼は「細雪な貴公子」そう呼ばれた。氷のように硬いイメージはないが水のように優しいイメージもない。
だが、アイオライトはそんなイメージとは反対に単純で鈍かったり焦ってきつい言葉を言ってしまう。
朧げであるがために時間が経つと記憶はほとんど無くなっていた。
15歳になると学園に通うのがこの世界の義務。
学園で「インカローズ」を見た時、主人公(?!)と直感で感じた。
彼は、白銀の髪に淡いピンク色の瞳を持つ愛らしい容姿をしており、BLゲームとかの主人公みたいだと、そう考える他なかった。
そして自分も攻略対象や悪役なのではないかと考えた。地位も高いし、色々凄いところがあるし、見た目も黒髪と青紫の瞳を持っていて整っているし、
面倒事、それもBL(多分)とか無理!!
そう考え近づかないようにしていた。
そんなアイオライトだったがインカローズや絶対攻略対象だろっ、という人と嫌でも鉢合わせしてしまう。
ハプニングだらけの学園生活!
BL作品中の可愛い主人公×ハチャメチャ悪役令息
※文章うるさいです
※背後注意
気づいたら周りの皆が僕を溺愛していた。
しののめ
BL
クーレル侯爵家に末っ子として生まれたノエルがなんだかんだあって、兄達や学園の友達etc…に溺愛される???
家庭環境複雑でハチャメチャな毎日に奮闘するノエル・クーレルの物語です。
若干のR表現の際には※をつけさせて頂きます。
現在文章の大工事中です。複数表現を改める、大きくシーンの描写を改める箇所があると思います。当時は時間が取れず以降の投稿が出来ませんでしたが、改稿が終わり次第、完結までの展開を書き始める可能性があります。長い目で見ていただけると幸いです。
2024/11/12
(第1章の改稿が完了しました。2024/11/17)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる