子育て騎士の奮闘記~どんぶらこっこと流れてきた卵を拾ってみた結果~

古森きり

文字の大きさ
上 下
13 / 45
3章 魔力なし騎士、寄りかかる

お買い物(1)

しおりを挟む

 翌朝、目が覚めると目の前にエリウスの綺麗な寝顔があって喉がヒュッと鳴る。
 その直後、顔に熱が集中し心臓がドッドッと早鐘になった。
 びっっっっっっっくり、したぁぁぁぁぁ……!!
 ゆっくり上半身を起こして、足をベッド下に下ろして着替えを始める。
 服、本当に洗濯してくれたんだな。魔法で洗ったのかもしれないけれど。
 とりあえずありがたく着替えて、借りた寝間着を畳んで枕元に置く。
 エリウスとアウモを見下ろすと、どっちもすやすや。
 カーテンを摘まんで様子を見る。
 太陽が昇りつつある――だいたい朝、五の刻くらいかな。
 いつもならアウモが起きるまでに朝食を用意していたけれど、今日の買い物で風の魔石を買ってくるか。
 ……まさかアウモが魔石を食べるなんて思わなかった。
 今日買うものリストに風の魔石を追加しておかなきゃ、忘れないように。
 でも、魔石はそれなりに高いし、騎士団の経費で落ちるのならその方がありがたい。
 いや、なんか昨日のマロネス様という方の話だと、国の経費でも落ちそう。
 ……国、ね……。
 国を挙げて“神”たる妖精竜を生育しようっていう思惑は感じていた。
 実際この世界の“風”を司る神なんだもんな……当たり前だよな。
 俺、本当にアウモを育てても――いや。それはもう、考えるのはやめよう。
 エリウスが『そんなことない』『フェリツェは間違いなく、アウモのお父さんだよ』って言ってくれたから。
 意識を変えろ、俺!
 俺はアウモのお父さん!
 俺がアウモを立派に育て上げるんだ!
 ……でも……こんなに早起きして……アウモとエリウスが起きるまでなにしてよう?
 もう着替えちゃって、二度寝もできないんだが。
 
 
 
 アウモとエリウスが目覚めてから朝食をいただき、宿泊と食事のお代を支払おうとしたらエリウスに大慌てで止められ、リーセンディールさんには「ほっほっほっ、貴族は平民に施されるのは屈辱に当たりますからおやめになった方がよろしい」と笑顔――でも目が笑っていない――で、財布の中にひっこめた。
 そうか、貴族ってそういう感覚なのか。
 素直にすみません……って謝ったよ……。
 そうか……平民とは常識が違うんだな。
 
「それではお気をつけて。またいつでもお越しくださいませ」
「今度騎士団の方に風の魔石を届けに行くから、またアウモくんと遊ばせてね~~~」
「あ、ありがとうございました。お邪魔しました」
 
 ペコペコ頭を下げながら、エリウスの自宅を出たあと騎士団の訓練場にアウモを連れていく。
 マリスとディックに「風の魔石が主食だったらしい」と話すとそりゃあもうびっくりされた。
 副団長もやってきて、同じ説明をして「町でアウモの昼食用に風の魔石を買ってきます」というと「全部経費で落とすから、領収書貰っておいで」とお金を寄越す。
 
「じゃあアウモ、お父さんお買い物に行ってくるからみんなといい子に待っているんだよ」
『パァウ……?』
 
 首を傾げるアウモが可愛い。
 その素直な瞳に胸が温かくなる。
 そうだよな、この子のお父さんになったんだもん。
 なんか心配だけれど、この子を町に連れて行くのは無理、だよなあ。
 見た目魔物だし、声はデカいし、落ち着きないから暴れて人様に怪我なんてさせたらと思うと……!
 無理無理! 可哀想だけれどお留守番!
 
「お土産買ってくるからね。いい子で、遊んで待ってるんだよ。お水はちゃんと飲んで、大きい声は出していいけど、物を壊したりせずみんなの言うことはよく聞いて……」
「早く行け! 早く行って早く帰ってこい!」
「ハ、ハァイ!」
 
 マリスに首根っこを掴まれ、エリウスに向かって放り投げられた。
 そ、それはそう! その通りだと思います!
 エリウスに苦笑いされながら町に急ぐことにした。
 町に行くのには、ベッドという大物を運ぶため荷馬車を借りていく。
 これは遠征で収納魔法で運べないものを乗せて運ぶためのもの。
 まあ、収納魔法で運べないものはあんまりないのだが、一部の巨大な魔石は魔力を含みすぎて魔法を形成する魔方陣を歪ませ、収納したものが取り出せなくなったり融合したり爆発したりするそうだ。
 なので魔力を帯びたものは収納魔法で運ばず、こういった荷馬車で運ぶ。
 あと、あまり大きな物も魔力を多く消費するらしい。
 そんな燃費の悪いことをするよりは、荷馬車で運んだ方がいいってことだ。
 エリウスに「俺が収納魔法で運ぶよ? そんなに長距離でも長時間でもないし」と言ってくれたけれど、風の魔石をたくさん買うのでどのみち荷馬車は必要だろうってことになった。
 エリウスの愛馬、ロッテに荷台を引いてもらい、御者をエリウスに任せて町に辿り着く。
 町は大きく四つの区画になっており、騎士団や貴族学園が並ぶ公的機関区画と併設されているのが貴族街の区画。
 一番大きなのは居住区画で、郊外にあるのが冒険者協会や平民の使う大市、俺たちの出身の孤児院がある商業区画。
 そして今回使うのは貴族街の商店街。
 俺たち一応正規の騎士なので、平民街の大市で安物を掴まされては外聞が悪い――らしい。
 見張り塔が一応騎士団所有の建物で、万が一の際は貴い方が泊まることもあるのでしっかりしたものを買ってこい、なんならオーダーメイドでもいい、と言われたがオーダーメイドは時間がかかりすぎます、と既製品を買ってくる気満々である。
 
「荷馬車は馬留に預けるとして――手分けして買い物した方がいいよな?」
「え? いやいや! 一緒に行くよ! 父上の名前が利く店の方が便宜を図ってもらえると思うし、騎士団の名前で買い物するってことは半端なものを買えないから……」
「えっと……なんか貴族のつき合いみたいなのがあるってこと……?」
「そ、そう!」
 
 そうなのか。
 貴族って色んなしがらみがあるらしいもんな。
 じゃあ、エリウスの言う通りにしよう。
 俺じゃそういう下手なことやらかしそうだし。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】元魔王、今世では想い人を愛で倒したい!

N2O
BL
元魔王×元勇者一行の魔法使い 拗らせてる人と、猫かぶってる人のはなし。 Special thanks illustration by ろ(x(旧Twitter) @OwfSHqfs9P56560) ※独自設定です。 ※視点が変わる場合には、タイトルに◎を付けます。

異世界転生した俺の婚約相手が、王太子殿下(♂)なんて嘘だろう?! 〜全力で婚約破棄を目指した結果。

みこと。
BL
気づいたら、知らないイケメンから心配されていた──。 事故から目覚めた俺は、なんと侯爵家の次男に異世界転生していた。 婚約者がいると聞き喜んだら、相手は王太子殿下だという。 いくら同性婚ありの国とはいえ、なんでどうしてそうなってんの? このままじゃ俺が嫁入りすることに? 速やかな婚約解消を目指し、可愛い女の子を求めたのに、ご令嬢から貰ったクッキーは仕込みありで、とんでも案件を引き起こす! てんやわんやな未来や、いかに!? 明るく仕上げた短編です。気軽に楽しんで貰えたら嬉しいです♪ ※同タイトルの簡易版を「小説家になろう」様でも掲載しています。

騎士団で一目惚れをした話

菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公 憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。

嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした

ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!! CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け 相手役は第11話から出てきます。  ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。  役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。  そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。

【完結】浮薄な文官は嘘をつく

七咲陸
BL
『薄幸文官志望は嘘をつく』 続編。 イヴ=スタームは王立騎士団の経理部の文官であった。 父に「スターム家再興のため、カシミール=グランティーノに近づき、篭絡し、金を引き出せ」と命令を受ける。 イヴはスターム家特有の治癒の力を使って、頭痛に悩んでいたカシミールに近づくことに成功してしまう。 カシミールに、「どうして俺の治癒をするのか教えてくれ」と言われ、焦ったイヴは『カシミールを好きだから』と嘘をついてしまった。 そう、これは─── 浮薄で、浅はかな文官が、嘘をついたせいで全てを失った物語。 □『薄幸文官志望は嘘をつく』を読まなくても出来る限り大丈夫なようにしています。 □全17話

鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?

桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。 前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。 ほんの少しの間お付き合い下さい。

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。 愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。 それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。  ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。 イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?! □■ 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 完結しました。 応援していただきありがとうございます! □■ 第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

処理中です...