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2章 王族騎士、子育てお手伝い
リンファドール家にお泊り(2)
しおりを挟む「はあ……。そういうことでしたら……。しかし、エリウス様のご伴侶となるのでしたら、経験という形で体験していただいた方がよろしいのでは?」
「ちょ……! リーセンディール!」
「ご晩酌?」
ものすごい聞き間違いしてる! 可愛い!!
じゃ、なくて!
「あ、い、いいね。晩酌。する?」
「いや、アウモがいるから酒は飲めないかな。夜トイレに行くと起きてついてきちゃうし」
「え、そうなんだ」
「うん。不安そうにトイレの前で待っているところが可愛いんだぁ」
と、ベッドに横たえられたアウモの頭を撫でているフェリツェ。
ああ、うん、可愛いな。フェリツェが。
『パォウ……』
「あ、起きちゃった。アウモ、今日はエリウスの家でお泊りだよ」
『ンパア? ンパア!』
ベッドの上で立ち上がり、フェリツェの腿に抱き着いて抱っこをせがむアウモ。
うちの用意した服をベッドに戻し、替わりにアウモを抱き上げる。
すると嬉しそうに目を細めてフェリツェの首元に額を擦り寄せて、それがまた可愛い。
可愛いし、羨ましい。
羨ましいし、フェリツェがアウモを愛おしそうに撫でながら体を揺らしながらあやす姿が懐かしく見える。
ああ、そういえば新しく赤子がやってくるとああして抱き上げて体を揺らしてあやしていたな。
俺はフェリツェと一歳しか差がなくて、ああしてあやしてもらった記憶はないけれど……やっぱり赤子をあやしているフェリツェは聖母のようだ。
……魔人国には男の胎に魔次元子宮を作り、毎日魔力を注いで育てれば男同士でも赤子を作れると聞いたことが………………。
「あ、すみません。着替えますので……あの……」
「ハッ……!」
「かしこまりました。エリウス様はいかがしますか?」
「え、ええと……そうだね、俺も……着替えるよ」
「それでは御用がありましたら扉前のベルでお呼びください」
リーセンディールとともに、一度退出する。
しまる扉に隙間から最後に見たのはアウモに慈しみの眼差しを向けるフェリツェ。
ああ……本当に……綺麗だな。
「よろしいのですか?」
「え、なにが」
「リンファドール公爵家は代々王家の後添えの家。現国王陛下が退位されれば現王陛下がリンファドール公爵家を継がれることでしょう。エリウス様は家から出て新たな爵位、苗字とともに、独立を勧められるかと。その際、それなりの両家の女性妻を娶り家の存続をさせるもよし、長く想ってきた方と世継ぎなど考えずに余生を過ごすもよし……自由ですよ、あなたは。貴族社会でこれほど恵まれた選択肢があるあなたは珍しい」
「そ……そんな……いいの?」
驚いて自室前で立ち止まって振り返ってしまった。
強くコクリ、と頷くリーセンディール。
俺は貴族に産まれたからには、女性妻は絶対に娶らなければと思っていたけれど……世継ぎを作らなくてもいい。男性妻だけで、この公爵家を継ぐ必要もないと言われるとは思わなかった。
「ええ。カニュアス王家にはすでに後継ぎもおりますからね。しかし……もしもお子を作るのでしたら、そのお子は王家に戻さなければなりませんよ。カニュアス王家の血筋は先祖返りスキルがありますから」
「うん……」
「父君もそれは反対されますまい。あとはアウモ様ですね。そのあたりは保護者となったフェリツェ様の決めること。そして、フェリツェ様との関係はエリウス様の努力次第ですな」
「そ、そうだね……がんばるよ」
そんな話をしたあとに、部屋着に着替えてフェリツェの部屋に向かう。
特にやることもないと思っていたが、昼寝したアウモはチャージ完了とばかりに部屋の中を探検。
ゲストルームにあった家具や調度品、撤去しておいて本当によかった……と思った瞬間だった。
なお、ウェルカムフルーツの乗ったテーブルは体当たりで壁まで吹き飛び、椅子の足は齧られ、ベッドの下に潜り込んで下からドスンドスン蹴り上げてそれは本当に慌てた。
痛んでいたベッドならひとたまりもない攻撃……!
夕飯は食堂で、と思っていたがベッドの下からアウモが出てこないので食事は部屋で、ということになり、俺とフェリツェでなんとかアウモを引っ張り出してマロネスさんが用意した食魔植物のサラダ、地水火風の四種魔石の盛り合わせ、いつも食べさせていた果物の果物盛り合わせを立て直したテーブルに並べて見せてみる。
すると、アウモは目を輝かせて風の魔石をバリバリ食べ始めた。
「これは……!」
いつの間にか部屋に侵入してきたマロネスさんが、それを見て使用人に風の魔石の追加を持ってこさせると、それもぺろりと平らげた。
全員顔を見合わせる。
「これは……間違いなく『風の妖精竜クロースカイウィンド』様の転生体」
「風の妖精竜、ってことですか?」
「そうですね。そして、アウモさんの主食は……風の魔石!」
これには俺もフェリツェも予想外すぎて顔を見合わせてしまった。
絶対に俺と同じ気持ちだったと思う。
そんなのわかるか!!
「風の魔石はこちら――研究所の方で用意いたしましょう。さすがに騎士団の方で魔石を確保するのは大変でしょう」
「いいんですか?」
「もちろんです! 今後もぜひ研究所の方に成長を見守らせていただきたい」
「えっと、まあ……それはこちらとしても助かります……けど……」
リーセンディールがグイグイと顔を近づけるマロネスさんの襟首を引っ張って引き剥がす。
だが、困惑していたフェリツェも、アウモが食事を嫌がらなくなったのを見てわかりやすく安堵しているようだった。
食事時間、毎食大暴れしていたけれどちゃんと理由があったんだな。
なんとなく、最初の難関を乗り越えられたように思えた。
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