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2章 王族騎士の子育てお手伝い

妖精竜の幼体

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「フェリツェ、アウモのことなんだけれど」
「ちょっと待って!」
「お、おん……なにか手伝う?」
「マジで!? ちょっとアウモのご飯あげてもらっていい!?」
「うん。ゆっくり身支度しておいで」
 
 フェリツェが遠征先で拾った卵が孵ってから三日。
 生まれた子竜は『アウモ』と名づけられ、鳴き声などの騒音問題から南の森の見張り塔一階、管理人室に住居を移した。
 俺は騎士団近くの別宅を借りてそこから出勤しているので、寮から見張り塔にフェリツェが移動したのは、むしろ距離が近くなったぐらいなのだけれど……。
 朝、朝食を早めに摂るようにしてすぐにフェリツェのところに顔を出すと、同じモウモの実に飽きたのか暴れているアウモ。
 そして自分の身支度もままならないまま、アウモの吹っ飛ばした木皿を片付けながらも朝食をなんとか食べさせようとしているフェリツェ。
 モウモの実ではない、別の果物を切って出したようだが気に入らなかったらしい。
 寝ぐせでぼさぼさの髪のまま、アウモが放り投げて床に散らばった果実の汁で足を滑らせる。
 危ない、と咄嗟に背中を支えてやると、驚いた顔で見上げられた。
 ああ、可愛い。
 
「大丈夫?」
「うん、大丈夫。ありがと」
「アウモにご飯あげるのは俺に任せて」
「ごめん、頼む」
 
 洗面所に向かうフェリツェはよく見ると寝間着のままだ。
 顔を洗ったり寝癖を整えるどころか、着替える時間もなかったのか。
 
『パウウウ! パオ! パオァ!!』
「ダメだよ、アウモ。朝はとても忙しいんだから我儘を言って困らせては」
『プオォオン!』
「あいたぁ!?」
 
 抱き上げたアウモから突然の頭突き!
 手が緩んだ瞬間、アウモが俺の手から離れて床に下り、部屋の中をぐるぐると駆け回る。
 こ、これは……想像以上に……!!
 
「こら、アウモ! 君は――この世界で自然を司る妖精竜の一体なんだろう!? 記憶が戻ってから恥ずかしくて死にたくなるぞ、そんなに子どもみたいに暴れたら!」
 
 ――そう、二日前に魔道師団長シャルル様にアウモを見せて「なにを食べるのか」「これはもしや本物の竜なのでは?」「この環境で育てていいのか」などを質問するために会いに行った。
 ハーフエルフとドライアドのクォーターであるシャルル魔道師団長はアウモを見るなり「本物の竜。というか、神竜。恐らく四体の妖精竜の一体」と断言したのだ。
 なにをおっしゃっている? と最初は思ったが、魔道師団副団長も完全に同意見。
 そんなことを言われてフェレンツェと顔を見合わせた。
 で、魔道師団長と魔道師団副団長双方にこの子の世話をどうするべきか、具体的に聞いてみたところ「わからない」と即答。
 一応、お二人とも忙しい中妖精竜の幼体時期のことを調べてくれるとのことだが、そもそも妖精竜? 妖精竜の眷属ではなくて?
 首を傾げる俺とフェリツェに向かって、シャルル魔道師団長は妖精竜の生態の中でわかっている内容を教えてくださった。
 曰く、妖精竜はフェニックスと同じく親が死と同時に卵に転生する。
 卵から孵ると幼体期を経て成体となり、前世の記憶を取り戻して神として完成する――らしい。
 
「その、幼体期というのは……どのくらい……」
「わからん。そもそも妖精竜は自然を司る神だ。寿命があるわけではない。その妖精竜が転生した理由の方が気になるな。最近魔物が増えている地域の川から妖精竜の卵が流れてきた、というのもなにか理由があるのでは……。今度の遠征予定、繰り上げて少し日数を多めに取って調査した方がいいか」
 
 と、言い出した。
 つまり、アウモは妖精竜――この世界の神の一体。
 フェリツェは不安そうに「この子は……どう育てればいいのでしょうか……?」と聞くが、さすがの魔道師団長、副団長も「わからん」と首を横に振った。
 とりあえず魔物竜――巨大に進化したトカゲ――のように育ててみて、とのことだ。
 だから我が国唯一の竜騎士であるセラフの話しを聞きながら、セラフの愛竜を参考に生育することにしたのだが……。

「ほら、アウモ。モウモの実が嫌ならナナバの実もあるよ。ご飯を食べないと」
『パウウン!』
「もう……あとでお腹が空いても知らないよ」

 というか、あの様子だとフェリツェもご飯食べていないよね?
 なにか作っておいてあげたいんだけど……。
 アウモは部屋を駆け回り、暴れる。
 時折扉に体当たりをして『パァァァァァア』と文句を言っているような……?
 あ、もしかして……!

「ごめん、エリウス!」
「大丈夫。フェリツェ、多分アウモはまだお腹が減ってないんだと思う。お散歩に行きたいんじゃないかな? 扉から出たがっているみたいに見えるんだ」
「ええ? ……そうなの? アウモ」

 フェリツェが膝を折って床のアウモに話しかけると、アウモが『パウウン!』と鳴いた。
 顔を見合わせてから、朝食を食べ終わっている俺が散歩に連れて行ってあげることを提案してみる。

「ええ? そんな……悪いよ」
「大丈夫。俺はもう家で朝食を取ってきているし。フェリツェはまだでしょう? 俺に任せてよ」

 任せて。頼って。フェリツェ、俺に。
 そんな一方的な願いを込めて自分の胸を叩く。
 フェリツェが困ったように眉尻を下げ、しかし口許に柔らかな笑みを浮かべてから「それじゃあ……お願いしてもいい?」と言ってくれた。

「もちろん! 任せて! さあ、行こう、アウモ。お散歩だよー!」
『パォゥー!』

 やはり竜、賢い。
 俺の言葉がもう理解できているようにしか見えない。
 ぴょんぴょんと飛び跳ねて、俺よりも先に扉の前へ走っていった。
 管理人室を出る前にフェリツェを振り返り、手を振る。
 フェリツェも手を振り返してくれた。
 可愛い。……愛しい。

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